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39 イルマル王国の明日と私たちの今日

 

 ファンファーレが鳴り響き、広場から歓声があがった。皆が上を見上げるとバルコニーにはマティアス新国王とウエディングドレスを着たリイラの姿があった。

 私とアルト様は民に交じって盛大な拍手を送った。


「リイラ、おめでとう!」

 ありったけの声を出してお祝いする。リイラは幸せそうに民に微笑みを向けている。



 あれから数ヶ月。


 国はまだまだ落ち着いてはいないけれど、徐々に変わっていっている。

 新しい国の重役もほとんど貴族で構成されてはいるし、貴族が優位なのはすぐには変えられない。でも先日大臣の一人に平民が就任したと大きな話題になっていた。臨時魔法士たちもそのまま新国王直属部隊として活躍している。

 貴族の不満はあるけれど、表立って反発はできないし爵位関係なく重役に登用される制度に変わったことで熱意を持つ人も多いらしい。


 アロバシルアも大きく変わった。貴族だけでなく魔力を持つもの皆が通える学園に変わっていくらしい。将来的には王都だけでなく、全国的に広まればいいとマティアス様は民の前で話していた。

 もちろん元々の生徒もそのまま通えるということで、リイラは今も学園生活を変わらず送ってるんだとか。

 そういえばリイラからサンドラの姿を見なくなったと聞いた。父が投獄されて頼れる貴族の家がなくとも、今後は平等になっていく世の中なのだ。本人の意識が変われば……まあどちらにせよ私はあの家の人間と会うことは二度とないだろう。今どうしているかを知るつもりもない。


 そしてマティアス様とリイラの婚姻だ。

 急すぎないかという意見もあったけど、新国王と平民の婚姻こそ平等な世界を作っていくアピールができる!ということで。大々的に国をあげて結婚式を行った。

 それももちろん大きな理由だと思うけど、マティアス王子がちょっと焦ったんじゃないかと私は思っている。

 だって助けに来てくれた攻略対象たち、リイラのために命をかける気満々だったもの。あれは好感度はかなり上がっている状態に違いない。王子はもう学園に通っている場合でもないし、リイラを繋ぎとめておきたかったのかも。なんて邪推してしまいます。


 そうそう、私たちに直接関わる魔族について。

 魔人や魔物への潜在的な恐怖はなかなか拭われるものではないと思っている。だからすぐに安心安全です!と主張するつもりはない。ただでさえまだ国は落ち着いていないしね。

 だけど、何十年かけてでも徐々に誤解をといていきたいとマティアス王子は約束してくれた。


 そしてアルト様にもお仕事ができました! 魔物の研究のお手伝いのために時々王都にも出向いている。魔物が危険を孕む生き物なのは間違いではなく、だけど繁殖期の狂暴性を抑えられれば魔の森に閉じこめなくても人間と共生する未来もあるかもしれない。そんなことを信じて研究を行っているのだ。

 アルト様が孤独に二十年続けていた研究を発展させて、魔物の未来に繋げていく。


 アルト様ははたから見れば、人間にしか見えない。

 だから王都に住んではどうか?とマティアス様から誘いもあった。

 私たちの功労を称えて王都での暮らしを保証する。と言ってしまうところは、まだまだマティアス様の青い若い部分だ。

 金銀宝石、それから王都での優雅な暮らしが、皆の幸せなわけではない。

 私たちは申し出を丁重にお断りして、魔の森で今まで通りの生活を続けている。まだ魔物の制御もしないといけないしね。


 だけど、こうして結婚式に出ることができるくらい自由になった。

 買い出しだって好きな時に好きな場所に行ってもいい。これからアルト様としたいことはいっぱいある。

 隣にいる民はアルト様が魔人だと気づいていないだろう。実際はそんなものだ。この広場にいる人を、平民、貴族、魔人と一目で見分けることは難しい。私たちに大きな違いなんて本当はないんだ。


 雲一つない爽やかな青空から、色とりどりの花びらが舞い落ちる。

「きれいですね」

 乙女ゲーム・フォスファンタジアのマティアスエンドも、こんな風に結婚式のイベントだった気がする。ハッピーエンド、大団円を迎えたのだ!

 でも唯一違うのは、私の隣にいるアルト様が生きていること。彼は殺されることも、何も奪われることもなく。こうしてここに立っていてくれる。

 ……私が掴みとったんだ、この幸せは。胸がぎゅっと苦しくなって涙にかわる。隣を見上げるとアルト様は穏やかなまなざしをこちらに向けてくれるから私は涙に気づかれないように笑顔を返した。


 ・・


 結婚式に出るついでに、私たちはちょっとした旅に出ることにした。

 転移魔法なんかは使わないで。魔の森の門から堂々と出発して、馬車や汽車を乗り継いで。

 自由になったなら、好きな場所に出かけてみたい。そう思っていたけれど、この数ヶ月実現できないままでいたからちょうどいいタイミングだった。

「新婚旅行でしょ、今回は二人きりで行ってきなさいよ」とショコラが言うから、今回は二人だけの旅だ。


 王都から出た私たちは海に向かうことにした。――何百年も昔に魔人が住んでいたという海の方へ。

 それは建前でもあって、本音はお互い海に行ったことがないから純粋な興味だった。


「リイラ、きれいでしたね」

 汽車を乗り継いで、海辺の近くの駅から私たちはのんびりと歩いていた。魔の森とはまた違う雰囲気の自然が広がっていて、少し磯の香りがする。


「アイノはいいのか?」

「何がですか?」

「花嫁にならなくて」

「え、私アルト様の花嫁のつもりでしたけど」


 私が言うと、アルト様はなぜか口ごもり少しきまずそうに視線をそらす。


「……違う。結婚式だ」

「ああ!」

「通常、白の花嫁は花嫁行列を行うだろう。今回はそれもなく……その……何もしてやれていない」

「マティアス王子にお願いしたら、めちゃくちゃ盛大な花嫁行列してくれそうですよね」


 魔の森に初めて向かう時に宝石をゴテゴテと頭につけられたことを思い出して笑みがこぼれた。


「やりたいか?」

「いや、全然いらないですよ! そもそも国のためにやるのもね」

「しかし」

「あ、そうだ。私、魔の森で魔物たちの前でしたいです。イルマル王国からの白の花嫁としてじゃなくて。そっちの方が魔王の花嫁っぽいでしょ」


 今まで魔物とは全然触れあえていなかったのだ。暗黒期前は私は魔族として認められていなかったし、暗黒期がきて正式に花嫁になっても三区から出られなかったし。これからはたっぷりモフモフライフを送らせていただきます。


 アルト様を見やると、目を丸くしてこちらを見ている。


「変なこと言いましたか?」

「いや、やろう。……ありがとう」

「これからは魔物とも関わっていきたいんです。色々教えてください」

「わかった」


 アルト様は目を細めて私を見つめてくれる。最近こんな風に柔らかい表情をすることが増えた。

 暗黒期が終わってから、肩の荷がおりたのか、あまり気を張らずにいてくれている気がする。アルト様のその変化が嬉しかった。


「あ」

「なんだ」

「手、繋いでいいですか。せっかくの新婚旅行なので」


 返事の代わりに大きな手が私を包んだ。

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