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断たれた希望

 前もって打ち合わせていたたいまつを使った合図を、川に待機していた船に対して送り、我々は夜明けを待って川の近くの茂みに潜んでいた。


 失敗の可能性を考えていないわけではなかったが、まさかここまでの大損害を受けるとは、想像していなかった。


 上陸軍5000のうち、私の周りに残ったのは、1000人ほどだ。後はあの炎に飲まれたか、森の中で位置を見失ってさまよっているかのどちらかだろう。


 これはもはや戦ではない。先のトンプル騎士団の轍を踏まぬようにと我々は動いたが、機人はそのさらに上を行った。


 鉄のつぶてを主力に据えた戦いであるなら、視界の悪い夜に攻撃はないだろうと読んでいた。しかしやつらは火を吹くドラゴンを従え、それでもって仕掛けてきたのだ!化け物を従えるなど、まさに伝説にある魔王以外の何者でもないではないか!


 夜に兵たちが逃げ惑えば、再び集まるのは困難を極める。直接の炎で被害を受けたものは少ないが、食料や装備を失って、残る1000人も戦う力はもはやない。

 機人はただの化け物ではない。知恵のある戦略家だ!


 しかし、我らはまだ生きている。ならばできることはまだあるはずだ。

 艦隊に合流し、恥を忍んで軍団を解散し、大デイツ騎士団と合流して、戦う力を取り戻さねばならない!


 朝靄の立ち込める水面に、うっすらとマルダの船が現れてきた。おぉ!普段は気にも留めないあの船が、わが命をつなぐと思うと、あの船はこんなにも美しいものだったのかと感じてしまう。


 機人とその配下の注意を引かぬよう、我らはひっそりと岸に近づいていく。隠れるものが無い砂利だらけの岸辺に居るとひどく不安だ。

 船からはボートが降ろされ、こちらへと近づいてくる。


 われ先へと乗り込む兵たち。将校たちはあとだ、先に兵を乗りこませる。先に我々が乗ると、連中が不安にかられて暴れ出して、逆に危険だからな。

 

 ひとつめのボートが船に辿り着き、兵が回収される。

 ふう、どうなるかと気を揉んだが、どうやら機人は我々の撤退にはまだ気づいていないのだろう。急いでライノ川を下って撤退するとしよう。


 兵をどんどんと船に乗せ、後に残るはわずかな供回りの兵士と将校団となったその時、笛のような音が聞こえた。調子の外れた、「ひゅう」とか「ふるる」とかいう、そんな間抜けな音だった。


 マストにおおい被さらんとする高さの水柱が上がり、船が左右にぐらぐらと揺れる。なんだ、何が起きている?投石器にしてはずいぶんと水柱が大きい。


 ぼん、と大きな音がして船の一つが文字通り内部から弾けた。ばらばらと大小様々の木片をまきちらして、川の水面にいくつもの波紋をつくった。

 燃え上がる艦隊を見つめていると、連続した破裂音が響いて供回りの兵士が血を流して倒れる。穴の開いた鎧。機人の武器だ!


 私達は装備を失っているので、抵抗するも何もなかった。手を挙げて慈悲を乞うしかなかった。そんな哀れな我々の前に現れたもの、それは擦り切れた写本でしか見たことのない、古代の戦装束に身を包んだエルフ達だ。

 手には見たこともない、黒い板と棒の付いた奇妙な武器を持っている。これが機人の武器か、弓どころか、弦の一つもない、いったいこれで、どうやってつぶてをうちだしているのだろう?全く理解が及ばない。


「手を頭の後ろに回して膝を付け!動くと一人ずつ殺す!」

『目標は確保したか?コピー?』

「ラジャー、こちらデルタ、CP、オブジェクトを確保した、撤退ポイントへ移動する」

 

 こうして私、聖ヨワネ騎士団の総長、ケムラーは何もわからぬまま、機人の捕虜になったのだ。

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