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世界の救い主、ファーザー

 ★★★


 ――ここは、目本のどこかにある場所。


 サバミソ組の組長代行となった私ネコマは、目の前の儀式を眺めていた。


 この秘密の儀式の行われている場所は、セカヘイの中枢だ。

 ここを知る者は、セカヘイの上位挑戦人でさえ、ほんの僅かにしかいない。


 私たちヤクザマンの組長クラスでも知ることは難しい。


 我々は機人のニセ札を引き受け、それを使った大きなシノギをしたことでセカヘイの目を引いたから、この場所に入れるようになった。

 通常のヤクザマンやテンバイヤーでは、ここに立ち入ることはほぼ不可能だ。


 今日は目本の政治家が献金にやってきている。


 こいつはテレビで見たことがあるな。確か‥‥ケケナカという奴だ。


 政治家ではあるが、こいつはとある企業のCEOでもある。


 その企業は、街の広場にトラックで乗り付け、ボーで殴りつけ、ヒモで縛って、工事現場や商業地に奴隷として提供するという、人身売買業で荒稼ぎしているのだ。


 こんな無法が許されていいのか?――良いのだ。


 なぜなら目本では、企業のトップ、つまり金持ちがルールを作る側にいる。

 だからこのような無法ですら許されるのだ!!


「ケケナカです、ファーザーに10億イェーンを捧げに参りました」


 ケケナカはファーザーと呼ばれた老人に対して、さらに乗った山盛りの札束を差し出した。老人は札束を認めると、満足そうにうなずいた。


「エクセレント!おヌシを『名誉挑戦人(オナーチャレンジャー)』として認めよう」


 「名誉挑戦人」というのは何か説明しよう。

 この称号は、外部の人間が就ける、セカヘイ最上位の位階なのだ!


 セカヘイで「挑戦人(チャレンジャー)」と認められているのは、セカヘイの結成初期に属していたメンバーと、その家族だけである……。


 つまり、挑戦人とはこれ以上増えることがない。

 セカヘイの階級制度における揺るぎない上位で、完全な既得権益なのだ!!!!


 しかしそれでは、セカヘイに参加する者の意欲をそぐ。

 なので、名誉挑戦人というものが生まれた。

 セカヘイ外部の者が、挑戦人と同等に扱われる位階なのだ。


「アアアアアアー!!!!そんなータスケテ!!!」


 儀式の場に居たスイゾーがこの場から引きずり出される。

 そう、「名誉挑戦人」は、その数が決まっているのだ!!!!


 ケケナカが名誉挑戦人となったことで、不祥事を起こして名誉挑戦人のなかでもランクを落としていたスイゾーは一般会員にまで落とされる。


 この競い合いの構造が、さらにセカヘイへの献金を加速させるのだ!!!!


 泣き喚くスイゾーは、そのままセカヘイ教徒の手によって、会場にぽっかりと開けられた、奈落の穴に蹴落とされていった。


 ファーザーはその光景を冷たい目で見ていた。


 そしてすぐに、温かい、まるで世界の救済者のような瞳を取り戻す。


 その慈愛の目は、新しく名誉挑戦人となったケケナカへと注がれている。


 恐ろしい。セカヘイは世界を家族化し、平和を実現するというが、その中で行われているのは、獣の原、サバンナで行われている生存競争だ。


 ――弱肉強食。

 万人による闘争のための闘争。

 それがセカヘイの中で起きていることだ。


 セカヘイは平和を謳うが、自身はもっとも平和と縁遠い所にある。


 私ネコマは、奈落へと落ちていき、消え入るスイゾーの悲鳴を耳にして身震いした。なんという、なんということか。


 こんなことが許されていいのだろうか?

 ここで起きていることは、オーマとさほど変わらない。


 上品ぶってはいるが、これは生贄の儀式だ。


 このようなことが長く続くはずはない。

 長年崩壊する組織や国家を目にしてきた私は、そう直感した。


 私は秘密裏に、再び夜逃げの準備をすることにした。

 しかしこれは、直感だけで下した決断ではない。


 この間見たニュースにちらりと映った存在。

 スイゾーを救った存在が、私の脳裏にちらついているからだ。


 昼のワイドショウで未確認存在として話題になった、砂色の鉄人。ワイドショウではもっぱら「鉄人」と呼ばれているが、私はあの存在を知っている。


 間違いなくオーマに現れた「機人」だ。

 奴があるところ、必ず国が亡ぶ。今度は目本の番に違いない。


 私はそれとなく儀式の場を後にして、控えていた鼠人にあることを伝えた。


「ラメリカ合衆国行きのチケットを用意してくれ。今すぐにだ」

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