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第108話 ヴェルティーソ高等学園 入学試験3

 入学試験当日。


 やはり、試験となると独特の緊張感がある。

 けれど、準備はしてきた。大丈夫。


 手応えもあり、7割と言われている合格ラインは、楽に超えたはずだ。



 ――そして、合格発表。


 掲示板に張り出された受験番号を見に行く。


 3人とも、合格。


 安心感とともに、次のステップへ。


 合格者には、実技のレベル確認と面接があるという。


 実技は武術と魔法、それぞれの力量確認が目的で試験の合否には関係ない。

 上級コースを受講するには、ある程度の実力が求められるそうだ。


 私自身は、別に高度な授業を受けたいわけではないけれど――

 何かあると嫌なので、それなりの結果は出しておくことにした。

 

 まずは、武術の実技。


 試験官はがっちりした体格の男性。年齢は四十前後といったところだろうか。


 自分の好きな種類の武器で戦っていいことになっている。

 試験官は木刀持っている。私は試験用に用意されていたものの中から適当な木刀を手に取った。


「準備ができたら、どうぞ」


 軽く手を上げて“かかってこい”の合図。


 では、とばかりに前進する。


 キュレネやムート相手を想定した強さで、踏み込み――一撃。


 一合、二合と打ち合うたびに、試験官の体勢が微妙に崩れていく。


 ……少しやりすぎたかも。そう思って動きを緩めた、まさにその瞬間。

 

 試験官の動きが突然鋭くなる。


 それに見合った素早い斬撃。これは明らかにカウンター狙いだ。


 ……なるほど。最初はわざと弱く見せて油断を誘うタイプか。


 学生相手に容赦ない。


 でも――この程度なら、問題ない。


 わずかに身をひねり、その攻撃を回避。


 そのまま、速度を乗せたカウンター。


 木刀の切っ先を、すっと相手の首元へ――寸止めで止める。


「まいった」

 試験官が静かに声を発し、模擬戦は終了した。


 特に波風も立てず、常識的な範囲の実力を見せられたと思う。

 


 続いて、魔法の試験。


 試験内容は、どこかでやった25メートル先の的を破壊するというもの。

 だがこの場所、魔法の行使を妨げる特殊な領域――魔封じの空間で行われる。

 とはいえ完全に封じられるわけではなく、負荷レベルという調整が可能だ。

 その負荷に応じて、魔法の精度や出力が評価されるらしい。

 私は最初から、負荷レベルを最大にしてもらう。


「ウインド」


 おなじみの魔法、音速嵐マッハテンペストを放つ。

 

 的が一瞬で粉砕される。


 負荷が高いぶん、いつもより魔力をしぼらないで済み、かえって楽だったかもしれない。



 最後は面接。これが一番緊張する。


 面接官は三人。中央の人物がメインスピーカーのようだ。


「冒険者兼神官のティアと申します。よろしくお願いします」


「冒険者ギルド推薦の社会人コース、三人目か……」

 と、小声で呟く。


 そして顔を上げて、


「学力S、剣術S、魔法S。――素晴らしい」


「ありがとうございます」


「しかも、まだ16歳か」


 そう。この世界に来てから、もう一年が経っている。


「これほどの成績を持ちながら、なぜ冒険者をやっている?」


 ……あれ? これ、どういう面接だっけ?

 少し冒険者に否定的な印象を持っているのか?


 ここは、ハッタリを効かせつつ、嘘はつかずに答えよう。


「冒険者であれば、世界を自由に旅できます。若いうちに見聞を広げ、さまざまな文化に触れ、いろいろな人と交流しておくことは、後々とてつもない財産になると思いませんか?」


「……一理ある。だが、それにしても冒険者とは……」


「冒険者でも、準貴族相当の地位を得られます。それは平民である私にとって、大きなチャンスです」


「……失礼した。確かに、結果を見る限り、君の選択は間違っていなかったようだ。――才能のなせる業か」


「では、この学園を受験した理由は?」


「自分の地位にふさわしい知識や作法を身に着けるとともに、同世代のトップクラスの人たちと交流できればと思い、志望しました」


「……わかった。君を歓迎しよう。君なら、他の生徒たちにも良い刺激になるだろう。期待している」


 そう言われて、面接は終了した。


 帰り際、ふと耳を澄ますと――


「……あの皇女様といい、竜人様といい、なんで化け物級のやつが三人もいるんだ……」

 という声が聞こえてきた。


 ……あれ? けっこう普通を装ったつもりだったんだけど。


 キュレネとムートも、化け物級の扱いなのか……。

 確かに優れているとは思っていたけど、この学園でもそこまで評価されるとは。


 ――ちょっと、やりすぎたかもしれない。


 入学後は、目立たないようおとなしく、モブキャラを目指そう。



 私たちはエリーサさんに合格の報告とお礼を伝えた。

 その夜は、お祝いとしてご馳走をふるまってくれた。


 数日後、入学許可証が届く。


 3人とも、武術・魔法に関しては制限なし。つまり、どの授業でも自由に受けられるということだ。


 ……とはいえ、私にとっては関係ない。


 武術・魔法の授業を受ける必要はないし、これからは目立たずモブキャラとして生きていくのだから。


 そして、もう一つ。


 冒険者ギルドから必須とされていた科目『礼儀・作法』。


 キュレネとムートは制限なし。だが――私は『初級』の制限付きだった。


 ……あれ? そんなに差があったの?

 ――まあ、しょうがない。

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