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第127話 ヴェルティーソ高等学園 学園祭3

 さっそく、6人でミニダンジョンへと向かった。

 少々遠いのが難点だけど、仕方ない。


 最奥部にたどり着いたところで、私はみんなに説明する。


「ここに触れると開く扉があるの。他の人がいるときは使わないでね。面倒になるから。……ルイーズ、試しに触ってみて」


 おそるおそる手を伸ばしたルイーズが扉に触れると――


「……開いた!? 本当に“開かずの間”ってあったんだ……」


 私は先に中へ入り、皆を案内する。


「ここが、私たちの部屋よ」


 そう言って、内扉を開く。


 中にはピアノとフレイムクリスタルのほか、作業台や工具、お茶セットにベッドまで揃っていた。


 ――ゴーレム、気が利くわね。


「とりあえず、他の部屋には入れないようになってるから」


「……なにここ?」


 キュレネが戸惑いを隠せない様子で尋ねる。


「ハイヒューマンの居住区画だった場所よ」


 ちなみに、トイレもキッチンもお風呂も完備されている。


「あー、そういうこと」


 キュレネはすぐに察したようだ。私に関係する施設だと。



 そんな感じで、放課後はここに集まり、休日はここに泊まって作業する生活が始まった。


 こうして、私たちはピアノ演奏人形の製作を進めていった。


 学園祭の3週間前。


 ついに――最初の一音が鳴った。


 まだ曲を弾けるほどではないけれど、「ドレミファソラシド」が連続で弾けるレベルにはなった。


 一応、私が思っていた最低ラインはクリア。


 あとは、どこまで仕上げられるか――みんなの頑張り次第だ。


 そして、みんなはそこで満足せず、さらに改良を重ねていく。


 指や腕を軽量化しつつ、関節の強度を上げ、全体のバランスを調整。


 魔法陣も改良され、連携がスムーズになり、高速かつ繊細な動きにも対応できるようになった。


 キアラは外観に力を入れ、顔を作りウィッグをかぶせて、衣装を整える。


 そして、学園祭の1週間前には、簡単な曲が弾けるまでに仕上がっていた。


 そのとき、黙々と魔法陣を描いていたムートが珍しく提案する。


「これ、もっとポテンシャルある。もっと高度な曲を弾かせたい」


 あら、珍しい。


 実はムート、システムのサポートを受ける私を除いて、計算や魔法陣の作成能力はメンバーの中で一番高い。


 すると今度はキュレネが言った。


「せっかくだから、聞いたことのない曲を弾かせたいの。ティア、何かいい曲知らない?」


 これはきっと、ここまで完成度の高い人形ができたのだから、それにふさわしい曲を――という意味ね。


 そうね、ちょっと難しいけど、いい感じの曲……あれがいいか。


 私が昔ピアノを習っていた時に弾いた、そこそこの難易度の曲。


 ベートーヴェン『エリーゼのために』。

 正式には、「バガテル第25番 イ短調 WoO 59」。


「うちの国に伝わっている、ベートーヴェンっていう人が作った曲なんだけど……どうかな?」


 ラノベでありがちな“私が作った曲”扱いにならないよう、ちゃんと作曲者名も添えてから、私が一度弾いてみせる。


「いい曲ね。ちょっと難しそうだけど……大丈夫かしら?」


 キュレネが心配そうに言う横で、ムートは即答した。


「ちょうど良さそうだ」


 ……さすが。これが可能だと直感でわかるんだ。


 ムートはやはり、ハイヒューマンの技術を伝えるためにも重要な存在になりそう。


 私は譜面に曲を書き起こし、ムートが魔法陣を調整。


 一音ずつ確認しながら進めていく――実に根気の要る作業だが、ムートはまるで気にする様子もなく、黙々とゴールに向かって作業を続けた。


 そして――学園祭の前日。


 人形は、きちんと一曲を弾ききれるようになっていた。



 その頃、ミニダンジョンの最奥――開かずの間から、夜な夜なピアノの音が聞こえてくるという噂が広まっていた。


 ……私たちがその話を耳にするのは、学園祭が終わってから数日後のことだった。



 学園祭は3日間。


 その初日、私たちが出場する魔導具コンテストが行われる。


 会場は、入学式で使った劇場型のホール。


 私たちは控室で順番を待っていた。


 このコンテストでは、1チームあたり10分の持ち時間の中で、制作物とその説明、デモンストレーションを行う。


 最初のチームの作品は――『振ると光るランプ』


 どうやら、振ることで魔力を発生させる装置を開発したらしい。


 なかなか興味深いアイディアだ。



 次のチームは――『コインを選別する装置』


 光魔法で質感を判別しながら重さを測って、コインを選別していた。


 こちらもなかなかの完成度。


 いくつかの発表が続いていくけれど……私たちのに比べると、やはりインパクトが弱い。


 ――いや、そもそも私たちのがやりすぎなのかも?


 限られた時間の中で学生が作っているんだし……少し反省していたが、プログラムに目をやると、


『魔動車』

『UFO』

 など興味を惹かれる作品名が目についた。

 ……うん、やっぱり油断できない。


 そして、ついに私たちの番。


 会場にアナウンスが響く。


「チーム『マジックミュージック』、作品『ピアノドール』です」


 ピアノが舞台中央に運び込まれ、その前に人形を設置する。


 発表担当はルイーザ。


「私たちの魔導具は、ピアノを演奏する人形です。

 特にこだわったのは、美しい音楽を奏でるための、正確で素早く、そして美しい動きです」


 静かな間を置いて、ルイーザが一言。


「それでは、お聴きください」


 ピアノの鍵盤に、優雅に人形の手が触れる。


 そして――きれいな音が会場に広がる。


 観客席がざわつく。


「……これ、人形が弾いてるの?」 「なんだこの曲……?」


 そんな声がちらほら聞こえる。


 けれど、途中から声は止み、観客たちはただ静かに耳を傾けていた。


 そして曲が終わると、会場中から一斉に拍手が巻き起こる。


 割れんばかりの拍手と歓声――


 その中、制作総指揮として私が紹介される。


 続いて、魔法陣担当のキュレネとムート、人形のデザインを担当したクロエとキアラも紹介された。


 あっという間の10分間だった。


 制作総指揮として名前を呼ばれたときは少し恥ずかしかったけれど――


 この反響を受けて、心の奥から誇らしい気持ちが湧き上がってきた。



 その後も順番は進んでいき、私が気になっていた『魔動車』の番がやってくる。


 さすがに自動車とまではいかず、四輪の台車にアームを取り付けて、それを動力として回すという仕組みだった。


 発想としては面白い。でも、動きはまだぎこちないし、安定性も少し不安が残る。


 次に登場したのは、もう一つ気になっていた『UFO』。


 こちらは、どちらかというとドローンに近い。


 ただし、プロペラではなく、4対の虫の羽のような構造で羽ばたいて飛ぶという、かなり独創的な構造だった。


 見た目のインパクトは大きいし、着眼点も悪くない。


 でも、技術としては……まだまだ初歩。


 それでも、未来の可能性は感じさせるものだった。


 そして、すべての発表が終わる。


 ――余計な力関係や裏工作がなければ、私たちが優勝だろう。


 結果発表は、学園祭後のパーティで行われる予定だ。

 


 その後の学園祭の2日間は、チームの皆と一緒に回って、普通に楽しんだ。


 屋台で食べ歩きしたり、出し物を見たり、時々他の生徒に声をかけられたりもしながら、

 久しぶりに「学生」としての時間を満喫した。

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