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10 まっしろ

「あれ、誰か来たな…」


 テストの結果が発表された日の放課後、学校が早く終わったので、楓と多少寄り道をしてから帰ってきていた。

 リビングのソファーで横になって脚を組み、スマホをいじっていると、インターフォンが鳴った。


「私出る!」


 自室から飛び出してきた祭里が玄関へ駆け向かう。


「お邪魔します」

「どうぞどうぞー!」


 祭里の友達だろうか。

 玄関の方から、女の子の声がする。

 祭里がお客さんを連れて、こちらへやってくるので、起き上がり体勢を正す。


「こんにちは!お邪魔してます!」


 ハキハキと元気いっぱいで挨拶してきたのは、あの銀髪の女の子だった。

 廊下からひょこっと覗くように顔を出している。


「あ…ああ、こんにちは。」


 そうだった…完全に忘れていた…テスト終わったら祭里が例の友達連れてくるんだった…

 やだもう私ったらこんな部屋着で!恥ずかしいわぁ。


「白犬なずなと言います!祭里ちゃんとはいつも仲良くしてもらっています!」

「ああ、君が白犬さんか。祭里から聞いてるよ。祭里と仲よくしてくれてありがとうね」


 祭里と話していたので、この子が白犬なずなであることは知っていたが、あえてそれを知らなかったような口ぶりをした。理由はない…

 祭里が白犬のそばからジトーっとした目で見つめてくる。


「な、なんだよ」

「なんかお兄ちゃん親目線できもー」


 ぐはぁっ!

 祭里のお友達の前でもこんなこと言われるのね…


「ま、まあ、ゆっくりしていってね…」

「はい!」


 ああ、天使だ…

 妹からどんなに罵倒されても、白犬のこの笑顔を見ていれば耐えられる気がする…











「お兄ちゃん入るよー」

「お、お邪魔します!」


 二人に気を使い、自室にこもってしばらくゴロゴロしていたのだが、祭里がこちらに有無も言わさず、ノックもせずに部屋に入ってきた…

 後から白犬も続いてきた。


「ノックぐらいしろよ…」

「あーうんわかった。ラノベとか漫画とか読んでいい?」


 わかってない人の言い方だよね、今の!

 君、絶対わかってないよね!ねえ!

 本当は思いっきり愚痴をぶつけてやりたいところだけど、今回は心の中に収めておいてやるよ!


「い、いいぞー」

「ありがとう!あ、この部屋で読んでいいよね」

「あ、はい、どーぞ……」


 この子、なんでこんなに暴君になっちゃったのかしら…どこで教育間違えたのかしら……


「なんか、すみません…ご迷惑…ですよね?」


 白犬はもずもずとして、申し訳なさそうにこちらを見ている。

 うん、謙虚だ…いい子だなぁ……


「いやいや、ぜんぜん大丈夫だから!遠慮しないで!」

「ほんとですか!ありがとうございます!」


 白犬の表情が、ぱあっと笑顔に切り替わった。

 ああ眩しい。


「そういえば、白犬さんが学生証拾ってくれたんだよね?」

「はい!無事届いたみたいでよかったです!」

「あのときはありがとう。助かったよ」

「いえいえ!当たり前のことをしただけです!」


 この間、疑問だったことを聞こうと思ったが、なんだか変な空気になりそうだったのでやめた。

 色々聞きたいことはあったが、ここは一旦流しておこう…

 うん、今度聞こう…


「お兄ちゃん何鼻の下伸ばしてんの…」

「伸ばしてねーよ!」


 咄嗟に否定したが、蔑むような目でじっと見つめられ、その視線から逃れるように顔を背けた。












 日は沈み、窓の外はもう暗くなっていた。


「そろそろ帰りますね」

「もうこんな時間か!」


 結局、二人は俺の部屋で二時間ほど過ごし、漫画やラノベを読んだり、それに関する雑談をしたりしていた。

 今日のこの数時間で、俺も白犬とは少し親密になった気がする。

 白犬もりんご学園が好きらしく、趣味が合うことがわかった。


「家まで送っていくよ」

「え…そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ!結構家近いですし…」


 白犬は申し訳なさそうに、手を小さくふりふりしながら遠慮してくる。


「いや、もう暗くなってるだろ。送っていくよ」

「じゃあ、お言葉に…甘えて……」

「私も行くー!」


 椅子から立ち上がり、机に置いていたスマホを手に取り、ズボンのポケットに突っ込む。


「ほら、行くぞ。お家の人が心配するぞ」

「はい!すぐに準備します!」




×××




 これで…これでやっと四六時中彼を見続けられる…


 最近仲良くなった祭里ちゃんの家で遊び、帰宅した。

 洗面所でコンタクトレンズを外し、度の強いメガネをかけ、自室でパソコンを開いた。

 

「よし、全部ちゃんと映ってる…ぐへへ……」


 パソコンには、さっきまでお邪魔していたお宅の至る箇所の映像がそれぞれ映し出されていた。

 祭里ちゃんの家にあがったとき、至る所に隠しカメラや盗聴器を仕掛けておいた。

 目的はもちろん、祭里ちゃんの兄である史郎さんのことをずっと見るためだ。

 彼の一挙手一投足を見逃したくはない。

 ずっとずっと見て、聞いて、把握していたい。

 今日という日のために、ずっと前から準備していた。

 最初はここまでするつもりはなかった。何回かバスで隣に座ったときに、寝顔を盗撮したり、寝たふりをして彼の肩にくっつく程度だった。しかし、それは次第にエスカレートしていき、カバンの中にGPSを仕込んだり、学校外でも彼の後をつけたりするようになった。

 それだけに収まらず、ついに今朝のスクールバスで、彼の学生証をほんのちょっぴりの間だけ借りて、名前、住所、学年やクラス…etcといった、あらゆる情報を入手し、妹の祭里ちゃんと親しくなって家にあげてもらった。

 ちなみにりんご学園が好きなのは偶然…


「GPSも問題なくちゃんと起動してる。ふふふっ…もうすぐ家に着くみたい…ふひひひ……」

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