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第120話 ヴェルティーソ高等学園 期末試験

 夏休みの闘技大会への出場は決まった。


 だが、その前に――期末試験がある。


 クヴァーロン王国へ就職するための推薦をオリビアさんからもらうには、少なくとも一科目でトップ10入りが必要。


 1位を狙おうと思えば、多分いける。でも、あまり目立ちたくない。

 ギリギリ10位くらいが理想だ。


 ……とはいえ、10位をピンポイントで狙うのは難しい。


 そもそも、トップクラスの学生がどれだけできるのか、ほとんど把握していない。


 モブキャラ志向だったのが、こんなところで裏目に出るとは。


 せめて、同じ授業を受けている身近な人たちの実力くらいは確認しておこう。

 それに、どの科目で点を取るかも考えておかないと。


 どうせなら、冒険者ギルドや精霊教会から推薦対象として指定されている科目で成果を出したい。

 一科目だと失敗するリスクが大きいので、三科目で挑戦することにする。


 冒険者ギルドの指定科目:


  • 『礼儀・作法』

  • 『組織運営』


 ただし、『礼儀・作法』は初級レベルなので、推薦対象にはならない。


 となると、実質的には『組織運営』一択。


 この科目なら、キュレネとムートも一緒に受講している。


 彼女たちの実力を確認すれば、順位の目安が立てやすいだろう。



 精霊教会の指定科目:


  • 『哲学』

  • 『科学』

  • 『法典』


 この中では、『科学』が良さそうだ。


 答えが比較的明確なので、点数の調整がしやすい。


 しかもこの授業、クロエが受けている。

 飛び級で入学し、この学園に“科学を学ぶため”に来たという天才少女。

 彼女の成績を基準にすれば、おおよそのレベルは掴めるはず。


 三つ目の科目:

 これは指定科目ではないけれど――

 ルイーズとキアラが受けている『地理』にしよう。

 二人の実力は未知数だけど、少なくとも参考にはなる。


 しかもこの授業、暗記と応用のバランスがちょうどよく、取り組みやすい。


 というわけで、今回狙うのは――


  • 『組織運営』

  • 『科学』

  • 『地理』


 この三科目で、ギリギリ10位を目指す作戦。

 

 ――さて、情報収集と準備を始めよう。




 まずは、『組織運営』。キュレネとムートに話を聞いてみることにした。


「ねえ、『組織運営』の試験で10位くらいを狙いたいんだけど、試験のレベルってどんな感じ?」


「……なんで10位?」


 キュレネが率直に首をかしげる。


「ごもっとも」


「10位以内に入れば、クヴァーロン王国の第三王女に会える可能性があるの。でも、あんまり目立ちたくなくて。だから、できれば10位ギリギリぐらいがいいの」


「え、クヴァーロンの第三王女……?」


「あー、言ってなかったね。前に魔法絵師に描いてもらった女性の絵があったでしょ。あれクヴァーロン王国の第三王女だったって判明したの。以前聞いてた“第一王女”は間違いだったみたい」


「あー、なるほど、そういうことね」


 キュレネが納得したようにうなずく。


「『組織運営』についてだけど、一部で過去問が流通してるって話があってね。それを手に入れた子たちが軒並み高得点を取ってるみたい」


「ふむ……」


「そんな感じなので満点に近い点の人がかなりいるみたい。だから、1問、2問の間違いが勝負どころになりそうよ」


「なるほど……ありがとう、助かった」


 試験は予想以上にシビアなようだ。



 次の日、学校でも情報を集めることにした。


 まずはクロエに話を聞いてみる。


「私、『科学』の試験で10位以内を目指してるんだけど、試験のレベル感がよくわからなくて。どんな感じか知ってる?」


「ティアって、そんなに勉強頑張ってたんだ。私は1位を目指してるけど、ライバルになりそうな人が4人いるのよね。だから、私くらいの実力があれば、10位以内には入れると思うよ」


 それって、どのくらいのレベルなんだろう?


「クロエが難しいって思う問題って、どれ?」


 いくつか問題を見てもらって、難易度を教えてもらう。


 ――そこで、致命的な問題に気づいた。


 クロエが「難しい」と言った問題を特定しても、それと同じレベルの問題がどれか、私には判断できない。


 今の私にとっては、どれも簡単すぎて難易度の感覚がまったくつかめなかった。


 うーん、どうしよう……。


 仕方ない。できるだけクロエの「難しい」の基準を記憶して、あとは頭の中の人に任せてレベル感を推定してもらおう。


「ねぇ、10位以内を目指してるってことは、かなりできるってことよね。この問題、解いてみて」


「うん」


 ……これが簡単なのか難しいのか、まだよくわからない。


 そこそこ難しそうな気もするけど、少し悩んでるふりをしておこう。


「よし、できた。こんな感じで合ってるんじゃない?」


「やるじゃない。正解よ。ライバルが一人増えたみたいね。負けないからね」


「うん、お互い頑張ろうね」


 どうやら、問題なくやり過ごせたみたい。


 私は10位以内に入れば十分なんだけどね……。




 次に、ルイーズとキアラに話をしてみる。


「私、『地理』の試験で10位以内を目指してるんだけど、レベル感がいまいちわからなくて。どんな感じか知ってる?」


「ああ、オリビアさんの条件のやつね」


「なにそれ?」


「ティアがどれかの試験で10位以内に入れば、クヴァーロン王国に推薦してもらえるって話」


「あー、この前ティアの家に行ったときのあれか。そんなことになってたんだね」


「うん。でも、10位以内って具体的にどれくらいできればいいのかがわからなくてさ」


「多分、私とキアラは似たようなレベルだと思うし、少なくとも私たちよりは上じゃないと話にならないって感じよ」


 まあ、それでも参考になる。


 一緒に勉強をしながら、二人のレベル感を確認させてもらうことにした。


 一応、この3科目で10位以内を狙うつもりだけど、他の授業でも単位は落とせない。


 最低でも6割くらいは取らないと……。うーん、大丈夫かな。


 そんな感じで、試験当日までは、なるべくこの5人の誰かと一緒に勉強するようにして過ごした。




 そして、試験当日。


『組織運営』は、1〜2問の差で10位前後が決まりそうだったので、配点の大きそうな1問をあえて空欄にして提出した。


『科学』は、クロエが10位以内に入ると見込んで、そのラインを9割前後と予想。こちらも9割程度に抑える。


『地理』に関しては、結局レベル感がつかめなかったので、ルイーズやキアラより1割ほど上を狙う形で解いた。が、今回の試験はどうも簡単だったようで、結果的に9割は取れそうな手応えだった。


 その他の科目は、単位を落とさないよう、無難に7割を目標に。


 そして、結果発表の日。


 掲示板には、各科目のトップ10が貼り出されていた。


 個人の点数や順位は、あとで各自が個別に取りに行くことになっている。


 掲示板の前には、ものすごい人だかり。


 まずは――『組織運営』。


 ……え?


 1位 ティア  100点

 2位 キュレネ 97点

  ムート  97点

 ………

 10位 ※※   93点


 一問空欄で出したはずなのに、なぜ満点?

 しかも、キュレネとムートが仲良く同点で2位……。

 10位が93点ってことは、戦略自体は悪くなかったんだけど――。


 ん? 下に注意書きがある。


 ええと……私が空欄にした問題について書いてあるみたい。


 ――出題ミスのため、全員に得点を与える。

 ……オイオイ、しっかりしてくれよ。


 できれば1位は避けたかったのに。

 まあ、もう出てしまったものは仕方ない。他の科目で10位以内に入っていないことを祈ろう……。



『科学』は――


 1位 ティア   92点

 2位 クロエ   90点

 …………

 10位 ※※   82点


 ぐぅ……。ここでも1位。

 もっとみんな頑張ってよ……。


 そこへクロエがやって来た。

「あーあ、ティアに負けちゃった。今回の試験、1問すごく難しいのがあったでしょ?さすがに、あれは誰も手が出ないと思ってたのに……。ティアはあの問題で部分点もらえたのかしら?」


 あちゃ~。そんな問題、あったんだ。


「うーん。どうだろうね」



 そして――『地理』


 1位 ティア   92点

 …………

 9位 キアラ   82点

 10位 ルイーズ  81点


 うっ。また1位……?


 あれ、でもキアラたちもランクインしてるじゃない。


 ルイーズとキアラもその場にいた。


「ティア、ありがとう。一緒に勉強したおかげだよね」


「それはこっちのセリフ。お互い様よ。ありがとう」


 まさか、ルイーズとキアラのレベルがここまで上がっていたとは……。


 結局、狙っていた3科目はすべて1位。


 おまけに『魔物学』まで10位に入ってしまった。


 ……こうなってしまったら仕方がない。


 開き直って、オリビアさんに“超優秀アピール”して、クヴァーロン王国への推薦をもらおう。



 そう思い、オリビアさんと面会することにした。


 まずは私から。


「期末試験で1位を3つ、それと10位が1つ取れました。なので、推薦をお願いします」


「……あなた、いまさら何を言ってるのです?」


 えっ? たしか、“期末試験で1科目でもトップ10に入れば”って話だったはずだけど。


「はい?」


「あなた、闘技大会の選手に選ばれたのでしょう?」


 ――それ、もう伝わってたのか。


「はい、一応……」


「それなら、私が推薦するには十分ですわよ」


 うそでしょ。じゃあ……試験、がんばらなくてもよかったってこと?


「あなた、もしかして闘技大会の選手としての価値がわかっていませんの? あれは“学園全体で6位以内の強さがある”ということ。期末試験でいくつかランクインするより、よっぽど価値があるのですわよ」


 あれ……そういえば私、目立たないように“10位狙い”してたのに、そもそも闘技大会の時点でもう目立ってたってこと……?


 ああ、私のモブ計画、完全に崩壊してる。


「ははは、そうだったんですね……」


「それに、アコルト学園長からも正式に打診がありましたし、間違いなく推薦しますわ。安心なさい」


「……はい、ありがとうございます」


 ――はぁ。


 期末試験、意味のない好成績を残しただけだったよ……。

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