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第122話 ヴェルティーソ高等学園 闘技大会2

 次の日、準決勝。


 相手は、シドニオ帝国のフォルトプレヌ学園。

 さすが地元だけあって、フォルトプレヌ学園への応援はすさまじい。こちらは完全にアウェーの空気だ。


 その圧に飲まれたのか、先鋒にはなんとか勝利したものの、フォーリアさんとジュールさんは、中堅の槍使いの相手に敗れてしまった。槍使いとの戦闘経験が少ないせいもあるのだろう。対応が難しかったようだ。


 そして、私の出番が回ってきた。


「今大会のダークホース、鉄仮面ティア選手の登場です。事務局に寄せられた情報によると、“デーモンスレイヤー”“ビーストスレイヤー”といった称号持ちの冒険者である可能性が浮上しています。他にも“魔人”あるいは“神の使い”といった情報も……」


 いや、変なの混ざってるよ。


「始め!」


 槍はリーチが長いため、距離を取られると不利――普通はそうだけど、圧倒的なスピードで動ける私にとって、大した問題はない。


 相手の突きを素早くかわし、懐へと一気に踏み込む。


 左手で槍をつかみ、そのまま剣を持った右手で相手の腹部に拳を叩き込む。


 うずくまったところに、剣を軽く首に当てる。


「そこまで!」


 会場が静まり返る。


「なんという速さでしょう……鉄仮面ティア選手、目にも止まらぬ一撃で瞬殺です。今大会一のスピードファイターかもしれません!」



「次は、今大会トップクラスの実力者、大将、剛腕のガルサス選手との対戦です!」


 2メートルを超える筋骨隆々の巨体。その背には、長さ2メートル、幅30センチはあろうかという巨大な大剣を背負っている。ガルサス選手の登場に、会場は歓声と熱気に包まれた。


「始め!」


「パワーのガルサス選手に、スピードのティア選手。真っ向から異なるスタイルのぶつかり合い、これは目が離せません!」


「スピードはなかなかだな。だが、それだけで俺を倒せると思うなよ」


「そうですか。それは残念です」


「チッ――」


 舌打ちと同時に、ガルサスが突っ込んできた。大剣を振りかぶり、真上から一気に振り下ろす。


 ――速い。キュレネたちより強いかも?


 私は、以前騎士相手にやったのと同じ要領で、大剣を剣で受け止める瞬間に絶妙な速度で剣を引き衝撃を吸収した。


「なっ、なんだと!?」


「おーっと、鉄仮面ティア選手、あの大剣の一撃を正面から軽々と受け止めた!これはどういうことなのでしょうか!?」


 今度は横からの斬撃。風を裂く音が聞こえるほどの勢いだった。


「これならどうだ!その華奢な体では、さすがに耐えられまい!」


 ――たしかに、普通なら体重が軽い私では飛ばされるところ。でも…


 私は、こっそり土魔法で足元を固定し、重心も一瞬で調整。結果――まったく動じず、その攻撃も真正面から受け止めた。


「ほう。まさか、ここまでとはな……」


「な、なんだー!?鉄仮面ティア選手、あの豪剣の横薙ぎさえも軽く受け切ったー!どうなってるんだぁぁぁ!?華奢に見えるその身体に、一体何が隠されているのか!?」


 この人……相当な実力者だ。それに――何かがおかしい。


 剣を受け止めている間に、魔力感知と解析を同時に行う。


 ――こいつ、人間じゃない。


 人のふりをしているけど……魔人だ。


 魔人がこの大会に出ていいの?

 一瞬そんな疑問がよぎったが、すぐに自分の立場を思い出す。

 神様の私が出てる時点で、文句を言える立場じゃなかった......。


 そもそも、「魔人や神様は出場禁止」なんて規定、あるわけないよね。想定されてないんだから、書きようもない。


 でも、もしこの人が魔人だってバレたら――


 会場は確実にパニックになる。


 下手をすれば、開き直って観客席を攻撃しかねない。


 そんなことになれば、止められるのは……私だけ。


 そうなると、大勢の前で魔人を討伐――

 なんて事態になったら、いろいろバレる。


ここは……魔人バレしないように、しれっと倒して終わりにしよう。


「では、これならどうだ!」


 先ほどの倍――いや、それ以上のスピードで、ガルサスが突っ込んできた。


 ちょっと!それ人間レベルじゃないから!


 あんな速度で動いたら、自分から魔人バラしてるようなものでしょ……!


 私は落ち着いて、炯眼けいがんを発動する。見切りの技だ。


 それを駆使して、できる限り“人間らしい動き”に見せながら、怒涛の連撃をさばいていく。


 隙が見えた瞬間――


 私は、相手の左腕――剣道で言うところの“コテ”にあたる部分に、鋭く一撃を放つ。


 切り落とさないよう、剣の切れ味は鈍くする。狙いは、“破壊”。


「ぐわっ――!」


 ――よし、これで左手は使えない。



「鉄仮面ティア選手、ガルサス選手の猛攻を軽々とさばき、見事なカウンター!なんという腕前でしょう!」


 今度はこちらの番――連撃を仕掛け、もう一方の右腕も破壊する。


「なんということでしょう、ティア選手、一方的な攻撃でガルサス選手を追い詰めています!これは降参か?」


 よし、効いてる。これでもう剣は持てないはず――


 ……と思ったら、ものすごいスピードで再生してる。

 げっ、まさか“死ぬくらい”のダメージをあたえないと倒せないの?でもこの状況でやるのは、さすがに……。


「貴様、一体何者だ?」


 出た、いつものセリフ。


「ただの学生よ」


「ふん、まあいい。剣の腕は認めてやる」


 そう言いながら、回復の時間を稼ぐかのように、魔法へと切り替えてきた。


「ダークフレイムランス、10連撃だ!」


 黒い炎の槍が10本、空間に並び立つ。


 私を殺す気?冒険者ギルドで私に依頼してきたオキサーリス王国の大臣補佐官正解だわ。下手にこんなのと戦ってたら本当に王子が殺されていたかもしれない。


 これ、下手すれば闘技場の防御結界ごと貫通する。

 これほどの威力、対処を間違えれば観客にまで被害が及ぶ。


 とはいえ、みんなの前でアンチマジックで消すのも怪しすぎる。


 よし、剣で切ったことにしよう。

 私は、アンチマジックシールドを纏わせた剣で、連撃――すべてのダークフレイムランスを切り捨てる。


「なんと、ティア選手、魔法を剣で切り落としたーー!これはいったい!?剣の方に秘密があるのでしょうか!?」


「バカな……魔法を切るだと。貴様、その剣……アーティファクトか? ならば俺も、見せてやろう」


 すでに、両腕は回復しているようだった。


「ヘルフレイムソード!」


 ガルサスの大剣が、赤黒い炎に包まれる。


「あーっと、ガルサス選手、黒炎系最上位魔法『ヘルフレイム』を大剣に纏わせた!これは……ティア選手、対応できるのか!?」


 会場は一気にヒートアップ。歓声と興奮で地鳴りのような騒ぎに。


「これを防ぐ術はない。覚悟しな。オマエは強かったよ」


「ふふ、あなたは、それほどでもないわよ」


 私の返しを無視し、ガルサスが一気に距離を詰めてくる。


 私はいつもより多めに魔力を剣に注ぎ、正面から迎え撃つ。


 ――キィィン!!


 その一撃で、ガルサスの大剣を叩き切った。


 すかさず、超高出力のパラライズ魔法を叩き込む。


「俺に……こんなもんが効くか、ぐっ……ぐうううう……」


「ちゃんと効いてるじゃない」


 そして、動けなくなったガルサスの首元に、静かに剣を添える。


 ――沈黙。


「そこまで!」


「なんとぉぉぉ!鉄仮面ティア選手、ガルサス選手のアーティファクトを真っ向から叩き切っての勝利!さらに……鉄仮面の下から赤く光る目が!これは……まさかバーサーカーかああああ!?」


 くぅ。ちょっと魔力を込めすぎてしまった......。


 会場が騒然とし、歓声とブーイングが入り混じる。


 私はそそくさと闘技場を後にした。




 私は控室に戻った。


「お疲れ様」


 迎えてくれたのは、チームメンバーのフォーリアさんとジュールさんだった。


「すごい試合でしたね。あれはもう、事実上の決勝戦って言ってもいいくらいでした。正直、明日はここまでの試合にはならない気がします」


 と、フォーリアさんが声をかけてくれる。


 続いて、ジュールさんが口を開いた。


「もしかして……ティアさんって、以前トゥリスカーロ王国で“カペルディアボロス”を討伐した方じゃないですか?」


 ――ギクッ。


 あの件を覚えてる人、いたんだ……。偉い人の中には勘づいてる人もいるとは思ってたけど。


「ああ、ティアさんって“デーモンスレーヤー”ですもんね。トゥリスカーロ王国出身って言ってましたし、やっぱり有名な話なんですか?」


 ……ああ、フォーリアさん、余計なことを……。


「やはり、アレを倒していたんですね。ようやく腑に落ちましたよ。どう考えてもおかしかったんですよね。 まぁ、今さら騒ぎ立てるつもりはありませんが……“幻の赤目の小柄な女性冒険者”――実在してたんですね。うん、納得です」


 私が何も言ってないのに、勝手に納得されてしまった。


 ……まぁ、今さらだし、特に問題もないか。

誤字報告ありがとうございました。

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