第123話 ヴェルティーソ高等学園 闘技大会3
そして、翌日――ついに決勝戦。
相手は、前評判通り勝ち上がってきたオキサーリス王国のアルタシオ学園だ。
中堅戦で、こちらのジュールさんが相手の大将――レスターク王子に敗れ、私の出番が回ってきた。
「ここからは、今大会のダークホース――鉄仮面のバーサーカー、ティア選手の登場です! 対するは“雷撃”の異名を持つレスターク選手! 注目の対決が始まります!」
……好き勝手に名前つけないでほしい。
「始め!」
「雷神剣」
レスターク選手が、自らの剣に魔力を込める。スパークが走るその煌めきは、確かにかっこいい。
「おおっと、レスターク選手! アーティファクト『雷神剣』が雷をまといました! この攻撃、ティア選手はどう防ぐのかぁぁ!」
……確かに、普通なら剣を合わせただけで感電する。でも、私には効かない。
――少し様子を見てみようか。剣技の実力、純粋に興味がある。
レスターク選手が仕掛けてくる。雷神剣は、当てるだけで感電効果があるので、小刻みで素早い動きを多用している。
けれど、私はアンチマジックシールドを纏っている。雷撃など通用しない。
冷静に、普通に捌く。
「なんと! ティア選手、雷撃がまったく通じません!」
私も軽い攻撃でじわじわと相手を追い込んでいく。
そんな中、レスターク王子が静かに言う。
「……お強いですね。でも、ここまでです」
すると、レスターク選手は剣を地面に突き立てた。
「雷撃陣」
足元に魔法陣が展開され、床一面から雷撃が奔る。
「おおっと、ティア選手、雷撃に包まれたーーー!」
……少し演出に使わせてもらおう。
私は右の掌を胸の高さで水平に広げる。その上へ、四方からの雷撃をすべて誘導するように集めていく。
そして攻撃が収束した瞬間、掌をレスタークに向け、
「サンダーボルト」
そう呟きながら、相手の雷撃耐性をわずかに超える程度の威力で、ゴッドサンダーを撃ち放つ。
「な、なんだこれは!? ティア選手、雷撃を吸収して跳ね返したのかーー!?」
――そう見えるよね。でも本当は……
誘導した雷撃はアンチマジックで無効化しただけ。返した雷は、私が新たに放ったものだ。
アーティファクト雷神剣による雷撃耐性はかなり高いため、それを上回る雷撃は特大のものになった。それがレスタークに直撃し、彼は地面に崩れ落ちた。
「そこまで!」
会場が歓声に包まれる。
「ヴェルティーソ高等学園、第二チームの優勝です! おめでとうございます!」
そして、表彰式へ——。
……あれ? クローズヘルムのまま表彰式に出るのって変じゃない?
でも、いまさら外すのも……このままで行こう。
「ティア様、そのまま表彰式に出るのですか?」
フォーリアさんが困惑した表情で尋ねてくる。
「これを外すと、逆に誰かわからなくなるでしょ」
と押し切って、強行することにした。
式では、大会の主催者からトロフィーが渡される。
だがその時——
「顔を見せろ!」「礼儀がなってないぞ!」
観客席から次々と声が飛ぶ。
最初は小さかった声が、次第に会場を包むほどに大きくなっていく。
……くっ、これはマズい。
観客が暴徒化するほどではないけど、このままじゃ雰囲気が悪くなる。
しょうがない——
私は右手を高く掲げ、ゴッドサンダーを放つ。
空へと放たれた稲光が、空を裂きながら炸裂し、轟く雷鳴が会場を揺らす。
普通の雷撃とは桁違いの威力に、観客は一瞬で沈黙した。
その静寂の中、私は言い放つ。
「私に勝てる者が現れるまで、素顔はお預けよ!」
そして、掲げたトロフィーを高々と振り上げる。
一瞬の間のあと——
「うおおおおおおお!!」
称賛と拍手の嵐が巻き起こった。
……よし、うまくいった。
頭の中の人との相談で、これが一番成功率が高いって言ってたけど……やっぱり実際にやるのは緊張する。
私らしくはないけど、神様として生きるなら、これくらいの度胸は必要だ。
——その後、運営スタッフや先輩たちに思いっきり怒られた。
「表彰式であんな危険な魔法を使うな!」
……いや、あなたたちが守ってくれないんだから......、とは言わず、黙って聞いておいた。
ともかく、冒険者ギルドから受けた依頼——
オキサーリス王国の王子レスタークと、シドニオ帝国の魔人ガルサスの対決阻止は成功。
あとは、無駄に有名になるのを防がないと……。
一応、学園長には私の情報を外部に出さないようお願いしたけれど、どこまで効力があるかは不明。
魔人ガルサスについては、念のため監視を付けることにしよう。
——そして、シドニオ帝国を離れ、帰国の途についた。