フォーゼと呪印
ピピピピピピ
「ん...んんーー......」
アラームで目が覚める。
設定通り夜の11:30だ。
家を出られるように支度を進める。
ガチャ
「輪、準備できたかー。そろそろいくぞ。」
「はい、準備できてます。」
部屋に入ってた八ツ木は、昼間の派手髪カフェ店員とは全く異なる雰囲気を放っていた。
白いカーゴパンツに白いブーツ、そして白のコート。
「白、お好きなんですか...?」
「ん、ああ服のことか。これは俺の趣味じゃねえよ。」
じゃあなんでこの人は全身真っ白ファッションなんだ...?
「てかお前人のこといえねーだろ、上下白黒ジャージじゃねえか。」
「だって八ツ木さんが動きやすい服っていうから...!」
「まぁ別にいいけどよ、さっさといくぞ。」
八ツ木さんの後を追って家を出る。
そのまま後ろをついていくと近くの公園についた。
「依頼書の被害者はこの公園で襲われたそうだ。今日もこの辺に出る多分。」
「多分って、てきとーだなぁ...」
そうぼやきながらスマホを眺める。
時刻は夜11:59分、たしか裏時間は12時からだと言っていた。
「"裏"に入る、意識とばされんなよ。」
「え...?」
その直後、地面がぐらぐらと歪み、視界が360度回転したかと思えばまた歪み、不思議な光景が広がる。
あまりの視界の暗転にめまいを起こしそうになる。
「輪、意識はあるか?」
「はい、何とか...今のは一体...」
「今ので俺たちの体は裏時間と繋がった。この現象は"オーバータイム"って呼ばれてる。」
ここがあの時僕がいた裏時間...
なんだか空気が薄く気味が悪い。
「普通の人間はこの不安定なオーバータイムにうまく干渉できず、裏時間に入ることはない。」
「じゃあ僕はなんで...」
「言っただろ、素質があるって。詳しいことはわからないが、お前には裏時間に対する耐性があるってことだ。」
つい数日前まで平凡な高校生だった身としてはにわかに信じがたい話だった。
しかしスマホを見てみると時間は0:00から進んでいない。
裏時間に来てしまったのは事実で間違いないようだ。
「ここにいなけりゃあとは歩いて探すしかねぇか、めんどくせぇなー,,,」
公園を出る八ツ木の後を追おうを後ろと向き歩き出す。
その時、背後を何かが横切った感覚がした。
「今何か通ったような...」
振り向くと頭上に巨大な刃が現れ、今にも振り下ろさんと少しずつ上へ上へと昇っていた。
「あぶねえ!!」
とっさに頭を抱えしゃがみ込む僕の目の間に八ツ木さんが飛び込んでくる。
振り下ろされた刃を八ツ木さんが受け止め、金属がジリジリと交わる音が公園中に響き渡る。
「下がって見てろ!」
言うと、八ツ木さんは刀身ごとクリミナルを薙ぎ払った。
指示通り八ツ木さんから距離を取り、目の前の状況を整理するために脳みそをフル回転させる。
恐らく僕を襲った刃はクリミナルのもので、ずっと公園で息を潜めていたのだろう。
僕が隙を見せてしまったことで、八ツ木さんに気づかれる前に刀身のみを実体化させ僕を殺そうとしたのか...
右腕が丸ごと大剣になっているかのような異形のクリムゾンが全身を実体化させていく。
「大剣型か、一発もらったら終わるな...」
八ツ木さんはそう呟くと、素早くクリムゾンの足元へと滑り込む。
右腕大剣の大ぶりな縦切りを交わしながら宙を舞い、右手を空高く突き上げた。
直後、右手の拳に白い細身の刀が滑らかに形成されていく。
「もらった...!!!」
刀身を空中から勢いよくクリムゾンの頭部に突き立て、重力で落下する体と共に地面までの一本線を描く。
クリムゾンはあの時のように、真っ二つに裂けると砂のように消えていった。
「ま、こういうことだ、ちゃんと見てたかー?」
こちらへと歩いてくる八ツ木さんは、片目が水色へと変化し、右腕に白いタトゥーのような物が浮かんでいた。
「八ツ木さん、その腕一体...」
「これがクリムゾンに対抗する力、"フォーゼ"そしてこのタトゥーが"呪印"だ。」
言い終えると、八ツ木さんのタトゥーは徐々に薄くなり、やがて見えなくなっていった。