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第13話 女神モードと魔法の練習

「明日から一週間ほど、休息日にしましょう。各自、自由行動でいいわよ」


 体を休め、万全の体調を整えるのも冒険者の務めだ。通常なら武器の手入れも必要になるが、私の武器はエンチャント魔法が効きすぎているせいで、ほとんど損傷していなかった。


 この休みの間にやりたいことが二つある。


 一つは、"女神モード"を自分の意志で発動できるようにすること。

 もう一つは、魔法を習得することだ。


 普段の状態でも強化されているとはいえ、同年代のキュレネやムートと比べるとまだ力不足だ。それに、オオグモには危うくやられるところだった。


 万が一のために、"女神モード"や魔法を自在に扱えるようにならなければ危険だと思う。


 女神モードについては、前回の二度目の発動で、発動条件をほぼ確信したつもりだった。そこで、町へ戻る途中にこっそり試してみたのだが、うまく発動できなかった。


 発動条件は、おそらく「本当に切羽詰まった状況で、相手を定めずに『助けてほしい』と強く願うこと」だと思う。しかし、実際に切羽詰まるような状況にならないせいか、発動には至らなかった。


 さすがに宿の中で女神モードを試すのは気が引けたので、町の外に出て試そうと考えている。

 とはいえ、ここしばらくはかなりハードな生活をしていたので、まずは二日間、宿でゆっくり過ごした。



 そろそろ暇になってきたし、明日は外に出ようかな。

 どの魔法を練習しようか。とりあえず、洗浄魔法は使えるようになったし、水も出せる。次は火魔法がいいかしら。外での生活が多いから、水と火が使えればかなり便利よね。


 本当は強力な攻撃魔法を覚えたいところだけど、いきなりは無理だし……。


「火魔法を練習するのにいい場所ってある?」


「この町の西側の岩場周辺かしら?」


「それより先に、回復魔法を覚えたほうがいいわよ。火魔法の練習中にやけどするかもしれないから」


「ありがとう」


 ついでに、そこで女神モードの練習もしちゃおう。


 次の日。

 昼過ぎ、西側の岩場へ向かった。人目につかない場所を選び、早速「女神モード」を試してみる。


 本気でお願いする。


『助けて』


 瞬間、体の奥から力がみなぎる――女神モードへ移行した。


 えっ、いきなり成功? 今までと何が違うの?

 驚きのあまり、何もできないまま時間切れ。


 あー、何もできなかった……。


 でも、方法は間違っていなかったみたい。

 よし、もう一回!


『助けて』


 ……何も起こらない。

 あれ? さっきと何が違うの?


 その後、何度試しても女神モードに移行することはなかった。


 仕方ない。回復魔法の練習をしよう。


 練習するのは、大聖女が使ったとされる幻の回復魔法『エクストラヒール』。誰も使えないと言われていたが、なぜか私には使えそうな気がする。むしろ、魔法書に載っている普通の『ヒール』よりも簡単に感じる。


 『エクストラヒール』については、普段は通常の『ヒール』っぽく使いたい。だから、効果のコントロールは必須だと思う。掛け声も「ヒール」にしておこう。


 右手を開いて――


「ヒール」


 瞬間、右手が緑色の光で輝きだす。


 できた……よね?


 出力の調整はまだ全然だけど、何かの魔法は発動しているみたい。


 ……でも、これ、けが人がいないと効果わからなくない?

 一人で突っ込んでみる。


 そういえば、キュレネが「火魔法を使うとやけどする」って言ってたっけ。

 やけどをしたら効果が確認できるかも……。それってどうなの?


 ――まあいいか。


 えーと、火魔法は……この魔法陣か。

 よし、やってみよう。


「ファイヤー」


 一瞬、小さな火がポッと灯り、すぐに消えた。

 ……成功ね。


 もうちょっと大きな炎を出したい。


「ファイヤー」


 今度はバスケットボールくらいの大きさの炎が現れたが、すぐに消えた。

 というより、驚いて魔法の継続ができなかった。


 ――夕方まで練習したが、結局ほとんどが出力調整の練習になってしまった。

 火の魔法の扱いは想像以上に難しく、まともな攻撃魔法を使えるようになるには相当時間がかかりそうだ。


 しかも、幸か不幸か一度もやけどはしなかった。

 つまり、『エクストラヒール』の効果は確認できなかった。


 うーん……先は長いな。


 次の日。朝からまた岩場にやってきた。


 まずは、女神モードを試してみる。


 ……しかし、発動しない。


 うーん、昨日の発動は何だったんだろう??


 気を取り直して、火魔法の練習をすることにした。

 でも、ただ練習するだけじゃ飽きる。


 そこで、今日の昼食を魔法で調理してみようと思い、食材を用意してきた。

 水もお湯も出せるし、火も何とか使える。

 せっかくだから、キャンプ気分でアウトドア料理にチャレンジすることにした。


 とはいえ、作るのは簡単なスープとパンを焼くくらい。

 魔法の練習も兼ねているので、火はすべて魔法でまかなう。


 火力は安定しないが、それで料理の仕上がりが左右されるので、普段よりも集中力が続いた。

 ――これ、結構いい練習方法かも。


 うーん、やっぱり外で熱々のご飯を食べるのって最高。


 一息ついたところで、もう一度女神モードの練習をすることにした。


 心の中で『助けて』と叫ぶ。


 ――あっさり、女神モードへ移行。


 今度は、女神モードが解除される前に、なんとなく頭に浮かんだ言葉とともに剣を振るう。


「ゴッドスラッシュ!」


 ――瞬間、轟音が響いた。

 剣先の軌道の延長線上、50メートルほど先の岩場が真っ二つに切り裂かれる。


 ……あっぶな。

 近くに人がいなくて本当に良かった。


 誰か来るとまずいし、今日はもう撤収しよう。


 実戦で使ったら、魔物が暴れるよりもこっちの被害の方が大きくなりそう。

 威力のコントロール、ちゃんとできるようにならないと……。


 ――その後、3日間同じような行動を繰り返し、いくつかのことが分かった。


 まず、女神モードは一日に一度しか使えないということ。

 正確には、一度発動すると、丸一日以上経たないと再び使うことができないようだ。


 いざという時には役立つが、いつ使うかの判断がかなり難しい。


 ちなみに、女神モード中に頭に浮かぶ『ゴッド***』という技を使わなくても、普通に剣を振るだけで岩をスパスパ切れるくらいの力はある。


 さらに、女神モード時の体感時間は10秒程度だが、実際の時間はおそらく0.1秒もないことも分かってきた。

 つまり、ほんの一瞬だけ、通常の100倍以上の速度で動いているという感じのようだ。



 ということで私は、一日一度一瞬だけの女神様なのだ。

 ――なんだか微妙.......。



 次の日も魔法を使って調理する。


 昼食を終えた頃には、また女神モードが使える時間になっていた。


 ――さて、今日は女神モードで何をしてみようかな?


 この辺の岩、結構壊しちゃったし……。


「お嬢ちゃん」


「うひゃーっ!?」


 突然、背後から声をかけられ、思わず飛び上がる。


「おー、すまんすまん。驚かしちまったか?」


 ――やばい、女神モードのことばかり考えていて、周囲の警戒を全然してなかった……。

 女神モードを使う前で助かった。


 慌てて振り向くと、初老のやせ型の冒険者風のおじさんが立っていた。


「こんなところで何やってんだ?」


「ちょっと、魔法の練習を……」


 おじさんの視線が、私の手元の「基本の魔法書」にちらりと向く。


「魔法学校の学生さんかね?」


「いえ、冒険者です」


「そうか、独学か。いろいろ大変そうだなぁ」


 おじさんは軽く腕を組み、少し辺りを見回してから続けた。


「ところで、最近この辺で岩が変な崩れ方をしてるって話があってな。それを調べに来たんだが……何か知らないかい?」


 ギクッ。


「い、岩の崩れ方と言われても……よくわからないです」


「まあ、そりゃそうかもな」


「さっき、魔法での料理の火加減、苦労してたよな」


 ――えっ? 見られてたんだ。


「お嬢ちゃんが使ってた火の魔法、あれな、本来はもっと大きい炎を出す魔法なんだ。だから、あんな小さな炎で鍋を温めるのは難しかっただろ?」


 おじさんは腕を組みながら、続ける。


「ちょっとアドバイスだ。普通は手のひらに魔法陣を発現させるイメージで魔力を込める。でも、小さい魔法を使いたいときは指先に魔法陣を発現させるイメージで魔力を込めるんだ」


「まあ、本来なら用途に合った魔法陣を使うのが一番なんだけどな」


 そう言って、おじさんはふっと笑い、背を向ける。


「じゃあな。暗くなる前に帰れよ」


 ――そして、そのまま去っていった。


 ……ただの親切なおじさん? それとも、何か探りに来てた?


 気配もなく近づいてきたし、何か違和感がある。

 でも、その正体が何なのかは分からない。


 ……まあ、いいか。


 言われた通りに、指先に集中して魔法を使ってみる。


 ――本当だ。小さい炎のコントロールがすごく楽。


 でも、私が本当に使いたいのは、高威力の攻撃魔法なんだけど……。

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