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第五章 宿命は免れ得ない

           1



夢心地というべきか、そんな感じが全てが暗黒な中で唯一光を放つ無上からのスポットライトのような、そこに目を閉ざした春野には感じられていた。


だが、それ以外に許されてはいなかった。目を開けることも、首を動かすことも、体のどこかを動かすことも。


これが、死であるのかと春野は思う。


‥‥その内、春野は意識を留めておく事も至難となりーーー。






       「ーー春野」






「ーーー」


「命を繋ぎ止める事ができたが、春野」


そこで、春野は自由を許された。


瞼を弾き、仰向けにされられていた体を起こして、辺りを弾かれるように見渡した。


そして、背後にいた。


「‥‥‥《皇帝カイザー》」


「君の想いで、君は私を呼び戻し、乗り越えられた」


振り返った視線のその先、十歩ほどの距離を離したその場所に、《皇帝》はいた。


《根絶者》と《皇帝》。二人で一つだという『自分』たちは、否、春野は自らでも分からない感情を宿して『自分』と向き合っていた。


「《皇帝》‥‥‥今、俺はどうなってーーーいや、あいつらは、あいつらはどうなった?」


自分の身より、血みどろの中にいた二人のことを案ずる。己の心配も、春野にはない。身体は、あの凶爪に砕け散らかされているのだから。


「あの一瞬、君は死んだ。だが、その直前に君の心は『私』を呼び起こし、君に応えて一時的に君の身体に宿った。安心してくれ、アレは私が倒した。私が宿った事で君の身体は修復され、君の『仲間』も無事に終わった」


「‥‥‥‥そうか」


あの鋼獣を、《皇帝》はたった一人で殺した。やはり、《皇帝じぶん》は封じられるべきであったかと春野は悪態をついた。


「ーーー《皇帝カイザー》。俺は、どうしたらいい?」


「ーー」


まるで縋るような、そんな情けなく感じる問いを、自らに掛けられて《皇帝》は小さく口を閉ざした。



やがて、懐から封紙カードを差し出し、小さく口を開いた《皇帝》は。



「私は君のために、私のために力を得て、封じ続ける。どうか、この意味を受け取って欲しい」


「‥‥‥《皇帝》、お前は『俺』なんだろ?これだって、悪い意味のハズがねぇ」


封紙を指先で掴み取り、春野は腰部にあるポーチに入れ込む。そして、『世界』が轟き上げて震動を起こし、『世界』を包みこんでいた光は掻き消される。


『世界』から今消え去るこの瞬間にも、春野は《皇帝》の事を見据えて、


「ーーー君が、わたし自身を嫌っていることは、一番にわかっているハズだが」


崩れた『世界』は、外とへ繋がった。



          2



包帯を肌見える所は顔以外に巻きつけて、不自由に感じる体を動かしながら、春野は隣で支えてくれる朔刃に、所々で目を向け、彼女に負担をできるだけ掛けないために所々で立ち止まりながら言葉を交わし続ける。


それに応じる朔刃と共に、春野は骨組みから建設が進んでいく街の大通りをゆっくりと歩みを続けていた。


「すまねぇな、朔刃‥‥‥」


「‥‥‥何回言うんですか、春野さん。‥‥‥‥どうして、私達にはそんな大きくもない恩で気が小さくなるんですか?私達の方が、頂いた大きな恩をたった一つも返せずに溜まっているのに‥‥‥」


呆れたようにため息をこぼした朔刃は、それでも情けなく頭を垂れる春野に小さな笑みを浮かべた。 


そんな二人を遠くから街の人達が目を向けるが、すぐに破壊しつくされた街の修復に入った。


鎧人の大軍によって街を、知人を失った中でも生き残った街の人々は瓦礫の除去作業から入り、それから建物の骨組みの打ち立てに入り、早い所ではすべに本格的な建設を進めていた。


この街の人口は、魔王軍が作り上げた最高戦力、その総攻撃とも言えるそれを受けて、今現在分かっているだけでも、十二万の中で、九万人が死亡されたとされている。それに、生き残った市民に無傷でいられた人は誰一人としてもいなかった。それでも、街の壊滅的な破壊と人々の死に苦しみながらも、復興に勤しんでいるのだ。



ーーーそして、その死に絶えた者の中には、春野が大切に、そして守りたいという思っていた人も含まれていた。



「‥‥‥‥」


腕に抱いていたそれぞれ異なる種類の花束を供えて、春野は朔刃と共に、小さく建てられた、春野がせめて心だけはと想いを込めた墓標に向けて手を合わせた。


ーーー墓標には、『拳怒組構成員慰霊碑』と刻まれていた。


「春野さんに私」


「‥‥‥それに、あの姉妹と賦巳以外、全員俺を信じて死んでいったんだろうな‥‥‥‥‥最後には、裏切られて」


「ーーーいいえ、きっと組長さん達は憧れて、最後まで春野さんを想って、ですよ。‥‥‥春野さんのように、『仲間わたしたち』を守りたいと思うように」


そう優しく掛けてくれた言葉にあえて応えず、春野は墓標の上に広がるこの悲痛となった街とは対象的な青空を見上げた。


国の全土を巻き込んた騒動の終焉から二日が流れたこれまでに、様々な変動が起こった。


第一に、この魔王軍の襲撃に、当然ながら知るよしもなかったか関与していた貴人や大臣ーー生き残った者だけが総辞職を表明し、翌日には自ら姿を消した。同時に、『川尻春野暗殺計画』が世に知れ渡る事になり、春野に向けて同情の声が多くの向けられ、そして王家に批難が浴びせられる事となった。幸いな事に、ラベスタントと油果霊は計画に関与していなかった事は証明できて、彼女らが仮政府の指揮官として勤しんでいるという。


もっとも、おそらく本当に勤しんでいるのは彼女らの部下であると思うが。


襲撃を受けた街は二十に及び、その十三が完全に消滅した。


そして、それらを引き起こした鎧人は、朔刃達と王国軍の尽力でその殆どが倒されたが、所々でその存在が確認されているという報告を耳にしたことがある。


「‥‥‥‥」


「春野さん?」


そして、それら影響を得たものは

一つーー春野、その存在だ。


春野をよく思わない王国と魔王軍が作り上げた計画が国土の全てに被害を与え、死人を大量に生み出してしまい、そして『仲間』にまで被害が及んだ。


「‥‥‥‥‥そうか」


悲しげに春野は笑みを似合わずに浮かべてーー決断を行動に移した。



この物語最後の変動、それは彼の『仲間』が集まった街の正面口で夕日に照らされて行われる事になった。




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