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この極みで世界を救うⅣ エピローグ

          1



「春野‥‥‥本当に、行ってしまうのか?」


「あぁ‥‥‥行かねぇと、いけねぇ」


似合わない縋りを白蓮はその顔に浮かべ掛ける。白の帽子を頭に被り、道具袋を肩に掛けた春野は変わらず固めた表情を彼女ーー否、彼女らに返した。


春野が決意し、急遽国の所々にいた『仲間』を集めた理由。



ーー『仲間』たちに、自ら別れを伝えるために。



「そんなのあんまりだよ春野‥‥‥いくら自分が騒動が起こしてるって思ってるからって‥‥‥」


誰もが、似合わない悲痛な表情を浮かべて、どうにか春野を引き止めようと次々と言葉を掛ける。そこまでして、『仲間』達は自分を想ってくれていることに嬉しくは思う。だが、決して春野は揺らぐことはせず、道具袋に付けられた手掴みに力を込めた。


道具袋にはこれ言った物は入れられていない。ただ、二日分の食料と水、そして大部分は暇潰し用のそれだ。


あまりにも危険性と計画性がない。そうとでも言われそうな装備で向かう先だなんてない。ただ、『仲間』たちとは二度と会えないような、そんな遠い場所を探すだけの事。無論、その気になれば柚果霊が『狭間』で見つけ出せるだろうが、ちゃんと止めるように言いつけてある。同時に。


「柚果霊、朔刃の事は頼んだぞ。‥‥‥‥組を、解体させた以上な」


「分かってるわよ春野ちゃん。これでも、お金は二人分、実験を止めれば養えるぐらいにはあるから。ーー頑張れば、貴方を含めた三人でも暮らして行けるわよ?」


「のらねぇよ」


ちなみに、戦塚姉妹は事務所が建てられる以前から過ごしていたというアパートに、賦巳は遠い街にある実家に帰るという。


拳怒組、大部分春野の支援を受けていた龍剛組ラベスタントたちは少々苦労するだろうが、元々から腐っても《国の懐刀》なのだ。やっていけるだろう。


ーーだが、どうしてもどうにもならない事がある。



「‥‥‥‥‥ねぇ、春野」



キュッとコートの裾を指先で摘み、小さな声でラベスタントが上目遣いを向けてきた。


その彼女の顔は今も泣きだてしまいそうだった。いや、彼女だけじゃなかった。謙虚にとでも言うべきか、『仲間』たちが作る横に伸びる列の後ろに、身を置いていた朔刃もだった。


泣かせたくはない、だが。



「アタシも、連れて行ってよ‥‥‥」


 

だから、せめてでもと春野は引き締められた腕で彼女の事を抱きしめて、言葉を残酷に告げる。


そして、嗚咽を吐かせた。子供のような嗚咽だった。それを、吐かせなければならなかった。

 

春野はしっかりとそれらを胸で受け止めてから、朔刃を見据えた。それに、彼女は涙に揺れる瞳の奥に戸惑いの色を見せていたが、


「おまえも、来いよ」


「‥‥‥‥‥‥‥この事は、恩に入りますか?」


「‥‥‥入らねぇよ」


「‥‥‥‥‥‥‥」


そして、朔刃は僅かに震える体を春野に委ねる。『仲間』と愛人に見守られて、二人は恥ずかしさもなくただ泣き声を上げる。


しっかりと、泣かせる。


それが、彼女たちの真心あいを断たせる春野がしなければならないことなのだから。



「ーー春野さん」


「‥‥何だ?」


「‥‥‥‥これから、どうしたらいいと思います?」


朔刃は困ったような笑みを浮かべながら、愛する春野に問う。


「私は、貴方に見てもらうためにこの身を捧げようって、あの夜に誓ったのに‥‥‥‥‥のに、春野さんがいなくなってしまったら」


「ーーんなら、それを持ち続けてろ」


俯いていた顔を上げ、朔刃は瞬きの中で春野の顔を見つめた。春野は、腰部に会ったポーチからそっと、彼女に封紙を差し出した。


それに、朔刃だけでなく『仲間』たち全員の注目が集まった。


「これ、って‥‥‥」


「ーーーお前、いや、お前らに『終わり』を預ける。お前らが安心してくれ暮らせるようになったら、それを『終わり』としておくぜ」


響きが『仲間』たちに伝わり、彼女らはこの封紙がその誓いのためのものであると感じ取った。


そして、春野は普段と何も変わらない顔で『仲間』たちに別れを告げる。


「ーーせめて、俺が返ってくるまでは生きてろよ」


この別れが、何気ないものであると思わせるために、ただ、その言葉に重みと感情を宿して春野は正門を境目とする街を踏み越え、その先に果てしなく広がる草原を歩み続けた。


「ッ‥‥‥‥」


道具袋が揺れるまっ白の背を追おうとして、ラベスタントは前に出ようとするが他でもない、自分自身が止めた。


夕日が彼女たちの思いを悲しく映し出すように場を照らし、徐々に春野の姿が小さく、そして消えていく。


「春野‥‥‥‥」


崩壊した街を囲む石壁の上に腰下ろし、彼女たちとの決別を終始見届けていたゼットは避けることのできなかった別れに残酷さを覚えた。


それから、姿を途切れ途切れなものとさせていく春野の背を見据え、誓った。


「春野。君たちの誓いを果たすために、この命を使い果たそう。ーーー必ず、彼女たちの事は守る。‥‥‥‥‥だから」



物語は、幕をおろした。





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