第134話 女神として6 重要な話
私たちは、用意された部屋へと移動し、三人きりになる。
そこで私は「ゴッドウイング」の魔法を解いた。
神々しい光と翼が消え、元の姿に戻る。
「……ねぇ、どう? 驚いた? 私、実は神様だったの」
「――あ、でも今まで通り、普通にしゃべってね」
私は笑顔となるように表情を作りつつ恐る恐る二人を見た。
するとムートがあっさりと返す。
「なんとなくわかってたぞ」
う、うぅっ……。
続けて、キュレネが淡々と口を開いた。
「あなたが“ハイヒューマン”だって聞いて、学園にいたときにちょっと調べたのよ。けど、どう考えてもハイヒューマン以上の能力だったわ。それに、ゴーレムや大量のアーティファクトを持ってるのもおかしいって思ってた」
「アーティファクト……?」
「そう。学園時代に住んでた家――あれ、家具も備品も、ほとんどがアーティファクトだったでしょ。さすがに突っ込めなかったけど。
しかも、調べれば調べるほど、歴代の“神様”よりも強かったから……もしかして、“神様より上”なんじゃないかって思ったくらいよ」
ううっ……。
驚きが薄いどころか、そこまで見抜かれていたなんて……。
どうやって正体を明かすか、悩んでた自分がバカみたいだ。
「そうだったのね……。
――実は、かなり重要な話が二つあるの」
「なんだか怖いわね……」
「一つ目は“魔王”について。
今ゴルフェにいる個体とは別に、近いうちに“もう一体”新たな魔王が現れる。
できれば、どちらか一方はあなたたちの手で倒してほしいの」
「えっ……!? もう一体出てくるの!?
いつ、どこに?」
「まだ、詳しい場所や時期はわからないわ」
「だったら……ゴルフェにいる方を、私たちが倒すわ」
「わかった。
でも、シドニオ帝国が邪魔をしてくる可能性がある。私のゴーレムの調査では、帝国はすでに異常な状態になっている。
皇帝はすでに死んでいて、それを操っているのは“パウロニア将軍”――そして彼は魔人よ。
魔王を頂点とする勢力を構築しようとしているの」
「……エレメンタルマスターの力がどれほどか、まだ分からないけど、相手が“魔人”と“帝国軍”となると、一筋縄ではいかないわね」
「私としては、この危機を人類だけで乗り越えてほしいの。
一応、魔王討伐軍までは編成するわ。 クヴァーロン王国のインテーネに、ちょうどいい拠点を確保したから、そこに人材を集めるね」
「ありがとう。でも……“人類だけで”って言いながら、もうかなり手を貸してるじゃない」
「まぁ……魔王がもう一体出てきたら、手を貸すつもりでいるし、そういう細かいことは気にしないのよ」
「……それで、もう一つの話は?」
「こっちの方が、もっと深刻なの」
「……魔王より深刻って……正直、聞きたくないわね」
「このままだと――人類は近いうちに滅びるわ」
聞いていた二人の表情が一瞬固まる。
「滅びを回避するためには、“神の知識”を人類に開放する必要があるの。
そのとき、エレメンタルマスターであるあなたに、その情報の管理を任せたいの」
「ごめん……話が急すぎて、ちょっとついていけない……」
「あとで詳しい資料を渡すけど、この世界は“神が作った装置”で成り立ってるの。
その装置が老朽化していて、このまま放っておくと、人類どころか多くの生命が絶滅してしまう。
しかも、この世界の神はすでに“滅んでる”。
つまり、誰もメンテナンスをしていない状態なの」
「……」
「でも、人類自身がその装置を更新することができれば、滅びは回避できる。
そのために、私は“神の知識”と“技術”を伝えるため、別の世界から呼ばれてきたの。
今は神様をやってるけど――本来は、この世界の神じゃないのよ」
「……なんか、とんでもない話ね」
「そうなのよ……」
その後、私は再び“神の姿”に戻り、グレゴリオ大神官長を呼び寄せた。
「すでに情報は届いているかと思いますが、ゴルフェダンジョンの封印は破られました。
キュレネを中心とした“魔王討伐軍”を編成します。精霊教会としても、各方面へ協力を呼びかけてください。
討伐軍の拠点は――クヴァーロン王国、インテーネです」
「はっ、かしこまりました」
「それから三ヶ月後に、この世界に関する“最重要案件”を公表します。
場所はこの大神殿の『降臨の祭壇』。各国に通知し、それぞれの責任者の出席を要請してください。
出席を拒む場合、人類滅亡の可能性が“極めて高まる”と警告しておいてください」
「……承知いたしました」
任務を託すと、私は転移装置を使ってアトマイダンジョンへと戻る。
そこからは、これまで築いてきた人脈――そして私のゴーレムたちが築いた情報網を駆使して、各地に“魔王討伐軍への参加”を呼びかけさせる。
あとは……
新たな魔王の出現に警戒しながら、成り行きを見守ろう。
今の私は、ゴーレムを通じて各国の動向を把握できる。
どうやら、世界中が騒然としているようだ。
――ゴルフェダンジョンの魔王封印が破られた。
――数百年ぶりに神が顕現した。
――新たなエレメンタルマスターが誕生した。
この三つの出来事は、瞬く間に全世界を駆け巡り、まさに激震を与えた。
そして、私自身の噂も――同じように広まっている。
「黒髪の子供冒険者が、実は神様だったらしい」
「“黒の聖女”の正体が、神だったって――!」
……もう気軽に外は歩けない。
それでも、これまで関わってきた人々は、今や積極的に協力の手を差し伸べてくれている。
■ 魔王討伐軍への参加者たち:
• トゥリスカーロ王国からは、アーティ王子率いる第四騎士団と数千の兵。
• バンパセーロ王国からは、騎士団に加えポルシーオ家が派遣したオディン隊長とその部隊。
• ドライステーロ王国からは、生徒会時代のルーカス王子、さらにムシュマッヘの配下となったディスカバリーも参加。
• オキサーリス王国からは、かつて闘技大会で戦ったレスターク王子、そしてクラン・エフシー。
• ウィステリア神国からは、ヴァルキュリア聖騎士団およびシルフィード聖騎士団。
• クヴァーロン王国からは、ザヴィア王子率いる主力部隊が出陣。
• ゴルフェ島からの避難民の中にも、自発的に参加を申し出る者が多数現れた。
• さらに、ドゥティリ共和国およびロンタクルーソ王国からも騎士団が派遣されてきている。
――こうして、魔王討伐軍はおよそ一万人規模となった。
決して統一された軍ではない。だがその一人ひとりが、それぞれの王国や組織で一線級の実力者ばかりだ。
この関心の高さなら、3か月後の話も大丈夫そうだと改めて実感する。
魔王討伐軍の出陣を前に、インテーネには各国の精鋭が続々と集結し、ついに出発の準備が整った――。
……その矢先だった。
シドニオ帝国が、我々の動きを察知し、軍を進めてきたという報が入る。
このままでは背後を突かれる恐れがある。
魔王討伐へ向かうには、まずこの問題を片づけねばならない。
そんな折、シドニオ帝国南部――プラピーノで反乱を指揮する人物であるベルフローウェル将軍から、共闘の打診が届く。
彼の意図は「帝国軍を挟撃するため、こちらと呼応して攻め込む」という戦略だ。
キュレネたちはその提案を受け入れ、討伐軍を率いて、シドニオ帝国との決戦に出陣することを決めた。