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黄昏ニ瞬ク凶星  作者: ガラガラ烏
2/3

雛たちヨー1ー

 薄暗く、嫌気的な空気が満たされた元スパネク国の都市から離れた山岳地帯にある洞窟。今では老若男女が肩身を寄せ合いながら、石壁に掘った穴の中で暮らしている。ここの構造は本来自然の洞窟であったが、更に横や縦に拡張されていき蟻の巣のような構造へと改築されていた。

「じゃあ、母さん。行ってくるぅ!」

「えぇ。気をつけて行くのよ」

「分かってるって!」

 この場所ではその湿気った空気を弾き飛ばす程の元気のある声を出す男の子は少量の荷物を持ってテントを飛び出した。彼の名前はヴェイア・ティーオ・ゼスタ。この場所では余りにも浮いてしまう程のやんちゃさを持つ男の子であるが、逆に彼を見て和んでいる大人たちもいる。ゼスタは大通りを疾風の様に走り抜けて行く。

「ゼスタ!」

 響き渡る女性の声にゼスタ以外もそちらに目を向けた。動きやすい服装にショートカットの明るい女性が立っていた。彼女はクリウス・サイリヤ。ゼスタの住む地域を駐屯している兵士の一人だ。

「なんだよ。サイリヤ姉ちゃん。」

「なんだよ、じゃないでしょ。」

 サイリヤは一つ溜息をつくと、明るく言葉を発した。

「これからキニス先生のところに行くの?」

「少しでも早く強くなって、早くみんなの役に立ちたいので!」

「うん。…そっか。」

 ゼスタの無邪気な言葉に、サイリヤは少し物悲しい表情へと変わる。

「おやぁ。こんなところにいましたか。」

 2人のところへ後ろから全く足音も無しに上背のある男性が朗らかな表情を付けてやってきた。

「ラトプ隊長!」

 サイリヤはラトプ隊長と呼ばれた男性に敬礼する。それを真似して、ゼスタも敬礼。彼は、駐屯しているロエテム団の団長を務めるテペスタス・ラトプ。

「いつも鍛錬を怠らず、サイリヤさんは偉いですね。」

「いえ。これぐらい当たり前のことです。」

「では、作戦会議もありますので行きましょうか。ゼスタ君もキニスさんのところへ行くところですかね?」

 ラトプの朗らかな表情はネイゼへと向けられた。すると、ゼスタは顔の筋肉を少し引き締めた。

「はい!そうです!」

「そうですか。では、頑張ってきて下さいね。足を止めさせてしまって申し訳ないね。」

「はい!ありがとうございます!」

 元気よく返事をするとゼスタは駆け出して、そのまま一本の通路へと姿を消す。そんな後ろ姿を見て、サイリヤは口を開いた。

「あの子。早く強くなって、早くみんなの役に立ちたいそうです。」

「そうですか。……。あの子には、あのままの彼でいて欲しいと僕は思いますね。」

「ワタシもです……。」

 2人は少しの間、彼が走った道を見つめた後をラトプは顔を僅かに険しくし反対方向に歩き出したのを見て、彼の後ろをサイリヤが歩き出した。




 2人と別れたゼスタは大人2人ギリギリ通れる程でくねくねと曲がった通路を進み、十字の道やT字の道を左へに右へと曲がる。すると、かなりの広さがある場所にゼスタは出てきた。そこには何個かの直方体や立方体の建物が部屋として壁一面に設置されていた。ゼスタは建物の1つに入り、奥へと歩いて廊下に出た。廊下を歩いていたゼスタは扉の前で止まって、手をかざすちと自動で開いた。中はロッカールームになっていてる。ゼスタ持ってきた袋の中から軽い素材でできた衣服を取り出して、今着ている服から着替えた。ゼスタは服の入った袋をロッカーに入れて、部屋から出た。さっきとは反対方向に歩き出し、階段を上り、また違う広い場所に出た。そこには10数人のストレッチなどをしている子どもたちと目つきが鋭めな初老の女性がいた。

「遅いぞ。ゼスタ。」

 彼女はここにいる子どもたちへ教育や戦闘について教えているオーフゲル・キニスである。

「すみません!先生!」

 ゼスタは少し慌てながらその輪の中に入り、ストレッチを始める。

「どうしたんだ、ゼスタ?今日はやけに遅かったじゃん?」

 声を掛けたのはゼスタの友達でもあるアマルフ・ナハタ。髪は短く切っていて、ゼスタよりも活発的な男の子だ。

「ここに来てる途中でサイリヤ姉ちゃんと会っちゃて、ついね…。」

「ホント、ゼスタはサイリヤさんのことが好きだよな~。」

「は?そんなことねぇから。」

 ニヤつきながら茶化してくるナハタにゼスタは不貞腐れた顔になって否定した。そこにキニスが冷ややかな顔で2人に近付いてきている。

「おい。ナハタ、ゼスタ。五月蝿いぞ。2人で私と相手稽古でもしてくれるのか?」

「「すみません!」」

 キニスは短く溜息を吐いくと2人のところから離れた。そして、彼女は最初に立っていた場所まで戻ると声を張った。

「今日は午前中は実技、午後は前半は座学、後半はまた実技を行う。まず射撃訓練から始める。銃器を準備して演習室で待っていろ。」

「はい!」

 キニスたちは小走りで銃火器類の置かれた部屋へと向かう。もともとここに置かれている銃火器は電子回路を停止させる銃弾が使われているのだが、今は使われているのは代わりとしてゴム弾だ。彼らはそれぞれ銃器を持ち、演習室へ。演習室の中はさっきのどの部屋よりも広く、人形など沢山の物が置かれている。キニスたちは銃器を壁に取り付けられたフックへと掛け、人形を設置する。

「では、順番に射撃をしなさい。まずは…。」

 キニスはゼスタたちに整列の指示を出し、彼女の言われた通りに彼らは列を作り、的に向かってそれぞれ発砲を始めた。1マガジン撃ち終えると次の子へ、またその子が1マガジン撃ち終えると次の子へと順繰り順繰りに射撃を行う。

「ふむ…。では、片づけをして次はシミュレーションルームへ行くように。」

「はい!」

 ゼスタたちは銃器を片付けて、シミュレーションルームへと向かった。シミュレーションルームには10個程の1人用のポッドが置かれていた。このポッドの中は座れるようになっていて、頭と手足に装着する機器があり、そこで一人称視点での映像が流される。更にポッドには大戦時やその他小規模ながらの戦闘記録が内蔵されているのだ。子どもたちは順番にポッドへと入り、市街地や森林地内での白兵戦、スナイピング、ゲリラ戦など、自分たちの大半は苦手としている分野をシミュレートしていた。その間に他の子どもたちは近くに設置されたモニターからシミュレートしている戦闘の様子を観察して自分たちが少しでも良い戦闘ができるようにしていた。1通りのシュミレーションが終わり、キニスがやってきた。

「子どもたち。次は座学をするが、今から休憩時間にする。3時間程度時間を取る食事を済ませ、休憩室などでしっかり休憩を取るといい。食べ物はいつもの食堂にあるから各自で取ること。」

「はい!」

 ゼスタがそこから立ち去るのを見てから、ゼスタたちは動き始め、食堂へ向かった。食堂にはスープやパン、他にも何品かの惣菜が準備されていた。ゼスタは食べ物を取って席に着く。

「今日もゼスタくんは調子良かったね!」

 1人の女子がゼスタへと話しかけるとナハタや他の子どもたちも数人集まってきた。

「いや。いつも通りだよ。」

「でも、射撃も大体がど真ん中命中だったじゃんか!」

「そうだよ!シミュレーションの白兵戦も見てたけど、私じゃできないことばっかで…。今日の組手も負けなしで行けるよ!」

 そう称賛する周りの声にゼスタ照れ顔をしてむず痒くなっていた。

「ハハハ。そうだといいな~。あまり気は抜けないけどね。」

 ゼスタの視線の先には、他の子どもたちよりも比較的色白で明るい茶色の髪をした少年がいた。彼もゼスタを横目で、静かに見ていた。彼の名前は、フラドノグ・ソーロ。戦闘面に関して、ゼスタの引けを取らず、ソーロは頭も切れるのでゼスタとはいい勝負をしている。

「とりあえず、しっかり休まなきゃな。授業中に寝ると、キニス先生の投擲物が来るから…。」

「そうだね!ゼスタいっつも寝ちゃってキニス先生に叱られてるもんね!」

 空洞内に年相応の子どもたちの明るく、爽快感のある笑い声が響き渡る。ゼスタは食べ終えて、フォークを置く。

「じゃ、オレは休憩室に行くから。」

「うん。また後でね!」

 ゼスタは彼らと別れて、食器類を片付けて休憩室に向かう。休憩室に入り、自分の体を無造作に空いたベッドへと放り投げた。こうして彼らは思い思いに自分たちの休憩時間を過ごすのだった。

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