第126話 ヴェルティーソ高等学園 学園祭2
数日後、キュレネとムートが基本動作の魔法陣を持ってきた。
おお、魔法陣に、これでもかってくらい要素が詰め込まれてる。これを作れるなんて、ほんと才能だよね。でも……このままだと後々苦労しそうだから、ちょっと変えてもらおう。
「これ、すごいわね。普通の人じゃできないレベル。でも、やり方を少し変えてほしいの。今、一つの魔法陣に全部詰め込んでるでしょ? それだと、不具合が出たときに直すのが大変だし、直ってもバランスが崩れる可能性もあるの。だから、パーツごとに魔法陣を分けて、それを組み合わせて動かす方式にしてもらえない?」
「具体的には?」
「たとえば、指の関節ひとつひとつに、それぞれ必要な座標や力のパラメータをやり取りできる魔法陣を作る。それらをまとめて制御する“指”の魔法陣を作って、それをまた“手”の魔法陣で動かす感じ。パーツを分けて、それぞれを制御する仕組みにすれば、改良や修正もその部分だけで済むし、作業も分担できるわ」
「なるほど……確かに後からの調整や拡張はそっちの方が楽ね。複雑な魔法を作るにはいい方法かも。ただ、魔力の消費は増えるし、発動も遅くなりそう」
おお、理解が速い。助かるわ。一つにまとめたほうが効率的なのは確かだけど、人間がやるには限界がある。私みたいにブレインエクスパンションシステムのサポートがあれば、巨大な魔法陣でもやれるけど……。
「そうなんだけど、それぞれの魔法陣を洗練させれば、魔力消費も発動速度も改善できるから。そこは頑張って」
「そういう考えなのね。でも、ティアがこんなに魔法陣に詳しいなんて思わなかったわ。私達の魔法陣も一瞬で理解してたし……どういうこと?」
「私ね、ハイヒューマンの技術を継承してるの」
「そうなの? でも、最初のころは魔法知らないって言ってなかった?」
「うん。ハイヒューマンの技術は知ってるけど、こっちの一般的な魔法は、知らなかったのよ」
「ふーん、そうなんだ……。まあ、いいか」
納得してない顔。まあ、実際はちょっと違うからね。……詳しく話すのはやめておこう。
今度は、クロエとキアラから相談を受けた。
まずはラフなスケッチを見せられて、クロエが説明を始める。
「ピアノを弾くときって、大きく手を伸ばしたりするとバランスが崩れちゃうの。だから、バランスを取るための機構を入れたいのよ。元々アーム型魔導具を作ろうと思ってた時に考えてたアイデアなんだけど……でも、そうすると人形っぽく見えないってキアラが言うの」
するとキアラもすかさず意見を言う。
「私は、綺麗な人形が優雅にピアノを弾いてほしいの。なんか変な体つきになるのは嫌」
「なるほどね。優雅にピアノを弾く魔導具……私もそれがいいな。クロエ、人間がピアノを弾けるんだから、人型の人形でもできるはずよ。バランスは腕だけで取るんじゃなくて、頭や肩、両腕の動き全体で取れば問題ないわ」
「理屈はわかるけど、どうやってやるのかがピンとこない」
「精密にやろうとすると大変だけど、とりあえずキアラの作りたい人形を簡易モデルにして、バランス計算しておけばいいわ。ピアノを弾くときの難しそうな姿勢をいくつか試して、安定していればOK。それに、魔法陣のほうで細かい動きを調整できるから。具体的な計算の仕方は、私が教えるわね。ちなみに、もしバランス補助の機構をつけるとしても、同じ計算で対応できるから覚えておいて損はないわよ」
本当に優雅に動かすのはそれだけじゃ足りないけど、そこはあとでこっそり私が計算して、魔法陣に反映させておけばいいだろう。
クロエは元々、計算とか物理系が得意だから、説明したらすぐに理解してくれた。これ、普通に難しい内容なんだけど……さすがはこの最高峰の学園に飛び級で来た天才だけあるわ。
そして「ティアって何者?」って聞かれてしまったけど、これまで通り「ちょっと普通じゃない冒険者」ってことで誤魔化しておいた。
しばらくして、ルイーズが相談に来た。
「フレイムクリスタルの調達がなかなかうまくいかないの。それに、ピアノドールを作る場所も確保できなくて……」
やっぱりフレイムクリスタルは難しいか。ソノリオダンジョンの在庫を使うしかなさそうね。あとは、どうやって自然にそれを出すか……。
そして、作業場所の問題。今回のピアノドールは高性能で目立つし、そこらで作るわけにはいかない。
――そうだ。あそこが使える。
「わかった。じゃあ、ミニダンジョンで作りましょう」
「えっ!?あんな危ない場所、無理よ!」
「確かに奥に行くまでは私か、キュレネかムートの護衛が必要かもしれない。でもね、奥に秘密の部屋があるのよ」
「えっ……そんなの聞いたことない……こともないか......。それって“開かずの間”の噂じゃない?」
「そう、それ。私、それの入り方を知ってるの」
「うそ……それ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫。ただのハイヒューマンの遺跡だから。それに、一応学園長の許可も取るつもりよ。一緒に来て」
「……うん、わかった」
そして、私たちは学園長室のある建物へ行った。
「ねぇ、学園長にアポ取ったの? いきなり行って大丈夫なの?」
「えっ。アポって必要?」
「いるに決まってるでしょ」
――しまった。そりゃそうだよね……どうしよう。
と、そこに建物から人が出てきて声をかけてきた。
「ティア様、本日は何かご用でしょうか?」
……あれ、私のこと知ってる。
「学園長にお願いがあって来たのですが……」
「かしこまりました。そちらの応接室でお待ちください」
通されたのは、なんとも豪華な応接室だった。
「ねぇ、ティア。なんか対応おかしくない?」
「うん。おかしい」
ほどなくして、学園長が姿を現す。
「ティア様、ようこそお越しくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
――その口調、やめてほしいんだけど……。
「学園祭の魔導具コンテストの準備で、ミニダンジョンを使わせていただけないかと思いまして」
「かしこまりました。使用されるのはお二人ですか?」
「いえ、チームの6人です」
「承知しました」
学園長がベルを鳴らすと、先ほどの案内係がすぐに現れる。
「ミニダンジョン入場資格の手続きをしてくれ」
「はい、かしこまりました」
6人の名前を伝える。
「それでは、こちらで手配しておきます」
こうして、あっさりと許可が下りた。
帰り道――
「ねぇティア、やっぱり対応おかしいよね?」
「うん。おかしい」
それだけ言って、この場は終了。
そして後日、チーム『マジックミュージック』のメンバー全員に「ミニダンジョン入場許可証」が配布された。
さらに、こっそり“開かずの間”への入場資格もメンバーに付与しておいた。
私はゴーレムに命じて、ミニダンジョン内の1部屋を準備させる。そこにはピアノとフレイムクリスタルも用意しておいた。
今回は、メンバーが出入りできるのはこの部屋だけに限定しておいた。