第118話 ヴェルティーソ高等学園 闘技大会申込1
次の日の放課後、一人で掲示板を見に行く。
あった。闘技大会出場者募集の案内。
申込の期限……今日までじゃない。危なかった。
それで、どうすればいいのかしら?
出場の申し込みは――生徒会まで。
……あれ?
生徒会のメンバーとかかわりたいって思ったから、こうなったのかしら?
なんか、変な力が働いてると思うと、ちょっと気持ち悪い。でも、良い方向に進んでるのだから、問題はない……はず。
そう割り切って、動くことにした。
この学園の生徒会は、“生徒会棟”と呼ばれる専用の建物を持っている。
……金持ち学校だなぁ。
とりあえず中に入り、生徒会室と書かれた扉をノックする。
「どうぞ」
と中から声が聞こえたので、扉を開ける。
「失礼します」
室内には、正面の執務机に一人の男性が座っており、もう一人、女性が立って話している最中といった雰囲気だった。
「あら、あなた……あのときの“パラパラっ子”じゃない」
「副会長、知り合いか?」
「ええ。受験前に図書館で頻繁に見かけたものですから。あなた、ここの学園に合格していたのですの? 歓迎会にはいらっしゃらなかったようだけど……」
――思い返すと、受験前に図書館で優しく声をかけてくれた人だった。
副会長ってことは、この人がベアトリーチェさんで、机に座っている男性が生徒会長のルーカスさんか。
……一応、それくらいの事前情報は調べてきた。
「あの時はありがとうございました。私、社会人コースでの入学なので、歓迎会には参加しなかったんです」
「そうでしたのね」
「で、その“社会人コース”の学生が、生徒会に何の用だ?」
会長は……微妙に威圧的。こわっ。
「闘技大会に出場したいのですが……」
「ん? 闘技大会?」
会長が副会長に視線を向ける。
「副会長、社会人コースの学生の出場は問題ないのか?」
「はい。20歳以下で学生であれば、出場資格に問題はありません」
「ずいぶん返事が早いな?」
「はい。実は、例の皇女様たちに出場を打診した際に、すでに調べてありましたので」
――キュレネたちを誘ったってことか。
「それで、その返事は?」
「他に用があるとのことで、出場はできないと。ただ、私たちより強い人がいるので探してみればと助言をもらいました」
「そうか……そちらはダメだったか」
「はい」
「それで、お前は上級武術や上級魔法の授業にもいないが、これまで大会等での実績はあるのか?」
「大会の実績はありませんが、それなりに強いと思います」
「ふん。実績もなく、“それなりに強い”程度では話にならんな。この大会に出るのは真の強者だけだ」
――ぐぅ。どうしよう。手っ取り早く力を見せてしまおうか。
その時、扉が開いた。
「すみません、遅くなりました。あっ……取り込み中でしたか……ティア様?」
ん? あれ……?
――ガルムの牧場事件のとき、護衛したフォーリアさん?
ここの学生だったんだ。
「お久しぶりです、フォーリア様」
「あれ? ここの学生だったんですか?」
「ええ。今年、社会人コースで入学しました。あのときの仲間の二人も一緒に」
「フォーリア。ちょっといいか? お前、知り合いなのか?」
「はい。以前、護衛をしてもらいました」
「お前がこいつに護衛をしてもらったのか? ところでな、こいつが闘技大会に出たいと言っているのだが……強いのか?」
「はい、間違いなく。私よりも強いです」
「大会出場を決めているお前よりも、だと?」
「はい。私がこれまで出会った中で、最強です」
「ん? 出会った中で最強? ちょっと待て、お前、騎士団長や魔法士団長にも会ってるはずだよな。それよりも強いというのか?」
「はい。即答できるほど、実力差があります」
「なん……だと……」
「ティア様、今、勲章などお持ちではありませんか?」
「いえ、今は持ってきておりません」
「では、冒険者ギルドカードは?」
「はい、それなら」
そう言って、ギルドカードを取り出す。
「えっ……Aランクになられたのですか?」
「はい。Aランク冒険者になったので、その推薦でこの学園を受験しました」
「ふふっ……すごいとは思ってたけど、まさかここまでとは……。笑うしかないって感じね。あれから、まだ1年も経ってないのに。それでいて、この学園に受かるとか……。いつ勉強したのよ……ほんと、あなた何者?」
――女神です。とは名乗れない。
「Aランク冒険者だと? お前、若そうに見えて、実はそれなりの歳なのか?」
――この人、失礼だな。
「今、16歳です」
「……」
――黙り込んだ会長に代わって、副会長が声をかけてくる。
「会長、次の休みに選考会がありますし、そこで実力を確認してはいかがですか?」
「……そうだな。そうするとしよう。次の休み、騎士団の訓練場で選考を行う。詳しくはこの紙に書いてあるから、見ておけ」
そう言われて紙を受け取り、私はそのまま退室した。