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14 魔の森にもクリスマスがやってくる

 


 魔の森にも冬がやってきた。

 ラディッシュたちは無事に収穫できたし、秋に植えた冬野菜たちもそろそろ収穫が近づいてきた。

 ここは世間から切り離されていて実感がわかないけど、そろそろ魔の森にもクリスマスがやってくる!


「なんだこれは」


 リビングルームに現れた、私の身長程あるモミの木を見てアルト様はしかめ面をする。


「クリスマスツリーですよ」

「それは知っている。なぜここに」

「クリスマスが近づいてきたからですよ」


 フォスファンタジアは『日本人が想像するゆるふわなんとなくヨーロッパ』世界観を採用しているので、四季やイベントも日本と同じでとてもやりやすい。ついでに言うと料理や食材も純和風的な物以外は揃っているし不便はない。だからクリスマスも、ある。


「私がモミの木を調達してきたのよ」


 ツリーの下から赤いリボンをくわえたショコラが顔を出した。私はそれを受け取ってもみの木に飾っていく。


「屋敷にあったいらない端切れを使って、リボンにしたんです。これを飾るとクリスマスツリーになりますよ!」

「ツリーは知っている」

「季節のイベントをするなんて二十年ぶりだから照れてるのよ」


 ショコラはニヤリと笑うと、二本足で立って器用に赤いリボンを結んでいく。


「小さい頃のアルトはクリスマスパーティーを楽しみにしていたのにねえ」

「わ、そうだったんですか。じゃあ今年は楽しみましょうね」

「もう子供ではない」

「楽しみですね!」


 アルト様に、はいどうぞとリボンを渡すと、私の手が届きにくい高い場所にリボンを結んでくれた。


「ありがとうございます」

「クッキーはないのか」

「クッキー?」


 当たり前のようにアルト様が聞いてくるので、私は手を止めて考える。


「ああ、もしかして。オーナメントクッキーですか? 今回はリボンしか用意していませんでした」

「必需品だと勘違いしてただけだ」

「いいですね、クッキー。一緒に作りましょう」

「別に飾りたくて聞いたわけではない」

「せっかくですからね!」


 幼いアルト様が思い浮かべたクリスマスツリーにしてあげたい。チビアルト様も可愛かったんだろうなあ。


「変なことを考えるな」

「考えていませんよ。でも残念ながら今日はクッキーを作る材料がないので、次の買い出しの後にしましょうか。――よし、完成」


 家にあった端切れリボンを飾っただけでも大変かわいいクリスマスツリーが出来上がった。暖炉の隣に並ぶとますます可愛い。


「クリスマスプレゼント欲しいものはありますか?」

「ない」

「じゃあ勝手に用意しますね」

「アイノは欲しいものないの? アルト、たまにはアイノにプレゼントでもあげなさいよ」


 ツリーを嬉しそうに眺めていたショコラが聞いてくる。余計な事を言うなという目でアルト様はショコラを見る。


「婚約指輪ですね、そろそろ本物の花嫁になりたいです」

「本気のやつがきたわね」

「重いな」

「ふふ、冗談ですよ。一緒にケーキ食べてクリスマス会しましょうね。約束ですよ」


 アルト様とショコラへのプレゼント何にしよう。やっぱりクリスマス定番の編み物なんかがいいかもしれない。この屋敷に毛糸や編み棒はあったかしら。この屋敷は探せば案外色々なものが出てくる。後で探してみようっと。


「私からアイノへのプレゼントは変身魔法っていうのはどうかしら。アイノそろそろ街に出たいんじゃない? クリスマスの買い出しに私と行きましょうよ」

「え、でもいいんですか?」


 アルト様を見やると「王都へは行くなよ」と一言だけ発し、部屋に戻っていった。


「こないだアルトから言ってきたのよ。アイノも出かけたいんじゃないかって」

「アルト様が……?」


 意外な提案に驚いた、出かけられるなら出かけたい!

 ここでのスローライフに不満があるわけではないけど、ショコラに依頼するのではなく、自分の手にとって選びたいなと思うこともある。

 それにクリスマスシーズンの街並みはどこの世界も素敵だと決まっている。フォスファンの世界も例外ではなく、背景がクリスマス特別仕様になってて可愛かった!

 ここ二年は閉じこめられていたけど、お母さんと出かけたクリスマスマーケットはとても楽しかったんだから。


 クリスマスって本当に胸が高鳴るわ。……リイラも素敵なクリスマスを過ごせるといいけれど。一年生のクリスマスイベントを一緒に過ごした相手のルートに入るから、リイラと王子が一緒に過ごせるように祈らないとね。



「よし、買い出しに行くわよ!」

「今から?」

「そうよ」


 あれこれ想像を膨らませていた私の元にショコラはトテトテ近づいてきて「屈んで」と指示をする。言われた通りに屈んで彼女に顔を寄せると、ショコラは私の頬に肉球をプニと当てた。

 そして、かわいい前足で空中でくるりと円を描くと、空中に水の膜が張られた。


「即席鏡よ。ほら、見て」


 水面にうつっているのは、黒髪ロングヘアの私だった。髪型が違うだけでまるで私じゃないみたいだ。


「これを見てアイノだと気づく人はいないでしょ。ついてきて」


 ショコラはリビングルームから出て二階に上がり私の部屋の隣にある空き部屋に進む。いつかみたいに二十年分の埃が出てくるのではないかと身構えたけど、扉を開けてもくしゃみは起こらない。部屋は家具一つもないガランとした空間だけど、日々掃除はされているみたいで清潔だ。


「ここは?」

「街への移動装置。この部屋自体に転移魔法をかけているの」

「魔の森を通って出るわけじゃないのね」

「国に気づかれたら嫌だから念のためよ。私のことは魔人だとは思わないだろうけど、魔力を感知されても困るから。今から転移する場所も王都じゃないから安心して。――ついたわよ」


 簡単に説明してくれたショコラは部屋から出ようとする。


「待って。もう転移完了したの?」

「そうよ」


 相変わらずショコラの魔法はすごい。何も呪文も唱えていないし、部屋に魔法陣的なものも見当たらない。それなのにものの数秒で目的地に移動できたらしい。

 転移魔法って三年生でも取得できる人はわずかな、上級魔法なのに。


「行くわよ」


 もう一度ショコラを見ると彼女は料理を食べるときと同じく人間の姿になっていた。

 そうそう、変身魔法だってかなり上級魔法なんだから。


 ショコラが扉を開けると、そこは廊下だった。どこにでもある屋敷の廊下だ。


「ここは?」

「ここはアルトの母の実家なの。一階は雑貨屋で、アルトの母の弟が継いでいて……今はえーっと、アルトの母の弟の息子の息子がやっているのよ」

「だからここに転移魔法を」

「そう。買い出しも協力してくれているしね。この街は王都から一時間は離れているし、貴族もいないから。気づかれることもないわ」


 簡単に説明するとショコラは慣れた様子で廊下を進み、階段を降りていく。

 階段を降りた先は、雑貨屋になっていた。二階が居住スペースで、一階がお店なんだ。

 久々の外の世界。久々の雑貨屋。見るだけで心が躍る。アンティークな店内はあちこちに植物が置かれている。

 クリスマスシーズンだけあって、リースやツリーの飾り。クリスマスのお菓子もある! 気分が高鳴るのは当たり前だ!


「ショコラ、来てたのか」

 レジにいた優しそうな小太りのおじさんが声をかけてくれる。


「今日はお客さんがいるね。その子が最近話してくれる子か?」

「そうよ」

「はじめまして」

「こんにちは。はじめまして!」

「いつも彼が園芸のことを教えてくれるのよ。この店は種や植物の取り扱いも多いから」

「いつもありがとうございます。本当に助かっているんです!」


 ショコラはいつもこの店主に話を聞いてきてくれていたのか。種の植え方や、初心者でも扱いやすい野菜など。ネットがないこの世界で彼の助言はとてもありがたかった。


「そうそう、春に向けて花の種が欲しいと言っていただろう。次来た時にと思って用意してたんだ。ちょっと待ってて」


 おじさんは笑顔を向けてくれると、レジの後ろにある部屋の方を向いた。棚がたくさん見える、きっと在庫はここにあるのだろう。


「リイラ! 三番の棚にある箱を持ってきてくれないか。黄色のやつ」

 後ろの部屋に向かっておじさんは声をかけると「はーい」と声が聞こえた。


 ……私が逃げ出す暇もなく、おじさんの後ろから少女が顔を出した。


「はい、どうぞ! ……え? アイノ?」


 私の目の前に現れたのはもう二度と会えないと思っていたリイラだった。




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