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第131話 女神として3 状況急変

 しばらくの時が流れ、新たな魔王の誕生が近づいてきた。


 そろそろ「女神」を名乗る覚悟を決めなければならない、そう思い始めていた頃——

 私に関する妙な噂が流れ始めた。


 その内容は、「私が強い」というもの。


 ……悪い噂ではない。むしろ良い部類だ。けれど、それゆえに何かしらの“意図”を感じる。


 気になって出所を探ると、案の定、モントリブロ宰相が関わっていた。


 ——なるほど。


 以前、私が噂を流して彼らの計画をちょっとばかり邪魔したことがあったけれど……


 今度は宰相がなにかたくらんでいるというわけか。


 少し警戒しておこう。


 そんな矢先、ゴーレムから緊急連絡が入った。


 内容は、


「シドニオ帝国南部の反乱鎮圧に向かったはずの正規軍の一部、

 その中でも魔人ガルサス率いる一軍が、トゥリスカーロ王国のゴルフェ島へ向かっている」


 というものだった。


 ……ゴルフェ島。今そこにはキュレネたちがいる。


 私は、彼女に同行しているゴーレム「クルール」を通じて、すぐにこの情報を伝えた。



 しかし——


 なぜ、ゴルフェ島を狙う?


 これは、ちょっとまずい。


 あの島には、魔王封印で生じたで“呪いもどき”により、島民は島の外へ出られない。


 当然、キュレネたちは島民を見捨てることなどしない。


 となれば、迎え撃つ展開になる可能性が高い。


 ……いざという時は、“ディバインナイト”と呼ばれる騎士型ゴーレムをこっそりゴルフェ島に送り込むしかないか。




 しばらくすると、スピカ王女から相談があった。


 どうやら、モントリブロ宰相が、インテーネ奪還の任務を私たち王女陣営に振ろうとしているらしい。


 ——インテーネ。

 シドニオ帝国と国境を接する重要な要所。


 現在は、町ごとアンデッドに占拠されているという厄介な場所だ。


 シドニオ帝国が南部の反乱にかかりきりの今、この隙に要所を取り戻すという判断は、戦略的には理にかなっている。


 ……つまり、「私が強い」という噂は、ここへ誘導するための布石だったというわけか。


 面倒なことをしてくれる。


 とりあえず、スピカ王女に、インテーネの状況を詳しく知る者を集めてもらい、情報を整理することにした。


 得られた情報は次のとおり:


  • 町にはアンデッドが1万体以上存在する。

  • アンデッドは生者を見ると即座に襲いかかってくる。

  • 町の中で死ぬとアンデッドになる。

  • 町の中心部にある城には高位のアンデッドがいる。

  • その城は強力な結界で守られており、容易には近づけない。


 前回の遠征では、なんとか町のアンデッドを突破して城の前までたどり着いたものの、

 結界で足止めされている間に、高位のアンデッドの強力な魔法攻撃を受け、

 さらに背後から町中のアンデッドに襲われるという、挟み撃ちの地獄絵図となったらしい。


 結果、多くの犠牲を出し、町のアンデッドの数はむしろ増えてしまったという。


 なるほど、そういう状況か……。


 高位のアンデッドの撃破と、結界の解除が鍵。

 加えて、犠牲を出さない戦術が求められる。下手をすれば、敵の数をさらに増やすことになる。


 さて——どう動くべきか。


 考えがまとまる前に、私はスピカ王女と共に国王のもとへ呼び出された。


 そして始まった謁見。


「此度そなたらを呼んだのは、インテーネ奪還を任せようと思ってのことだ」


 ……やはり来たか。


 モントリブロ宰相はしてやったりといった表情を浮かべている。


 あの噂も、この流れも——すべてはこのための布石だったというわけね。


「聞けば、ティア。おぬしは回復魔法だけでなく、戦闘能力も非常に高いらしいな。

 客人としてここにいるだけでは物足りなかろう。協力してはくれぬだろうか」



 どう答えるべきか考えかけた、そのとき——



 ゴーレムから緊急連絡が入る。


「魔人ガルサスが、自らの命を触媒に魔法を発動。ゴルフェダンジョンの封印を破壊しました」

 

 ……は? 何この展開。


 封印って、外側から破れるものだったの……?


 いや、普通じゃない。

 おそらくは、魔人を犠牲に封印を破壊する禁断の魔法を開発し、それをガルサスに使わせたのだろう。


 そんなことを魔人にさせられるのか?


「それで、魔王は?」


「いまのところ、地上に現れる気配はありません。おそらく、力を取り戻すまで時間がかかるものと思われます」


 ……どうする?


 本来なら、新魔王が現れて人々が困ったときに、女神として降臨する予定だったのに。

 でも、このままでは最初に被害を受けるのは、ゴルフェ島にいるキュレネたちだ。


 封印が破られた今、島民は島外への避難が可能。

 ただ、魔王が本格的に動き出す前に、何らかの対処は急務だ。


 とはいえ、私が出ていってすべて解決してしまっては、新魔王も旧魔王も私が討伐することになりかねない。


 それは避けたい。


 ——この世界を任せるエレメンタルマスターには、魔王討伐という「実績」が必要だろう。


 よし。


 すぐにキュレネをエレメンタルマスターに任命しよう。


 神国の祭壇から、正式な任命を通じて。


 私は遠隔で、ウィステリア神国大神殿の祭壇の間の祭壇に神として緊急指令を送った。


「キュレネ・マルヴァをエレメンタルマスターとして任命する。至急、降臨の祭壇へ呼び寄せよ」


 その情報を、ゴーレムを通してキュレネへ伝える。


 しばらくして、キュレネから返答があった。


「今、シドニオ帝国軍と小競り合いしているのだけど、この後本格的に上陸してきそうなの。

 私が大神殿に行っている間、島民を守れなくなってしまう……」


「わかった。魔王の出現の恐れもある。島民は全員、クヴァーロン王国のインテーネで受け入れることにする。それでいい?」


「わかった。ありがとう。お願いするわ」


「では、島民の避難誘導はギルタブリルに任せる。キュレネはクルールを護衛につけて大神殿へ。気をつけてね」


「ありがとう。ムートと3人で向かうことにするわ」


 キュレネが大神殿に到着するまで、早くても5日はかかる。

 同様に、島民がインテーネに避難するのも5日ほどかかる。


 ——その間に、インテーネを奪還しておく必要がある。




「おい、ティア、聞いておるのか?」


 おっと、国王との謁見の途中だった。


「もちろん、聞いております」


この件、面倒ごとだと思ったがむしろ都合がいい。

これにもゴルフェが介入しているのだろうか?


 私はゆっくり顔を上げ、堂々と言い切った。


「では——速攻でインテーネを奪還してみせます」


 その場の空気が揺れる。


 列席者たちがざわめいた。


「兵は、いかほど必要だ?」


「奪還は私ひとりで対処します。

 ただし、奪還後の町の復興と死者の弔いのため、人員を出していただけますか?」


「な、なんだと……。どうやって戦うつもりだ?」


「情報では、アンデッドは生者に群がり、生者が倒されればアンデッド化するとのこと。

 であれば、私がゴーレムを使います。生者ではありませんからアンデッドの対処は遥かに容易です」


 沈黙が一瞬、場を包む。


「……なるほど。自信があるようだな。

 よかろう。いつ出発する?」


「今すぐに出ます」


「待て、それではこちらの人員が間に合わん」


「準備できた方と王女の手勢で向かいます。

 あとの方々は後から追ってきてください」


 しばしの沈黙ののち——


「……よかろう。任せるとしよう」


 自信満々に言い切ったとはいえ、こんなにあっさり信じていいの?


 まあ、王陣営の被害はほとんど出ないし、向こうには他に打つ手もないのだろう。

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