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鈍色の飴唄

作者: 勿忘草

あなたは俺なんかと同じじゃない

ふと思い出す

「○○は。過去の私のようだった」

そんなわけがないと当時も否定をした

あなたほど、俺は努力も優しさも持っていない

それはもう過去の話になる

優しさの熱を持つあなたを思い出す

それが眩しかった

イカロスの気持ちだった

太陽に恋い焦がれ、文字通り燃えてしまった

あの時のリセットは、さよならのサインだった

隣にいると、見えてくるものがあった

自分の汚さが、狂気が見えてきた

幻覚も幻聴も、それを知らせるものだった

別に嫌いになったわけじゃない、尊敬していた

インターンで中国に行ったこと、創作活動を続ける勇気に尊敬の念を抱いた

あなたの知らない俺の過去があったように、俺はあなたの過去を知らない

所詮は過去の話なのだ

現在にとっては、全て過ぎ去ってしまったものでしかない

俺にとって、あなたは太陽だった

俺を照らしてくれたあのひと時

それは俺の闇すらも照らしてしまった

気づいていなかった闇が見えた

永遠の上に佇む少年だった俺は、ひどく汚れてしまった

自殺未遂もした、過剰服用もした、金で愛を買った

あなたは俺なんか同じじゃない

犯罪もなにもしていないそのきれいな手を、自分の言葉で汚さないでほしかった

多くのことを忘れた

あなたの暖かさも残っているのか、それすら曖昧だ

でも、それを求めることはしない

そう決めた

大学の人とも会うことはもうないだろう

いや、たった一人だけ会う可能性はある

それは友達として会うわけじゃない

犯罪者になった俺を裁く場で会うことになるだろう

なにをしたかは言わない

隠したいわけじゃない、せめてあなたたちの記憶の中の俺は無垢であってほしい

それすら俺のエゴだ

実名報道されたら、わかる

ニュースになったら、わかる

そういうことだ

さよなら、俺の青春時代

さよなら


あなたは俺と一緒じゃない

磨りガラスの瓶の外から見た俺は

喜びにさえ傷つく今に消えゆこうとする灯火だったそうだ

大学卒業してから。もう6年

俺の人生が壊れてから、まだ6年

多くの人と会わないようになって、6年

それだけあれば、人は変わる

みんな変わっていた

あそこに過去に縛られている人は俺だけだった

部外者は俺だけ

みんな結婚をした、添い遂げる相手を見つけた

それは祝福すべきことだ

そこに俺がいたらいけない

俺はもう純粋に人を祝福できない

薬で鎮静化させている黒い感情がいつ顔を出すかわからない

だから、俺はあの場にいてはいけない

会いたかった、それが叶った

なら、他になにを望もうか

みんな幸せなら、後悔のない人生を送れているなら

それ以外、なにを望もうか

俺は逮捕される、だからこそここでさよなら

もう忘れてください

過去を振りかえって、そんな奴もいたな程度ですら傲慢な願いになる

だから、忘れてください

6年前、死ねなかった命はもう消えます

消します、それが最善だから

救いはない、求めていない

そんなの時間の無駄ですよ

会えば、少しは重荷になると思った

生きる糧になると思った

だけど、楔は減った

死ねない理由を作るために犯罪を犯した

いや、それすら嘘だ

犯罪に走った理由はわからない

生きるためなのか、死ぬためなのか

衝動性に呑まれたことは確か

なんでやったんだろうとずっと考える

答えはない、そんなことになるなら死んでおけばよかったと後悔する毎日です

だから、ここでさよならです

10年前にもう戻れない

6年前に戻りたくても戻れない

だから、ここで終わらせることにします

それが俺の償いだから

これ以上、おかしくなる前に

これ以上、罪を重ねる前に

死ぬことを選ぶ

死にたいだけじゃない、社会の悪は消えないといけない

だから、死ぬ

それが最後の答え


最後に心に正直になると

誰かに必要とされたかった

仕事も点々とせずに安定したかった

誰も憎みたくない

誰も恨みたくない

俺は俺のまま、死にたかった

それすらもう夢物語

だって、俺の手は真っ赤に染まったから

誰にももう触れられない

罪の結果がわかったら、死ぬつもり

こんな奴、生きているのか社会のガンだ

俺はガンになった

正常な細胞から変異した

厳密には、それはガンじゃないけど

わかりやすいからガンとします

社会のガンは消えるべきなのです

だから、もうさよなら

さよなら、多くの優しい人よ

さよなら、クソみたいな人生

さよなら、かつて一緒にいた人よ



たぶん、気付かれる

いや、気づかないわけがない

だってこれはアンサーなのだから

6年越しのアンサーなのだから


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