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第124話 ヴェルティーソ高等学園 訪問者

 大会に出場したことで、夏休みも残り10日ほど。キュレネたちはまだ戻ってきていない。


 私は冒険者ギルドに行き、依頼の完了報告を済ませた。するとすぐに服飾店へ案内され、ドレスを仕立てるための採寸や仕様の打ち合わせを行った。


 しばらくのんびり過ごしていたある日――ルイーズが突然、家を訪ねてきた。


「とりあえず、上がって」


「ごめんね、急に」


 とりあえず応接間に移動する。


「それで、どうしたの?」


「オリビア様から連絡があってね。急なんだけど、明日、この家に伺いたいって」


 オリビア様……ルイーズの知り合いの伯爵令嬢で、私がクヴァーロン王国への推薦をお願いしている相手。


 もしかして、何かまずいことでも起きたのかしら?


「明日?ずいぶん急ね」


「そうなの。私も詳しい話は聞かされてないんだけど、とにかくティアの予定を確認するよう言われて。明日、大丈夫?」


「ええ、大丈夫よ。一日空いてるわ」


「良かった。じゃあ、午前10時でお願い。すぐ報告しなきゃいけないから、私これで戻るわね」


 そう言って、ルイーズは足早に帰っていった。


 ――オリビア様、何の用なのかしら。


 推薦の前に身辺調査をすると言っていたけれど、それに関すること?



 午前10時、豪華な馬車が家の前に到着した。


 エントランスに横付けされ、まずは護衛らしき人物が2人降りてくる。


 そしてその後、現れたのは――なんと、私が探していたスピカ・クヴァーロン第三王女だった。


 えっ?なんで……。


 驚いたものの、考えてみれば私の存在に気づいたのであれば、訪ねてくるのも不思議ではないのかもしれない。


 スピカ第三王女を応接室に案内すると、彼女はすぐに護衛に命じた。


「あなたたちは下がって。私はこの方と二人で話がしたいのです」


 護衛たちは不服そうな顔をしながらも、しぶしぶ部屋を後にする。


 二人きりになると、スピカ王女は片膝をつき、深々と頭を下げた。


「女神様……私からお呼び立てしておきながら、このように遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした」


 本当に、私のことを“女神”だと信じているようだ。


「どうか、顔を上げてください。今は“ティア”という人間として活動しています。まずは、席にお掛けください」


 そう言って促すと、彼女は静かに席につく。私はお茶とお菓子を勧め、会話を始めた。


「わざわざお越しいただき、ありがとうございます」


「とんでもございません。本来なら、もっと早くにお迎えに上がるべきでしたのに……遅れてしまい、本当に申し訳ございません」


「よく私のことがわかりましたね」


「ええ、オリビアから話を聞いたとき、なぜか気になって調査を急がせましたの。聖女と呼ばれ、わずか一年でAランク冒険者になられたとか。それでいてヴェルティーソ高等学園に在籍、さらには先日の闘技大会で圧倒的な力で優勝されたと……。

 風貌も黒髪黒目で、お呼びした“あの女神様”であると確信いたしました。だからこそ、このように参上した次第です」


「なるほど。私は、あなたの願いに応じてこの世界へとやって来ました。少々遅くなってしまいましたが……あなたが望んだ“国を救ってほしい”という願いについて、詳しく教えていただけますか?」


「はい。きっかけは、シドニオ帝国との対立です。

 本来、私はシドニオ帝国に嫁ぐ予定だったのですが、姉がいたインテーネで起きたアンデッド騒動の黒幕がシドニオ帝国と判明したことで婚約は破棄されました。


 父王は激怒し、一時は戦争も辞さない構えだったのですが……その矢先、病で倒れてしまったのです。

 そして、後継者と目されていた兄もその頃から様子が変わってしまい、父王は王位継承を躊躇するようになりました。


 一部では、私を次期国王に推す動きも出始め、王国全体が混乱しているのです」


 なるほど。国王の病気はエクストラヒールで治せそうだし、兄の件はゴーレムで調査させよう。


 何より、転移装置があるこの国とは友好関係を築いておきたい。


「わかりました。少しの間、あなたの国に滞在し、状況を見させていただいても構いませんか?」


「神様としてお迎えしてもよろしいのでしょうか?」


「いえ、今はまだ秘密にしておいてください。時が来たら、私の方から名乗り出ます」


「承知しました。では、客人としてお迎えいたします。ただ……今の私はあまり権限がありませんので、正式なお迎えには少し時間が必要です」


「わかりました。あと半年ほどで学園を修了します。その後で伺うという形でもよろしいですか?」


「はい。それだけ時間をいただければ、しっかり準備を整えられます」


「それから……あなたが祈っていた“降臨の祭壇”を修復したいのですが、それは可能でしょうか?」


「申し訳ありません。私たちには、あれを直す技術はありません」


「では、私の配下を派遣するのはどうでしょう?」


「わかりました。父に相談の上、お返事いたします」


「お願いします」


「承知いたしました。それから、こちらをお持ちください」


 彼女が差し出したのは、クヴァーロン王国の紋章が刻まれたメダルだった。


「これは……?」


「クヴァーロン王家の後ろ盾があることを示す証です。何かあったときにお使いください」


 なるほど……これは持っていて損はない。


「ありがとうございます」


 ――こうして、社会人コースを修了したあと、クヴァーロン王国へ行くことが決まった。


 本当は学園を中退してすぐ向かってもいいのだが……“新たな魔王”が現れてから本格的に動くつもりなので、それまではこの地で過ごす方が都合が良さそうだ。


 しばらくして、キュレネたちも帰ってきた。


「ティア、なかなか面白いことをしたわね」


「“ヴェルティーソの鉄仮面”。向こうでも話題になってたぞ」


「くぅ……やっぱり、素顔のままの方が目立たなかったかな?」


「今大会きっての実力者三人を軽くねじ伏せたって聞いたけど? どうやったって目立つわよ」


「うぅ……」


 キュレネたちは、トゥリスカーロ王国でいろいろと根回しをしてきたらしい。感触としては上々で、貴族家への復帰に向け、順調に話が進んでいるとのことだった。


 ――そして、夏休みもいよいよ終わりを迎えた。

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