第104話 ウィステリア神国大神殿13 討伐依頼
後日、冒険者ギルドマスターを交えた話し合いが行われた。
出席者はグレゴリオ大神官、ヴィクトル上級神官、マレウスギルドマスター、そして私たちクラーレットの奇跡。
まず、グレゴリオ大神官が口を開く。
「今日の話は秘密扱いとする。よろしいか?」
「承知した」
「では本題に入ろう。マレウスギルドマスターをお呼びした理由だが……今回、神都チェフーボを再三襲撃していた魔物の背後には、魔人とヴァンパイアがいた。
それをここにいるクラーレットの奇跡が討伐した」
「なに……魔人が背後にいたのか。それにしても、ドラゴン討伐に続いて今度は魔人とは……もはや冒険者最強かもしれんな」
マレウスギルドマスターは驚きつつも、感嘆の声を漏らした。
「討伐の証拠は?」
「はい」
用意していた魔石や遺体を提示する。
「なるほど、これは確かに……すごいな。それで、私が呼ばれたのは何か問題でも?」
「クラーレットは事情があって、あまり目立ちたくない。一方で、精霊教会側としては、この討伐を教会の功績として公表したいと考えている。
クラーレットは光神官でもあるため、教会の功績とすること自体は問題ない。だが、彼女らには冒険者としての正当な評価も必要だ。
そこで、クラーレットの名前を伏せつつ、精霊教会の成果として発表できる方法を模索している。冒険者ギルドにも協力をお願いしたい」
「なんだ、そんなことか」
マレウスギルドマスターは拍子抜けしたように笑った。
――あれ? そんな簡単にできるの?
「後出しで、冒険者ギルドに魔人とヴァンパイアの討伐依頼を出せばいい。そうすれば、冒険者の成果であり、依頼者の成果でもある形にできる。
魔石や遺体も必要なら、依頼書に明記すれば問題ない。もちろん、その分の報酬も上乗せされるから、冒険者側の取り分が減ることもない。
ただし、その依頼をギルドが正式に認め、クラーレットが受注する必要がある。それさえ満たせば、ギルド側もクラーレットの関与は秘匿する」
「なるほど、それならこちらも問題なさそうだ。クラーレットはどうだ?」
「私たちも、それで問題ありません」
その後、依頼書の内容を相談し、最終的に2億サクルの依頼として成立した。
そのまま手続きを進めるため、私たちはマレウスギルドマスターと共に冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの中に入ると、マレウスさんは一人の女性に声をかけ、そのまま応接室へと案内される。
間もなく、ノックの音とともにお茶が運ばれてきた。お茶を持ってきた女性を、マレウスさんが紹介する。
「彼女は私の秘書をしているアリーチェよ。今回の事務処理は彼女に任せるわ」
そう言って、グレゴリオ大神官からの依頼書と、討伐完了の報告書を手渡す。
「秘匿案件だから、よろしく頼むわ」
アリーチェさんは書類を受け取り、僅かに眉を動かした。
「……魔人ですか?
わかりました。まずは書類を確認させていただきます」
彼女は手際よく書類に目を通しながら確認を進める。
「ええと……討伐の証拠品はギルドで鑑定後、大神殿へ納入する形ですね。書類に不備はありませんので、鑑定を行い、ギルド側の手続きを進めます」
そう言うと、部屋の隅に置かれた魔石鑑定装置を操作し、魔石の鑑定を開始した。
「……ガ、ガリエン=ルゥ……確認しました」
驚いたように小さく息を呑み、もう一つの魔石に視線を向ける。
「もう一つは……ヴラディス……両方、間違いありません」
私は思わず口にする。
「名前まで分かるんだ……」
すると、アリーチェさんが返事をくれた。
「ええ。過去に対戦履歴があるなど、魔力パターンが判明している強力な魔物は、個体識別が可能になっています」
「すごい……」
「確認ですが、これらを三人で討伐したということでよろしいですか?」
「いや、ガリエン=ルゥはティア一人、ヴラディスは俺とキュレネで倒した」
ムートが即答する。
……あれ? そんなに厳密に分ける必要あったっけ?
今までだって、個別に討伐しても、パーティ全体の成果として報告していたよね?
「えーと、別々に討伐に向かわれたのですか?」
「いや、三人で行って、戦闘を分担しただけだ」
「それなら、パーティとして討伐したことにしても問題ありませんよ」
「いや、ティアの力を借りずにAランクの魔物を討伐したという証拠を残しておきたいんだ」
ああ……。
私と一緒じゃなくてもAランクの魔物を討伐できたという実績があったほうがいいか。
私が神様バレしたとき神の力を借りなくても倒せたという証拠になる。
ムートは、そういうことを直感で察しているのかな?
そこへ、キュレネが口を挟んだ。
「今までも、報酬はパーティで分配しつつ、称号や勲章は実際に討伐に直接関与した人が受け取る、という形でやってきました。それで構いませんよね?」
「ええ、それで問題ありません」
「ムート、それでいい?」
「ああ、それで問題ない」
「では、ガリエン=ルゥはティアさんお一人で、ヴラディスはムートさんとキュレネさんのお二人で討伐した、ということでよろしいですね?」
「はい」
「では、魔力の残滓を確認させていただきます」
アリーチェさんは、魔導具を使い、ガリエン=ルゥの遺体とヴラディスの灰を調べる。
「申告通りの結果ですね。それでは、正式にそのように処理させていただきます」
「この依頼の報酬は、依頼書通り二億サクルになります。
また、ティアさんには『デーモンロードスレイヤー』、ムートさんとキュレネさんには『ヴァンパイアスレイヤー』の称号と勲章が授与されます」
「手続きをしてまいりますので、このままお待ちください」
そう言い残し、アリーチェさんは部屋を出て行った。
……あれ? なんとなく『ヴァンパイアスレイヤー』のほうがカッコよくない?
と、どうでもいいことを考えていると、マレウスギルドマスターが口を開いた。
「手続きの邪魔になると思って黙っていたが……あのガリエン=ルゥを一人で倒せるものなのか?
いったいどうやったんだ? 正面からやりあって勝てる相手とは思えないが……」
うーん、どう答えたものか……?
私が考えている間に、ムートが勝手に答えてしまった。
「魔法で簡単に倒してたぞ」
「は?」
マレウスギルドマスターが、本当か? という顔でこちらを見る。
まぁ、本当のことだから否定しづらい。
「私の魔法と相性が良かったみたいです」
私の魔法と相性の悪い相手には、今のところ出会ったことないけど……。
「……いや、それにしても……」
納得がいかないようだが、ムートと私の軽い雰囲気に、言葉を失っているようだった。
この隙に、話題をすり替えよう。
「あのヴァンパイア、ヴラディスも苦手な魔法があったみたいですよ」
「そうだ、それも聞きたかった話だ。
ヴラディスは魔法も剣も通じないと言われていた。攻撃力こそ魔人に劣るが、不死身ではないかとも噂されていた。
それをどうやって倒した?」
ちらりとキュレネの顔を見ると、「言っちゃダメ」という表情。
「ふふっ。そんな簡単に種明かしはしませんよ。
もしヴァンパイアでお困りなら、クラーレットの奇跡にご相談ください」
「くぅ……! 確かに、そんな重要な情報を軽々しく話すわけにはいかないか……しょうがない」
そんなやり取りをしていると、アリーチェさんが部屋へ戻ってきた。