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プロローグ:ドアマットモブは決意する

 


 フォスファンは大好きな乙女ゲーム。


 魔力がある者しか入学できない魔法学園アロバシルア。

 イルマル王国では貴族しか魔力は現れないはずなのに、平民であるリイラに学園から入学許可カードが届くところから物語は始まる。


 第一部の学園パートは、よくある魔法学園パラ上げゲーだ。

 平民ということで虐げられるリイラだが(ここで活躍するのが私の姉・悪役令嬢サンドラである)魔力の才能を開花させイケメンたちに認められていくシンデレラストーリーだ。



 そしてこの乙女ゲームの人気の理由は第二部の展開。


 第一部の終わりに世界は暗黒に包まれて、魔物があちこちに出現するようになる。


 イルマル王国には魔族が住む森があり、魔族はそこから出てくることはない。しかし数十年に一度「暗黒期」が訪れると、魔人に人間の花嫁を捧げなくてはならない。


 魔人は男しか生まれず、子孫を残すためには魔力のある人間の女が必要になる。

 人間が名付けた「暗黒期」つまり魔人の生殖期になると人間の女を求めて我をなくし自己制御ができなくなる。その結果、普段は魔人の制御で抑えられている魔物が人間の住処を荒らしてしまうため、それを鎮めるために、「白の花嫁」を捧げる。何百年もこの儀式は続いてた。


 白の花嫁は魔力がある若い女であれば誰でもいいのだが、貴族たちが自分の娘を差し出すわけがない。白羽の矢に立ったのが魔力を持つ平民のリイラだ。



 第二部は、リイラの花嫁行列から始まる。

 国に祀り上げられ、魔の森に入ったところを攻略対象たちが助けに来る。国のために彼女を犠牲にしてたまるか! と攻略対象たちとリイラの逃避行劇、となるわけだ。


 花嫁として儀式に参加すると、魔王はその人間をたったひとりの花嫁とみなし異様に執着して追いかけてくる。運命のつがい、みたいなものかもしれない。理屈じゃないのだ。


 魔王だけではなく、自分たちが助かることしか考えていない貴族や国民からも追われることになる。

 リイラたちは元凶をたつべく魔王を倒しにいく、そんな流れだ。



 一部がラブコメテイスト(サンドラのいじめもあるけど適度なざまぁはいいエンタメである)なのに比べて、二部はがっつりシリアスになる。この落差が人気のポイントだ。



 魔王との戦いだけでなく、国の闇も暴く要素も面白いのだけど、とにかく人が死にまくる。

 攻略対象も自分のルートでなければ大体死ぬ。国からリイラをかばって、魔王からリイラをかばって、とにかく死ぬ。バッドエンドの数も多くてリイラは何度も死んだ。そこらへんのモブも死にまくるから、モブであるアイノもたぶん巻き込まれて死んでた。


 悪役貴族が「お前ひとりが犠牲になれば全ては救われるのだ」とかリイラに言うけど、本当にその通りだな!と突っ込んでしまったくらいみんな死ぬ。




 だから、私がやることはただひとつ!

 リイラのかわりに私が白の花嫁に立候補するわ!

 生贄がすんなり魔王のもとへいけばお話は終わりなんだから!




 第一に、私は魔力がある。だから生贄としてアリ。


 魔王はリイラだから執着してるわけじゃない、儀式で花嫁と決まったからリイラに執着しただけだ。


 あの性悪家族は私が生贄になると聞いたら大喜びするだろう。がめついから娘を花嫁にしたのだから褒賞をよこせとわめくこと間違いなしだけど。




 第二に、私に未来はない。


 寮生活の間は人間生活が送れても、三年後にはプリンシラ家に戻り、すぐにどこかに嫁がされることになる。どうせろくな家にはいけないだろう。

 老人や貧乏貴族ならまだマシで、がめつくて性悪母のことだ。できるだけ金を持っていて、なおかつ底意地の悪い貴族に嫁がされる。

 噂は最悪だけど実は優しいイケメンでした! という恋愛小説のようなことは絶対にない。あの母親はそこらへんきっちりしっかりしている、最悪なことに。



 第三に、私はリイラが好きだ。そしてリイラとメインヒーローである王子のカップリングが大好きだ。


 フォスファンがアニメ化された時、リイラの相手は王子だった。マルチエンドではないこの世界ならリイラの相手は王子に違いない。幸せになってください。



 第四に、リイラが花嫁になるのは攻略対象が絶対に許さない。


 第一部中に攻略対象全員の好感度をアップすると魔王アルトルートが開かれる。全員から想われる逆ハーと、魔王からの執着愛とがメインとなるシナリオなのだ。ヒロインを奪い合って殺し合う、なかなか過激な展開だ。


 その点、私が花嫁になったところで誰も奪還しようと思わない。悲しいけれど。




 そして、一番の理由は単純! 私の推しは魔王アルトだから!

 完全にオタクの私欲だけど、それで世界が救えるならそれでいいでしょう!?



 魔王。今作の敵のひとつであり、リイラたちを死に追い込む相手。ヤンデレというより正気を失っているとも言える。


 彼にハッピーエンドはない。メリバエンドかバッドエンドだけ。


 彼のルートは攻略対象vsアルトになる。

 このルートだけは花嫁行列が無事に終わり、監禁溺愛が始まるストーリーになる。リイラも彼にほだされていく……のだが、好感度マックスの攻略対象たちが絶対にそれを許さない!(ちなみに誰の好感度も上げないと花嫁行列イベント前に魔物に襲われるバッドエンドになる)


 アルトとリイラはお互い想い合っても、攻略対象たちとのすれ違いで悲しい結末になってしまうのだ。


 

 孤独だったアルトがただ一人の花嫁に必死に愛を乞う姿と切ない結末が彼が人気投票一位の理由だ。

 ファンディスクで二人の幸せを求める声も多かったけど、メリバエンドにこだわりを持つ制作陣はアルト✕リイラのハッピーエンドは意地でも作らなかった。



 とにかく! 私の私欲も大いにあるけど、世界のためでもある。

 アルトと結ばれたらリイラは死ぬ。リイラが死ななければアルトが死ぬ。二人が一緒に生き残るエンドはない。そして国も滅びる。



 それでいくと、私もアルト様と恋をしたら最後。未来にはバッドエンドが待ち受けているのかもしれないけど。



 どうせ学園卒業後に私に待っているのは地獄だし、リイラが白の花嫁に決まってしまえば人はたくさん死ぬ。私もそこで巻き込まれて死ぬ確率も高い。恋して推しの腕の中で死ぬ方がいいに決まっている! 命短し恋せよ乙女だ。


 少なくとも花嫁が捧げられれば、必要以上に人がボコスカ死ぬことはないだろう。


 というわけで! ヤンデレ魔王様は私が溺愛して、リイラとこの国にはハッピーエンドを迎えてもらいます!

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