06 シロイヌナズナ
不思議な女子生徒に遭遇した朝、教室に行くと楓が俺の席で待ち構えていた。
「こらー!しろー!なんで連絡無視するの!」
今朝、俺がメッセージを無視した件で、楓はぷりぷりと怒っている。
いや、腹痛のときにあのハイテンションメッセージに対応するのは至難の業なのだが…
「あーすまん、見てなかった」
「嘘つけ!直前までずっと会話続いてたでしょーが!」
毎度の如く、適当にあしらおうとするが、案の定楓は突っかかってきた。
「仕方あるまい。お腹痛いときにあんなに連絡されたら悪化しかねないだろ」
「なんかそれだと私が配慮が足りないみたいじゃん!」
「いや今朝のやり取りは実際そうだったろ…」
「うるさい!ナス爆発させたくせに!」
逆ギレとも言える楓の言動は置いといて、なぜか楓が休日のあの出来事を知っていたことに少し意表を突かれた。
「おま…何でそれ知ってんの!?」
「お前って言った…?」
「言ってない!言ってないから!」
「そう…」
「それより、なんでナス爆発させた事を楓が知ってるんだよ。まあなんとなく想像はつくけど…」
「バスで祭里ちゃんに会ったときに聞いたの!」
「やっぱりそうか」
うちの妹はおしゃべりなようだ。
俺のいないところで俺の話をしているとは…よし、許そう。可愛いから。
「史郎がオナラした瞬間に爆発したって聞いたよ!」
「なんか微妙に話盛られてるな…」
×××
朝のバスで楓さんに出会してから学校に到着するまでの間、ずっと絡まれ続けていた。
学年ごとに塔が分けられているため、学校に着いてすぐにで楓さんと別れた。
昇降口で上履きに履き替え、教室へ向かった。
やーっと楓さんから解放された…
相変わらず信じられない程ぐいぐいこられた…
あの人、止まらないんだよな…
昼休み、早めに昼食を済ませたので、教室でライトノベルを読んでいた。
もちろん「りんご学園」だ。お兄ちゃんの影響で最近読み始めて、すっかりハマってしまった。
お兄ちゃんの本棚から勝手に借りて読んでいるが、お兄ちゃんは最新刊を読んでいるので、途中の巻を取っても問題ないだろう。多分。
そういえば中間テストが近い。苦手な数学はなんとかしなければならない。
分からないところは家でお兄ちゃんに教えてもらおう…
「あの、柏山祭里さん…ですよね?」
聞き覚えのない声で急に話しかけられたので、顔を上げると、知り合いではない女の子が私の机に手をついて立っていた。
長く綺麗な銀髪が印象的で、ぱっちりと開いた瞳はまるでビー玉のようだ。
「あ、はい。 え、えっとあなたは…」
「白犬なずなです!A組の」
「ああ、隣のクラスなんだ。特進コースだよね。すごい、勉強できるんだ」
「いえ、そんな… あの、もしかして2年の柏山史郎先輩の妹さんですか?」
「え、あ、うん。そうだけど…」
彼女はにこっと微笑みながらブレザーの内側のポケットをあさった。
「よかった!これ、先輩に渡してもらってもいいですか?」
差し出されたその手には、お兄ちゃんの学生証があった。
「これ…お兄ちゃんの……?」
「はい!落とされたみたいで、今朝バスの中で拾ったんです!」
「ああ、そうなんだ。ありがとう、渡しておくね」
お兄ちゃんまた落としたのか…
「あ、それりんご学園ですよね!」
「え!知ってるの!」
「はい!すごく面白くて、大好きです!」
「そうなんだ!ヒロイン誰が好き?」
「ミライちゃんですかねー」
「うそ!私もだよ!ミライちゃん可愛いよね!」
彼女とはかなり気が合うようだ。初対面にも関わらず、会話が弾んだ。
その後も共通の趣味の話が続いた。
「いやー、白犬さんも結構ラノベ読むんだねー。ラノベとかアニメの話できる友達いなかったからすごく嬉しいな」
「私もです!あの…よかったらなずなって呼んでください!」
「わかった!じゃあ私のことは祭里って読んでね!よろしく!なずなちゃん!」
「はい!祭里ちゃん!」