1. 雛たちよ(2)
休憩時間も終わりに近付き、ゼスタたちはキニスの指示通りに座学を行うための教室へと行く。彼らはそれぞれ席に着くと、すぐにキニスが入ってきた。
「よし。みんないるな。では、授業を始めるぞ。今日は…。」
何も無かった空中にはナノマシン映像が出現し、授業が始まった。キニスの話している事や映像として出ている事をゼスタたちはノートへと書き取っていく。だが、10分もしない内にゼスタにとてつもない睡魔が襲い掛かってきた。
(ダ…、ダメだ。今ここで寝たらヤバい…。寝ちゃダメだって…。)
だが、そんなゼスタの心の中での葛藤も虚しく頭をもたげてしまった。それに瞬時に気が付いたキニスはポケットの中からビー玉を1つ取り出して、ゼスタへと投げつけた。それは壮快な音を立ててゼスタの額に命中した。
「イッタァアッ?!」
「ゼスタ…。全くお前という奴は…。次はナイフが飛んでくると思え!」
「は、はい!すみませんでした!」
周りからはクスクスと小さく笑う声が所々から出ていた。そこから授業は滞りなく進んで行き終わった。
「次は組手を行う。すぐに準備して行くように。」
「はい!」
キニスが教室から出てくとゼスタたちはノートなどを片付け、訓練室へと向かった。訓練室には数個のバトルコートが用意されていて、壁には近接戦用の武器が並んでいた。その部屋の真ん中では厳かな雰囲気を纏ったキニスがいた。それに充てられてか個人の差異があれど、子どもたちには身が硬くなっていく感覚があった。
「よし。全員来たな。まずはそうだな……。ゼスタ、ソーロ。お前たちから始めろ。」
「はい。」
「はい!」
2人は返事をすると壁に掛かった剣を持ち、お互い腰元にナイフを装着した。バトルコートへと立った。この2人の組手に子どもたちは先程の緊張感も忘れ、自分たちの熱視線を彼らに向けていた。そして、見守るように真ん中にキニスは立ち、ゆっくりと息を吸い込み。
「では……。始め!」
キニスの大音声と同時にゼスタとソーロは同時に地面を蹴った。ゼスタが大きく振ったソーロに躱され剣は空を切り、ソーロに剣を踏みつけられてゼスタも地面に転んでしまった。今度は、ソーロがゼスタに剣を突き立てるが、ゼスタは踏まれている剣から手を放して横に転がりながら回避して体勢を立て直した。更に振りかぶって追撃しようとしているソーロにゼスタは入り込んで、ソーロの手首を掴んで投げ倒して上に乗り掛かった。ゼスタは腰元に着けたナイフを素早く抜き、ソーロの頸動脈部分に突き付けた。
「そこまでだ。ゼスタ、降りなさい。」
「はい。先生。」
ゼスタはナイフを腰元へとしまってソーロから降りた。起き上がったソーロは胸の部分を手で払いながら、少し不機嫌そうな顔をしていた。
「それでは、他の者も組み手を始めるように。」
「はい!」
子どもたちはそれぞれペアを組み、中にはゼスタとソーロに声をかけて組手を始める子たちもいたが、2人には思考が追いつく前に倒され到底敵わなかった。組手も一通り終わったのを見て、キニスは口を開いた。
「そこまでだ!」
キニスが声を張り上げると、子どもたちは一斉に彼女の方へと目を向けた。
「次は特別授業として集団戦を行う。もう1度シミュレーションルームへ向かうように」
「はい!」
子どもたちは返事をし、武器を壁に掛け直してキニスの後ろから着いてシミュレーションルームへ向かった。
「それでは、今日の特別授業を開始する。今回は4人1組でのチーム訓練をするとしよう。」
「はい!」
キニスの言葉に子どもたちは返事をしたが、中には興奮を顕にしている子どもも何人かいた。
「では、まずチームになってもらう。1チーム目は……」
キニスは名簿を見ながら自らが決めたチーム編成を読み上げる。そうして、チームは決まり、ゼスタのチームは司令塔となれるものが居ないと言えるようなかなり脳筋なチームになった。だが、そんな脳筋チームでも強かった。いや、脳筋だからこそのゴリ押しと言う強さを用いて、相手チームを全て薙ぎ払って3戦3勝の成果を上げた。それはもう1つのチームもそうだった。
「やっぱソーロのチームも同じか…。」
ソーロのチームはソーロの指揮の下、基本の相手を各個撃破して追い詰めて行くという戦法を用いていて、ゼスタたちとは正反対と言っても良い程の戦略を駆使し勝ち続けていた。
「次はチーム・ソーロとチーム・ゼスタだ。各自準備をするように。」
「はい!」
それぞれのチームはポットへと入り、機器を装着し、シミュレーションが始まった。ゼスタたちがスタートした地点は木々が生い茂る林の中だった。
(林の中か…。多分あっちも状況は同じだろ。)
ゼスタが手を掲げると空中に地図が出現した。
「なるほど。皆。とりあえず、あまり視界から見失わない程度で広がって上の方を目指して歩き出そう。」
「了解。」
そう言って5人は感覚を置いて、林中を歩き始めた。しばらく、自然にできた凹凸の道を歩いていると木々の向こうに1人立っているのが見えた。ソーロだった。
「おい!あいつ!1人だろ!」
「なら、俺たちでやっちまおうぜ!」
(本当にアイツただ1人でやってきただけか?)
ゼスタは嫌な予感が頭によぎった。2人はソーロの方へ走り始めていた。
(コイツら、バカだな……。)
ソーロは尻目に自分を追いかけてきた2人を見ながらそう思いながら走った。
「あ!ソーロは追うな!」
そんなゼスタの注意も虚しく、2人は林の奥へ消えてしまった。そして、すぐに銃声が6発鳴り響き、ゼスタは2人が落とされたことを理解する。
「……。後ろに向かって走ろう。」
2人は頷くと藪を蹴り飛ばしながら走り出した。後ろからの銃撃は無く、3人はただひたすらに走り、浅い川へとぶつかった。
「ここを越えて1回作戦を練ろう。」
「了解。」
川を渡り、また林へと入って3人は走った。しばらく林を歩いて3人は鬱蒼とした場所で一旦落ち着いた。
「さて……。」
3人の間には、この林の鬱蒼さよりも重くなった空気が漂っている。特段考えるということが苦手なチーム。考えるより動いた方が良い筈だが、便宜上だけでもという形で作戦を練ろうとしている。
(3対5。状況として勝てなくは無いだろうけど、厳しい…。……。でも成功しないかもだけどこれで行ってみるしかない。)
ゼスタは短く頷いて、呼吸を整えた後に口を開いた。
「作戦……。と言える程じゃないし、1種の賭けではあるけど、実行したいことがあるだけどいいか?」
「もちろんだ。やるだけやってみよう!」
「うん。とりあえず、ぶん殴ってあげよう。」
「うん。じゃあ、やってみよう!じゃあ、説明をするよ。」
ゼスタは屈むと2人も中腰になった。ゼスタは指で地面に3つの〇を線で結べば二等辺三角形になるものと5つの●固めたものを描いた。
「こっちの丸が俺たち、そんでこっちの丸がソーロたちだ。あくまで予想でしかないけど、ソーロたちは固まって動くと思う。そこで俺が先陣で突貫するから、2人で狙撃で削って欲しいんだ。いいかな?」
「おう。やってやるよ!」
「な、なんとかやってみるね。」
「うん。なら、始めよう。まずは、もう少し歩こうか。」
3人は立ち上がり、森の奥の方へと歩き始めた。それから10数分後ゼスタたちがいた場所の近くをソーロのチームが通る
(確かにアイツらはこっちの方に逃げた筈…。)
「居ないみたいだね?」
「そうだが警戒を怠るんじゃない。きっとそろそろアイツらと接敵するだろうから。」
すると、ソーロは微かな音であるが自分たちの方へ何かが近づいてきている音を感知する。
「構えろ。来るぞ。」
「え?どうした?」
「よく耳を澄ませ!きっとゼスタだ!接敵する!銃を構えろ!」
他の仲間もその音に気付き銃を構えた。そして、目の前からは左右に大きくステップを踏みながら木々の盾になるようにゼスタは彼らと距離を詰めた。
(アイツが1人で来る…、可能性もあるがそんなことあるか?)
近づいてくるゼスタに1人が発砲を始めたが、その弾は虚空へと消えた。木々を間を弾丸2発がすり抜け、1発は1人の頭に命中して撃墜したが、もう1発は別の木に当たった。
(成程。後方支援か…。なら…。)
ソーロは仲間たちにハンドサインを送ると仲間は頷いて、散開。
(そうかい。なら、俺が各個撃破するだけだ!)
ゼスタは剣を振りかぶって1人を撃墜しようとしたが、ソーロの殺気に気付く。構えていた剣を思い切り振りぬいて、ソーロの剣撃を弾いた。その隙に残りの3人は分かれて2人の方へそれぞれ向かった。
(クッソ!やっぱり無理かよ!でも、ここでコイツを落とす。)
(本当に浅はかだな。まぁ、俺はここで耐え抜けばいいだけだし。)
木々に2人の剣がぶつかる音が反響する。
(きっとコイツは耐久しようとしている。ってなら…。)
ゼスタは懐から球体物を取り出して、木に向かって投げつける。衝撃を受けて、炸裂したのは閃光。更にソーロへと球体物を投げつけると、今度は煙幕を展開して走り出した。
(ッチ……。一応は攪乱のつもりだろうけどさぁ。大体どっちに行ったか位分かるっての!)
ソーロも歯を軋ませながら追って走り出した。
「クソ。来たよ!」
「構わないよ!やっつけてやろう!」
ゼスタに銃口を向けて発砲するが、そのどれもが当たらなかった。木々を踏み台にして、木の中へと身を隠す。
「逃がさないよ!」
弾丸は木の葉に飲み込まれ、数個の球体物が吐き出される。
「な…!?」
煙が噴出され、2人の視界は阻まれる。木の中からゼスタは飛び出して、鮮やかな手際で剣を振るい2人を撃墜した見せた。そして、遅れてソーロが到着し、現状を見て溜息をついた。
「本当に、君って奴は………。ウザイ。」
「そんなのお互いだろうが!」
2人は同時に駆けだし、お互いの剣が激突する。ソーロは剣を跳ね除けると懐から投げナイフを取り出し、丸明きになったゼスタの腹部へと放った。
「フンッ!」
ナイフを弾いたが、銃口が自分に向けられているのに気付いてゼスタは木の後ろへと身を隠した。ゼスタはまた球体物取り出して、木から木へと走り抜けて銃弾を回避しながらソーロへと投げつけた。
(その手にはもう乗らない!)
閃光弾を回避しようと顔を逸らが、それは爆発せずに足元へと転がる。更に球体物が飛んできて、ソーロに直撃すると小爆発を起こして押し倒すと同時に爆煙が立ち込める中からゼスタが勢い良く飛び出す。ゼスタが振りかぶっているのを見てソーロは防ごうと構えるが、持ち手を変えた剣に貫かれ倒されてしまう。
「ク……ッソ。」
ソーロが沈黙状態になったのを確認してゼスタはその場にへたり込んで、木漏れ日を仰ぐ。
「はぁ……。辛くも勝利―。」
ヘッドセットを外すとゼスタはズルズルとイスの上で溶けてしまう。そのまま、数秒間ポットの中でボーッとした後に外へ出た。他の子どもたちはポッドから出てきたゼスタに拍手が鳴り響き始める。それに彼は、気恥ずかしくなって小さく笑った。拍手が止み、キニスが口を開いた。
「今日もよく頑張ったな。お前たち。気を付けて帰るんだぞ。」
「はい!」
子どもたちが掃けていくのを見送り、キニスはこの場所にある自室へと戻った。自室に戻ると書斎机の椅子に腰を掛けて、冊子を開いて今日の子どもたちの成果や問題点を書き始める。書き込みながらキニスの表情は次第に険しくなる。自分たちが覆せなかったことをまた、後世の子どもたちにやらせようとしている。そんな自分に嫌気が差す。だが、きっと今度は彼らが上手くやってくれるだろうと、彼女自身どこかで妄信してしまっているのだ。
(嗚呼。どうか、あの子たちに、この先に多くの幸せを……。)
キニスは物憂げな表情で子どもたちの名前を1つ1つ指でなぞった。まるで、その子たちに対して祈りを、願いをしっかりと授けるように。