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全てが斜め上

そろそろ怒られないか、心配になってきた。

 私はシチューを口にして気付いた。

 この味は、間違いない……この機人が、なぜこのように慈悲をもって施しをするのか。これの意味することは一つしかないだろう。

 我々は今まで紛い物を口にしてきた。カリスト教の教えは絶対だ。しかしその教えに矛盾する行為を我々はしている。そう、エルフや牛、それらの血肉を通して。


 つまり機人は、我々の信仰するものが、その姿を本来のものとまったく変わったものになっていることを指摘しているのだ。


 ――ほろほろと肉が舌の上でほどける。……うまい!これは我々の好きな肉だ!


 我々は今までなにをしてきたのだろう?

 カリスト教の儀典を妄信するばかりで、本来求めるべきものを見うしなっていたことに気が付かされた。


 ――「隣人を食せよ」


 これまで、そのまま口にすることは良しとされても、調理するという事は禁忌とされてきた。しかし何と甘美なことだろう。古代の営み、それを感じる。


 私は大地にその身を投げ出す。五体投地と呼ばれる姿勢だ。

 この肉の為なら例え魔王であっても、この身をささげよう。

 父祖たちが信じた生き方を守るために。


 ★★★


 なんだろう。この時代の人間の思考。上を行くかと思うきや、斜め上を行った後に帰ってくる。そんな感じだ。グラフにしたらぐるぐる回って、かたつむりができてるんじゃないか?


 全く帰ってくる反応が予測できないし、理解できんな。

 ま、いっか。人と人が分かり合えないんだから、機械と人間が分かり合うなんて不可能だろ。常識的に考えて。


 とにかく、懐柔はできた。その心理が一体どういった化学反応を、この缶詰と起こしたのかまでは、正直さっぱりわからんが。

 とりあえず騎士に尋問を始めるとしよう。


「……いくつか尋ねたきことがある」


「ハッ、なんなりと。」


「……あの丸太を使った盾の車を考案したのは何者か?」


「ハッ、聖ヨワネ騎士団の参謀たちにございます。ムンゴル帝国の銃に対抗するために考案されたもの、それをもとに改良したものにございます。」


「……銃だと?これと似た物を知っているのか?」


 俺は自分の腕に付いた、お洒落な6門銃身を騎士に見せてみる。


「……それが銃、ですか?ムンゴル帝国の銃は、機人様が身に帯びている、そのようなものにはございません。」


「鉄の棒に「たまぐすり」と火矢を差し込み、飛ばす武器にございます」


「……なるほど」


 やっべ、この世界、もういい線までいってるじゃん!先込め式の鉛玉を発射する、ちゃんとした銃が出てくるのも、時間の問題だぞ?!


「……エルフ達の装束、それと、こういったものに見覚えはあるか?」


 俺は手元からある物を取り出す。

 緑色に金色の線が縦横無尽に走っている、電子基板だ。

 エルフ達に探させるために、見本として、食べずにのこしていたのだ。


「エルフらの装束は、古代にあった『世界の終末』を記した写本のさし絵で見たことがございます。」


「……ほう?」


「まさに、『ククレン』なる者たちが身に着けていた、古代の戦装束かと」


「……」

 音だけでピンときた。まさか、国連か?いちおう情報は残ってるんだな。


「そして、その緑色の板にございますが、聖職者たちが集め、船に乗せ、この国の外へと運んでいるのを見たことがあります」


「……交易品として扱っていた、と言うのか?」


「はい、海を越えた先にあるという、『ラメリカ』という国へ送っておりました。」


 俺は失念していた。俺が手している電子基板、これが何なのか、いまだに理解している連中がまだこの世界に存在している可能性を。

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[一言] 隣人を食せよって... 怖っ
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