えんぴつ8号
昔のアニメのキャラが、えんぴつに”ストライカーシグマⅤ”とか”プロブレムブレイカー”とか”シャイニングアンサー "とか、そんな名前を意味もなく付けていた。僕はこの無意味がなぜか気に入り、以降自分のえんぴつにも名前を付けるようになった。
今の相棒の名は”8号”。
1号から7号があるわけではない。
名前の由来は流行りの漫画だ。
高校生になると周囲でえんぴつを使う人は僕以外いない。
皆シャープペンシルに乗り換えた薄情な連中ばかりである。
僕はそんなことはしない。
男子たるもの、簡単に浮気するようではいけない。
だが、たまにシャーペン勢のことを羨ましく思うときもある。
なぜなら、えんぴつには必ず別れが訪れるからだ。
僕はこれまで様々なえんぴつ達と別れてきた。
今日のテストはわずか1cmにも満たない8号と共に挑む。
僕でなきゃもう持てない長さ。
今日がおそらく8号との最後の一時となるだろう。
試験が開始した。
最近は筆記問題も多い国語の試験。
頑張れ。頑張るんだ8号。
そう言い聞かせ、僕は問題を解き続ける。
1文字の書き間違いすら命取りだ。
かといって慎重になりすぎてもいけない。
8号最後の晴れ舞台。
解け切れないなんて、そんな情けない結果で終わらせたくない。
僕は必死に問題を解き続けた。
思わず手には力がこもりそうになるが何とか堪える。
力の入れすぎは芯の無駄に繋がるからだ。
最後の一問。
60文字以内での筆記解答。
つまり最低でも50文字以上は書かなくてはならない。
8号の残りの芯は...、
これまで数々のえんぴつと別れてきた僕には分かる。
あと10文字分足りない。
くそ、どうすればいいのだ。
その時に、誰かに話しかけられた。
「大丈夫、僕は限界を超えてみせるよ」
それは、間違いなく8号の声だった。
僕は8号信じて書き進めた。
僕の集中力が極限に達し、手には熱を帯びていた。
8号も最後の命を燃すかの如く熱くなる。
頑張れ8号。頑張れ、頑張れ、頑張れ、頑張れ!
結果、51文字。
8号は限界を超えた。
8号はその命尽きる瞬間まで、自身を燃やし続けた。
数日後、国語のテストは返却された。
点数は41点。
良くも悪くもないといったところ。
最後の問題は1点の部分点が貰えた。8号のおかげである。
まあ、答案用紙が汚いと注意を受けたけど。
「まったく、別に注意する程のことじゃないよな。なあ、デンジ」
僕は新しい相棒にそう話しかける。
名前の由来は流行りの漫画だ。