02 幼馴染
あれから数日が経ったある朝、自然と目が覚めた。うん、いい感じの目覚め。少し早めに起きられたようだ。
六月ともなると、だいぶ暖かくなってきて、設定していたアラームよりも早く目覚めるということがたまにある。
…え、もう六月?早くない?こないだ年越し蕎麦食ったばっかだよね?早くないですか?
そんなことを考えていたら、足音が近づいてきた。祭里が起こしに来てくれたようだ。
「あ、もう起きてたんだ。ご飯できてるよー」
「はいよ」
朝食はいつも祭里が作ってくれている。
両親の意向により、俺たちは高校入学と同時に実家を出て、マンションで二人で暮らしている。と、言っても最寄駅も変わらないくらい近所である。
去年度までは俺が一人暮らしをしていたが、一つ年下の祭里が同じ高校に入学してきたため、一緒に暮らすことになった。
俺は祭里が大好きだし、祭里もきっと俺のことが大好きであるに違いないので、俺としては祭里と一緒に暮らせるのはすごく嬉しかった。
てゆーか俺は基本的に家事がほとんどできない。部屋も散らかすし、掃除もしない。おまけに料理もできない。しない。
そんな俺を見かねて、家事全般完璧な祭里が助けに来てくれたってわけだ。うん、救世主!
リビングへ行くと、白米と納豆、綺麗な卵焼きがテーブル上に用意されていた。
妹の向かいの席に腰掛け、「いただきます」と言いながら、白米に手をつけた。理由は無いが、朝食の一口目はいつも白米と決めていいる。ルーティーンというやつだ。
次は卵焼きに手をつけてみるか。うまぁ…
祭里の作ってくれる卵焼きはいつも砂糖を使った甘い系の卵焼きだ。甘すぎないくらいに程よく味付けされていてすごく美味い。え、なにうちの妹、天才なの?すごい!かわいー!
「そういえばお兄ちゃん、オナラテロの件どーなったの?」
「オナラテロ言うな。そのことならだいぶ落ち着いてきたぞ」
あの件に関してはだいぶ熱が冷めてきたようで、クラスメイト達からいじられるようなことは少なくなった。よかったー!……たまに、ほんとたまにまだいじられることはあるんだけどね!
「はぁー……なーんだ、つまんなー」
「あれあれ、祭里ちゃん?今のクソデカため息はなあに?」
冗談を言った祭里は、にこにこ笑顔で「ふふふっ」と笑う。
それに続くように俺も顔が綻び、「ふふふっ」と笑う。
「じょーだんだよじょーだん!祭里はお兄ちゃんのこといーっつも気にかけてるんだからー」
「全然思ってなさそうだな」
「そんなことないよ!」
祭里は先に朝食を済ませ、登校の準備をし始めた。
一つツッコミを入れたいところだが、俺も早く支度をしなければ遅刻してしまう。
ここは一旦流して、身支度をしよう。
×××
祭里に置いて行かれた…
俺が朝食を済ませ、歯を磨いている間に、祭里は先に登校してしまった。
なぜだ。さっきまであんなに仲良くお喋りしていたのに。
…いやいつものことなんだけどね。分かっていたことなんだけどね。
しかし、小学生の頃までは一緒に手を繋いで登校していたんだよなぁ、休み時間に一緒に遊ぶことさえあったというのになぁ。
祭里は中学に上がった頃ぐらいから一緒に登校してくれなくなった。
今では学校でも避けられている•••ということはないけど……。顔を合わせたときは普通に会話してるけど。
嫌われているわけではないと思う。祭里も俺と同じ環境委員になったし。
まあ年頃だからな、周りの目を気にしたんだろう。兄と一緒に登校するのは恥ずかしいんだろう。
制服に着替え、玄関でローファーに足を通す。
「…行くか」
そういうわけで今日も一人で出発する。
×××
登校中、バス停へ向かっていると、道路の向こう側に、左右に揺れるポニーテールを見つけた。
江ノ島楓である。
「あ、しろー!」
楓は俺に気づくと、ぱあっと笑顔で手を大きく振って近くの横断歩道まで駆けて行き、赤信号で足を止めた。
俺も小さく手を振りかえし、信号の前で足を止めた。
信号が青に変わると楓は再びこちらへ駆け出してきた。
「おはよー!」
「おお、おはよう」
隣に並んで歩き出す。
あれ、多分楓、髪切ったな。
切ったといっても少し短くなったぐらいで、そんなに大きく変わったというわけではない。
しかし、俺は毎日顔を合わせているからか、こう言う些細な変化にもすぐに気づけた。
いつもとほとんど変わらないが、どこかさっぱりとした印象だ。
へー似合ってるじゃん。可愛いじゃん。まあ、可愛いのはいつもだけど。
…言うべきだろうか。言うべきなんだろうなぁ…
「それ…似合ってるな」
「えっ…えーとどれ?」
「いや…髪、切ったんだなって」
「あ、そうそう!少しだけなんだけどね!」
「その……似合ってるな。あんまり変わってないかもだけど」
「あ、ありがと……」
……恥ずかしい。なんだこのやり取り。
「祭里ちゃんは?」
「ん、ああ祭里なら今日も先に出発したよ」
「まーた置いてかれたのー?」
「冷たいよなー、少しくらい待っててくれてもいいのに」
「史郎がもっと早く支度すればいいんでしょー」
「そう言うお前も俺と同じ時間に登校してるじゃん」
瞬時に空気が一変した。
楓からものすごいプレッシャーが放たれる。
「おい、お前って呼ぶんじゃねえよ」
「はい、すみません」
楓は昔から「お前」と呼ばれるのが大嫌いで、昔から俺がお前呼びをしてしまうとめちゃくちゃ怒る。
俺もそれをわかっているので、ちゃんと名前呼びを心がけているのだが、たまにこうして忘れてしまうことがある。
…うん、それは許して。
すぐ先にあるスクールバスの停まるロータリーに着くと、再び足を止め、二人並んでベンチに腰掛けた。
「祭里ちゃんいないね」
「先の時間のバスに乗って行ったんだろ」
「そっかー」
スクールバスは、利用する生徒が多いため、いつも二台来る。そして、その停車エリアは公道にあるので、数分間隔を空けて来るのだ。
バスが来るまでの間、こうして楓とずっと話し続けていた。…というより、楓からの一方的なマシンガントークを浴びせられていた。
あ、おなら出そう。
ぶっ