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第106話 ヴェルティーソ高等学園 入学試験1

 ヴェルティーソ高等学園――。


 旧帝国初期に設立された、由緒ある最高学術研究機関であり、その存在を支えるようにして人々が集まり、大都市が形成された。現在では、ドゥティリ共和国最大の都市として、古き街並みを残しながらも発展を続けている。


 帝国崩壊後も、強力な結界と魔法によって度重なる戦乱を耐え抜き、学園は今なお、旧帝国時代の最先端研究を受け継ぎながら進化し続けている。各国からは優秀な学生たちが集まり、その多くが将来、国の中枢を担うことを期待されている。このため、学園は学術機関であると同時に、各国間の交流を担う重要な社交の場としての役割も果たしている。


 私たちが入学を予定しているのは、在学期間1年の「社会人コース」だ。特定のクラスには所属せず、希望する授業を自由に選択できる。ただし、資格がなければ受講できない科目もあり、たとえば「上級魔法講座」は、事前に「中級魔法講座」の履修が必須となっている。こうした制限は、実力や身分に基づいて課されることもある。


 私の場合、冒険者ギルドからは「礼儀・作法」や「組織運営」、さらにグレゴリオ大神官からは神学の基礎から応用に至るまで、いくつかの単位取得を義務づけられている。ただし、それ以外の授業は自由に選んでよく、かなり柔軟に好きなものを学べるよう配慮されている。


 一方、社会人コースとは別に「一般コース」も存在する。こちらは3年制で、クラス分けがあり、私の想像する“学園生活”により近い形だ。一般コースではあらかじめ決まったカリキュラムに従って授業を受けるため、社会人コースに比べて自由度はやや低い。


 なお、授業そのものはコースごとに分かれていないため、社会人と一般の学生が混在して受講することもある。


 ◇ ◇ ◇ ◇ 


 ウィステリア神国の北に位置するドゥティリ共和国。

 その首都にして学術都市であるこの地に、私はヴェルティーソ高等学園の入学手続きのため、ようやく到着した。


 学園の敷地は広大だが、受験受付は門近くにある建物で行われていた。

 実際の試験は一か月後。今日は受付の最終日だったが、特に問題もなく、無事に受験票を受け取ることができた。

 受付には他にも何人かが訪れていたが、どうやら本人ではなく代理人らしい人が多かった。



 それから私たちは、かつてキュレネたちの先生をしていたというエリーサさんを頼ることにした。もちろん報酬は支払うが、この時期に受験指導を引き受けてくれる人はそう多くないという。以前見ていた生徒が途中で通うのをやめたため、たまたま手が空いていたらしい。


 エリーサさんは、ヴェルティーソ高等学園の東側に広がる、通称「東地区」に住んでいる。この一帯は、主に学園関係者や富裕層が暮らす高級住宅街で、出入りは厳重に管理されていた。


 私たちは事前にエリーサさんに連絡しており、来訪者として登録されていたため、無事に中へ入ることができた。


 東地区は整然と区画整理され、立派な邸宅が立ち並んでいる。その中でも、やや小ぶりな屋敷が集まった一角に、エリーサさんの家はあった。


 屋敷の玄関を訪れると、使用人に案内されて応接室へ通された。


 しばらくして現れたのは、眼鏡をかけ、薄いオレンジ色の髪をまとめた、ややふっくらとした中年の女性だった。


 こちらを見るなり、ぱっと表情が明るくなる。


「キュレネちゃん、ムートちゃん、久しぶりね。少し大人っぽくなったわ。そちらの方は?」


「どうも、ご無沙汰しております。こちらは私たちの仲間、ティアです」


「よろしくお願いします」


「よろしく。私はエリーサ。この二人の家庭教師をしていたの。とても優秀だったから、てっきり推薦をもらって学園に入るものだと思ってたのに、推薦が出なくて受験できなかったのよね……あのときは本当に残念だったわ。でも、今年は推薦書がもらえたんですって? 本当に良かったわね」


「ええ。社会人コースですが、冒険者ギルドから推薦をいただけました」


「まあ、ずいぶん変わったところからね。でも、ヴェルティーソ高等学園を受験できるようになったのは何よりよ。……あれから一年くらい経つのよね。勉強、少し忘れてしまっているかもしれないわね」


「はい。ですので、まずは学力を確認して、この一か月で弱いところを重点的に補おうと思って、お伺いしました」


「わかったわ。……ティアちゃん、で合ってたかしら? あなたも受験するのよね?」


「はい」


「どのくらいの学力があるの?」


「……すみません、自分でもまったく分かりません」


「まあ、それじゃあ合格はちょっと難しそうね。でもいいわ。まずは三人とも、今の実力を知ることから始めましょう。確認テストを受けてもらうわ。それを見て、今後の方針を考えましょうね」



 試験科目は、神学、語学、社会学、応用魔法学。


 予備知識がほとんどないまま、とりあえず全教科の試験を受けることになった。


 最初は神学から。


 問題をざっと見たところ、精霊教典に関する記述の暗記や、その解釈・理解度を問う設問が中心だった。


 精霊教典は、大まかに「歴史」「魔法」「哲学」「科学」「神への戒律」「人間の規律」の六つの分類に分かれている。


 ・歴史は、神が精霊教を伝えるまでの物語。

 ・魔法は、基本的な構成理論に限られる。

 ・哲学は…おそらく地球の哲学と似ているが、正直、私はそもそも地球の哲学もよく知らない。

 ・科学の内容は、日本の中学で習う数学・理科レベルといった印象。

 ・戒律と規律は、ざっくりとしたルール集。ただし、規律のほうは時々「なにこれ?」と思うような奇妙な条項もある。


 このあたりの情報は、私の管理するサーバーにも記録があるため、ある程度は対応できた。ただし、解釈に関しては時代ごとに変化している可能性があり、正確なところはわからない。



 次に語学。

 こちらはいわゆる「国語」に加えて、複数言語間の翻訳も含まれている。


 転移直後から言語サポートを受けているため、基本的には問題ないはず。


 ただ、日本語の国語問題にありがちな“心情を風景で表す”ような、微妙な技法にどれだけ対応できるかはやや不安。



 続いて社会学。

 精霊教典の時代以降の歴史や地理、政治などが出題範囲となっていた。


 正直、ここはほとんど分からない。全体的に知識が抜け落ちている感覚。



 最後に応用魔法学。


 魔法の種類や構築手法に関する理論問題。


 感覚的には、精霊教典の魔法が「プログラミング言語」で、応用魔法学はそれを用いた「実際のアプリケーション設計」に近い印象。


 魔法の構築自体はサポートがあるためできるのだが、独自の用語や固有名詞が多く、意味を十分把握できなかった。



 その結果、100点満点中の点数は以下の通り:

  • 神学:80点

  • 語学:92点

  • 社会学:3点

  • 応用魔法学:32点



「ティアちゃん、神学と語学は素晴らしいわね。初見でこれだけ取れるなら、この2科目はトップを狙えるわよ」


 エリーサさんが感心したように微笑む。


「でも、社会学と応用魔法学はまだまだね。今回は全体で約5割……合格ラインは7割だから、あとひと月でどこまで伸ばせるかが勝負よ」


 ちなみにキュレネとムートは7割を超えていた。

 キュレネが優秀なのは知っていたけれど、ムートまで同じくらいできるとは意外だった。


「これからのことだけど、皆、合格発表が出るまでこの屋敷に滞在していいわよ」


「ありがとうございます」


「明日からの学習計画だけど……キュレネちゃんとムートちゃんは演習問題を中心に。ティアちゃんは、図書館で社会学と応用魔法学の書籍をひたすら読み込んでちょうだい」


 こうしてこの日は、お開きとなった。

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