着々と整う準備
結論から言うと、俺の心配は全くの杞憂だった。
エルフの女たちの戦意の高さときたら、平和な世界から来た俺からしちゃ、もう想像できない高さだった。
キャーこわーい!やばんですわー!なんていう事を言うエルフの女性は一人もいない。
もうコマンドーよコマンドー。銃を持たせたらデェーンとかいう効果音がしそう。
かなりきびきびと動いて、自分たちで判断して訓練を調整している。障害物を自分たちで用意して、お互いに援護して突入、射撃、残弾確認、次の目標へ移動を繰り返してといったことを反復練習している。
まさかだけど、こういう戦いのために作られた種族?とかいうわけじゃないよね?
滅んじゃって銃がなくなったから、本来の種族のパフォーマンスを発揮できなくなったとかそういう類の。
俺が作ったチンケな射撃場は、今やエルフ達の手によっていくつものダミーの建物や遮蔽物が用意されて、見事に米軍特殊部隊とか自衛隊の特殊作戦群が使うような訓練小屋になっている。
そこでエルフ達が、弾の補給がちょっと心配なくらいに猛烈な訓練を行っているのだ。
パパパパン ターン「クリア!」「つぎ!ムーブムーブムーブ」「エンゲージ!」パパパパ
こんな感じの事が毎朝のように行われている。
これ、普通に攻め入っても勝てるんじゃないっすかね?
まあ、まあ、言うて人間族とエルフの戦力差はありえんくらいあるので、この程度では跳ね返せないだろう。
そういやちょっと時間ができたし、「カリスト教」の本でもちょっと目を通してみるか。
連中の思考の傾向が解れば、何らかの対策にもなるかもわからんからねー。
そんなわけで俺はペラペラと機械の腕で苦労しながらその本をよんでみたのだが、まあひどい。
指を舐めることが出来なくて、湿気もくそも無い機械の手だとやたらにページがめくりずらいというのもあるが、内容よ、内容。
なんていうか、俺の記憶の中にある宗教を鏡に映して、世紀末フィルターを通した感じ。
「汝の隣人を食せよ」「汝の敵を食せよ」「右の頬を打たれたら、首を刎ねよ」「上着を奪ったものからは下着も奪え」もうね、なんていうかあれだわ
世紀末ヒャッハー、モヒカンとかレイダーの教科書だわコレ。
うーん、どうしたもんかねえ、とぺらぺらとめくっていくと、最後の方に、機人討伐の為のX字軍の歴史なんてものがあった。
なんでも100年前に1万人のカリスト教徒でおっかない機人を取り囲んで9999人のカリスト教徒が殺されたが、最後の一人が機人を倒して救世主となりました。そんな感じの宗教的逸話というかお話だ。
――なるほど、こりゃダメだ。根絶やしで。