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第一章(中盤) 金で作られた地位と信頼

           1


職ーーもとい『フリーター』になってから五日が過ぎた頃。


「えーと、春野さんですね。こちら、本日の日当です」


「‥どうも」


本日は『勇者』が職の友人と共にクエストを請け、受付の女から日当を受け取った所で俺は市役所をあとにする。


初めての頃は『フリーター』生活もそこそこ厳しかったが,この世界の情報、生活の仕方を知っていくごとに生活も楽になっていき、今では大学生の工事バイトの日当ほどの収入を得ている。


さらには『勇者』、『冒険者』、『フリーター』には浴場付きの整備施設を無償提供してくれているので、野原で寝るだなんてこともなかった。


本来なら春野と同じ『フリーター』は基本的に日当を受け取った後は、さっさと風呂に入って飯を食ったら施設内の宿で寝るといった面白みのない一日の最後を過ごしているのだか、今日の春野は少し違った。


市役所から随分離れた所で、春野はロングコートのポケット虎柄の財布を取り出し、中身を確認する。


中にはこの五日でコツコツと貯めていた金と、最初にこの世界で戦った男たちからパチった金、おおよそ十五万が入っている。


目標金額に達したのを確認した所で、春野はその場所に向かう。


この街はこの国の王都に継ぐ上流街なだけなって元いた世界に負けぬ数多くの娯楽施設が設備されていた。


ダンス場にゴルフ場、パチンコ屋、射的場と、様々な場所を目に入れず、春野がやってきたの

はーー


大道りを離れて路地裏にあるカジノ屋だ。


春野は元々ヤクザの若頭なだけあって闇カジノのオーナーをしていたり、麻雀屋を設立していたりと、そういう危なっかしい賭け事が好きなのだ。


カジノ屋ヘ入り、万が一のことを考えて三日分の生活費だけを残しておいて、八万四千円をチップに変換して、春野は今まで賭け事をしてきて最も勝率が高かった“ポーカー”をすることにした。



ーーポーカー。配られた五枚のカードを一度だけ山札と好きな数交換して、相手よりいい役を揃えるゲームーー



「では、勝負を始めます」


春野とその対戦相手の担当となった店員が掛け声を上げると同時、春野を含む四人に五枚ずつカードが配られる。


対戦相手は小太りの男に質素な服を着ている主婦、丸メガネを掛けたサラリーマンと、三人共少し貧相に見える姿と雰囲気をまとっている。


今回の"親”はサラリーマンとなり、彼は勝負をするのに必要な最低数チップの十枚から四十枚にレイズ(掛け数を増量させるときの言葉)し、全員がコール(”親”が増やした掛け数に自分も合わせる時の言葉)する。


春野は八のスペード、八のハート以外のカードを山札に戻し、店員から新たな三枚のカードを受け取った。


他の対戦相手も何枚かの手札を山札に戻し、新たなるカードを見て、それぞれ別々の表情を浮かべた。


と、“親”であるサラリーマンは掛け数を四十枚目から七十枚目へとレイズする。


「「コール」」「ドロップ」


主婦は負けると判断したのか、ゲームを続ける春野たちにチップを十枚ずつ配ってドロップ(勝負を降りる時の言葉)する。


「勝負っ!」


店員の掛け声を引き金に、春野たちは一斉にお互いの「役」を見せ合った。


小太りの男はKの「ワンペア」、サラリーマンは9と5の「ツーペア」、さて春野は。


ーー8と10の「ツーペア」。


おそらく勝利を確信していたであろうサラリーマンは春野を睨みつけ、歯を軋ませた。


それに春野は一瞥もくれず、主婦以外の対戦相手が出したチップを手持ちに加える。


本日、このカジノのチップの価値は一枚百六十八円で、それぞれの手持ちのチップの数は春野が六百五十枚(十万九千二百円)、主婦が四百七十枚(七万八千六百六十円)、サラリーマンと小太りが四百三十枚(七万二千二百四十円)だ。


「次の勝負を始めます」


「‥‥‥‥‥」


サラリーマンはまだ何か言いたげであったが、店員が再び春野たちに呼びかけ、カードを配られた所で鋭くしていた視線をカードに移す。


「‥‥‥」


今度の春野のカードは六のハート、八のスペード、八のハート、Kのスペード、Kのハートだ。


今回の“親”は春野で、賭けたチップを十枚から六十枚へとレイズし、六のハートを山札の一枚とチェンジする。


相手は全員コールを選択し、カードをそれぞれ店員に差し出した枚数分チェンジする。


そして、全員が変え終わった所でで店員が呼びかけ、春野たちは「役」を見せ合う。


サラリーマンは9とJの「ツーペア」、主婦は10の「スリーカード」、小太りはAとQの「ツーペア」。そして春野は。


ーーKの「ワンペア」と8の「スリーカード」からできる「フルハウス」。


圧倒的な春野の波、その前に対戦相手は手の中、手の甲に汗をにじませる中で、当の本人はくだらなそうに頬杖をついた。



ーー三十分後。



「「「‥‥‥‥‥」」」


「ほら、どうすんだ?勝負続けんのか?」


現在、それぞれのチップの所持数は、春野が千四百八十枚(二十四万八千六百四十円)、サラリーマンは百六十枚(二万八千五百六十円)、小太りが二百四十枚(四万三百二十円)、そして主婦は百二十枚(一万四百八十円)。


「っお、お前!絶対ズルしてるだろ?イカサマしてんだろ?そうだろ!?」


崖っぷちに立たされ、正気が崩れ始めたのであろう小太りの男が春野を指差し、怒鳴りつける。


「お客様、この方はイカサマなどされておりません。そもそも山札は私の手元にあります。干渉など、できるはずがありません。」


「‥‥‥‥!」


手助け、という意味を一切込めず、ただ本当のことを店員は冷たく口に出した。


それに小太りは何も言えず、顎を引くーー


「なら、ハンデだ!ハンデ!お前、次の勝負でカードをチェンジするな!!」


本気で根の底まで狂い始めたかのような顔で小太りは“ポーカー"ではほぼ勝率を零にする凶悪なハンデを春野に叩きつける。


それに春野は頬杖をついたまま、まるで眠りから冷めたかのようにゆっくりと目を開け、小太りを見据える。


「ーーいいぜ、受けてやるよ」


「ーー!そうだ!それにぐれぇしねぇと」


「ただし、その代わりにお前らは全部のチップをレイズしろ。そうしたらついでに俺が次の勝負で負けたらお前ら全員に四百九十枚ずつくれてやる。」


春野が小太りの要望を呑む代わりに望むだことはーーー負けた方は全ての金を失う。


「「「‥‥‥‥‥」」」


どうする?、と春野の対戦相手たちは互いに目を見合わせるが、やがてそれを受け入れ、それぞれ席に着く。


「ーーでは、最後の試合を始めましょう」


最後にふさわしく、店員が声を張り上げ、春野は四百九十枚のチップの束を四つをテーブルに叩きつけ、残りの三人は全ての手持ちのチップをレイズした。


春野は配られた五枚のカードを掴み取り、何の役が出来上がっているかを確認する。


「‥‥‥‥」


わずかに目を細め、カードをテーブルに置いた春野を見て、カードをチェンジし終えた小太りが意地悪そうにニヤけて自身の強力な役となったカードを見た。


ーーそして。


「勝負!」


バッと一斉にテーブルに伏せたカードを表に向けて、「役」を見せ合った。


サラリーマンはJの「スリーカード」、主婦は2、5、6、9、Kのクローバーの「フラッシュ」、そして小太りは、4〜8のハートの「ストレートフラッシュ」。


そして、小太りたち、店員、さらには周りにいた他の観客までもが春野の差し出したカードに目を向ける。



春野の役、J〜Kのスペードの「ロイヤルストレートフラッシュ」。



「「「‥‥‥‥」」」


春野の「役」を見て、対戦相手は結果を理解できず唖然とする中、店員は冷静に春野の対戦相手たちのチップをかき集め、春野の前に押し出す。


「‥‥‥」


春野はそんな対戦相手たちに始めてまともな一瞥

をくれて、それと同時に左手で要望どうりに相手が出したチップを袋の中にかき集めた。



ーーー入れ替えマジックで、カードのすり替えをしてやった。


           2


『再会』があったのは、店から出て間もない時に起こった。


カジノで勝利ーーイカサマをしてーーで気分が良くなっていた春野は速歩きに祝として酒屋にでも行こうかとーー


同じ路地にあったスナック屋から、顔を後ろにいた人影向けたまま歩いてきた少女と打つかった。


「ちょっと、どこみてんのあんた!」


逆恨みで怒号を目の前の赤髪の少女から浴びせられ、春野は明らかに嫌そうな顔をする。


「んだぁお前ーー」


そこで、何か脳裏の奥から不思議な感覚が湧き上がってきた。


目の前で必死にと背を伸ばしている赤毛の少女、どこか、フラッシュバックに似た感覚を覚える。


「‥‥おい、女。どこかであった気がするが、覚えてるか?」


「えぇ?誰があんたのこと‥‥」


すると、その少女の後ろにいた人影が前に踏み込み、月明かりに照らされてその姿を現す。


目の前の生意気そうな少女と違い、少女にしては凛々しい顔立ちで、赤髪に合わせた赤いマントを纏う胴体には、あるはずの左腕が失われていた。


「何者だ?」


「待って姉さん。アイツ、どっかで見たことがっ」


どうやら目の前の少女も春野のことに覚えがあるらしい。馬鹿そうな顔にしてはだな、と春野は思う。


眉間にシワを寄せ、「うーん」と唸って三秒後。


「あーーー!!鉄根組の時のヤクザだ!!」


赤毛の少女は春野の顔を指差し、叫びながら目を見開く。


そこで、春野も目の前の少女の事を完全に思い出した。


「お前‥‥大通りの時、あいつらに絡まれてたガキか!」


「そうそう!おひさじゃん!!」


「な?!おい禍緒州カオス!この男、鉄根組の組員か!?」


「違うよ希石キセキ姉さん!この前鉄根組の奴らに絡まれた時にごっついチンピラに助けてくれたって言ったじゃん、そのチンピラだよ」


(‥‥チ、チンピラ)


「なるほど、その時の恩人か」


やっとのことで理解する姉を放っておいて、春野の胸筋を軽く掌で叩きながら、笑顔を見せる禍緒州という名の少女。その様子に春野以上に呆れた表情を浮かべた希石は、味わい深げな顔を作る春野に顔を向け、


「すまない。妹の話し方のせいでつい敵と疑ってしまった。妹の恩人なのに、申し訳ない」


そう言って禍緒州の姉は春野に向けて頭を下げる。


当の本人は「ちょっと人のせいにしないでよ」と姉の体を揺さぶるが、話し方が悪いのは事実だ。


「それにしても禍緒州。あの時にも言ったが、鉄根組には絡むなとーー」


「余計なお世話ぁ」


「ぬ‥‥」


「‥‥‥なぁさっきから鉄根なんとかどうとか言ってるが、どういう奴らなんだ?」


「ーーこの街のヤクザの事を知らないのか?」


「あぁ、俺は先日この街の『フリーター』になった元無宿者の風来坊、この街に来たのも数日前だからあんまりこの街の事は知らねぇ」


あえて風来坊の設定はここでも引っ張ることにする。


「そうだったんだ、じゃあちょっと自己紹介させてよ」


(この街のヤクザについてじゃあねぇのかよ)


そんな想いが顔に出ていたのか、禍緒州の姉は春野の右肩を叩くと、「妹の悪い所なんだ」と一言。


「あたしは戦塚禍緒州せんずかカオス、『冒険者』なんだけど、姉さんと一緒に拳怒組っていうヤクザグループの組員なんだ。で、こっちが希石姉さん。」


「‥‥やはり、お前らはあいつらとは違う輩か。組内で争うってのはないだろうしな。ーーで、鉄根組ってのは?」


「あいつらはこの街で一番のヤクザとか名乗ってて、ちょーしこいてるやつら」


禍緒州の話からまとめると、この街には数多くの派閥があるという。主な派閥を上げると、


拳怒組けんどぐみーー禍緒州たちが属する商売中心のグループ。麻薬などの密売はやらないらしい。食品を扱う店舗の数々で収入を得ているらしい。


鉄根組てっこんぐみーー拳怒組とは不仲の関係の過激派グループ。戦力差で言えば拳怒組より上。


金流組きんりゅうーー『勇者』を破門となったやつらが集まったグループ。街の警備隊と対立する事が目立っているらしい。


龍剛組りゅうごうぐみーー『フリーター』を中心としたグループ。鉄根組以上の過激派であり、鉄根組とは不仲。その裏には《国の懐刀》の銘を持つお嬢様がいるとの噂。


他にも、前文のグループを親としたグループや少人数グループが、禍緒州が知ってるだけでも三十以上は存在するとのことだ。


「そーいえばさ。春野って確か火の怪‥‥とかいうグループの若頭なんだよね? どうして他のグループであるあたしを助けてくれたの?」


(‥‥‥話さないといけねぇか)


眉を顰めるようにして表情を固め、春野はコートの中に入れ込んでいた安物のタバコを指先で回しながら。


「‥‥実はだな、若頭と言っても元若頭だ。‥‥風来坊って聞いたらもうわかるんじゃねぇのか?」


「‥‥つまり、破門ということか?」


そう希石が重ねるように問いかけてくる。


「正しくは死んだ、と組では思われてんだ。カチコミで九死に一生を得たんだが、組では葬式も終わっちまってた。組に戻るわけにもいかねぇからな(訳もクソもないが)、風来坊としてこの街に来た」


多少の嘘や本当かどうかもわからない事を持ってしまったが、大体の事を話し終え、春野は最後に長々と重いため息をついた。


「へーそうだったんだ‥‥‥だったらさ、うちのところに来ればいいじゃん。ちょうど組員も少なくなってたし、財政もきつかったし、それに元若頭なら色々商売の仕方とかもわかるだろうしね♪」


「‥‥‥」


やけにというか、嫌にと言うか。禍緒州の調子が乗ったような提案に、春野はどこか寒気を覚えるのであった。


           3


「ーー全員、集まったな」


『‥‥‥‥‥』


教室二つ分はあるであろう広さ、その規模を覆い尽くすかのように施された洋風の装飾が目立つ大広間。その上座に腰掛ける、その瞳から光を失った老人が、周りに座る部下たちに呼びかけた。


その人数は九なのに対し、席の数は十。


その空いてる席は、老人のすぐ横に置かれていた。


その席を持つものは、今はいない。


「それじゃあ、第六代目の若頭を決める、会議といきましょうやーーー組長」


「‥‥うむ」


声を掛けられた老人ーー組長は、僅かに残る視力を絞り出し、その近くに置かれた移動式の黒板に目を向ける。


それに続くように、その側近たちもちびちびとその『データ』を目にした。


そんな中で一人、まだ青年と言える若さを持った男が和紙レポートを読み上げる。


「今回の緊急幹部・側近会議の内容といたしましては、成績を残せる若頭、つまり、組長に継ぐ最高責任者の就任を確立させることとなっております。」


「‥‥諸君、これは直ちに処置を置かなければならないことだ。ーーーー先日の鉄根組の襲撃により、第五代目の若頭が死んだ。それを良いことに周りの組は我々に目をつけてる。迅速に終わらなさなければならない」


「‥‥組長。若頭を決める、となっていますが、一体どのように‥‥‥」


「それについては私が」


若頭を決める、そのやり方については本当はこの場にいる全員がわかりきっていることだった。


が、このような事態はこれまでになかったことだ。


だから、あくまでも確認が欲しいのだ。


「ーーその決め方としては、この組に沿った形、つまりは商売を中心としたこの組に、最も上納金を収めた幹部、もしくは側近を第六代目若頭とします」


『‥‥‥‥』


それを聞き、所々で安心を隠しきれていない嘆息が発せられる。


「それでは、こちらのデータをご覧ください」


その青年の言葉に釣られるように、幹部ら側近らは改めてその『差』を目の当たりにする。


「おいおい」「馬鹿な‥‥」「そんなこと‥‥あっていいのか」


発せられる部下たちの言葉は彼らが予想だにしなかった結果だった事を十分に暗示していた。


その『データ』は、棒グラフで表示されており、五代目若頭がいた組を除いた九つの組の中で、ずば抜けて棒を伸ばしたのは二つの組、その他の組は底スレスレの額しか収めていないのだ。


ーーーとは言っても、ずば抜けた額を収めた組も、例年と比べると、圧倒的少なさだが。


「この通り、各々の収めた額は圧倒的。この通りにいきますと、第六代目若頭は島打組しまだグループの島打さんとなります。」


「ふざけんなやぁ!!」


静けさだけが充満していた大広場を突き破ってけたましい怒号を上げたのは上納額では二番目の中村組なかむらグループの中村だ。


「あんたら島打組は今年結成したばっかりの若造グループ。こちとらは拳怒組ができてから使えてるんやぞ!それを無視して、若頭になんかなれる訳ならへんやろうが!」


「ほざけぇ!!」


それを聞いて、島打は立ち上がった中村に向けてガンを飛ばし、拳を握る。


「八代組長が亡くなってから今まで、あんたらどうやって飢えしのいでた?」


『‥‥‥』


「儂らの金があったからやろうが!!こちとらは善意たけでやっとんちゃうぞ‥‥‥‥貢献しただけそれだけの地位をもらってもええやろうが!!」


その一言が決め手となり、ついに誰も言葉を発するものはなかった。場に、沈黙が落ちる。


「‥‥‥では、第六代目若頭は島打グループの島打さんということでーー」


「ーーー稼ぎで地位貰えんなら、俺も入れる義理はあるよなぁ」


『ーー!?』


あるはずのない、否、彼らが聞いたことのない言葉、口調、それが大広間の入り口から内部へ飛び込んできたのだ。


全員ーー否、組長以外の全員が慌てたかのようにその視線を入り口に向け、その人物を目にした。


百九十近くはある身長、特徴的な白いロングコート、人の心を透かすような鋭い目を持った男が、そこにいた。


「‥‥‥誰なんだ、あんた」


「‥‥はじめまして、といったところだなーーー組長以外は」


『ーー!?』


「組長、この男の事を‥‥!?』


「一週間前、突然この男‥‥川尻春野があの子たちを連れて、いや、連れられてといったところか。それで、あの子が言ったのじゃ、『春野って元若頭だったらしいからお金のこととかも解決できるかもよ』‥‥とな」


「‥‥し、しかし、こいつは上納金もなにも‥」


‥‥それを引き金として、春野はその鋭い視線を入り口に向け、声を上げた。


「‥‥頼んだ」


ガゴッ どこかで気だるく入り口の扉が開けられ、そこから十を超える組員たちが大広間の中に入っていく。


だが、問題はその組員たちの手元だ。


「な、何じゃありゃあ‥‥」「ど、どうやってあんな‥‥」「なんちゅう大金じゃ‥‥」


組員たちの一人一人の手元には、リヤカーで山積みにされた札束が引かれていたのだ。


「‥‥何なんや、この大金は!!」


憤怒と不理解を混ぜた島打の怒号が真正面から春野に叩きつけられるが、それに臆することなく、春野はリヤカーの一つに手を置いて、


「‥‥今、魔王軍が活発しとって武器がなくなりつつあるのは知ってるだろうが、それを利用して俺は戦場で捨てられたままの武器を裏であんたらの組員使って回収させとった‥‥あ、勘違いしないでほしいがちゃんと給料は払ってな。それでボロボロだったそいつらを鍛冶屋で直させてから一発、大通りで売っとったってわけだ。そしたら市役所の奴らがすべて言い値で買うから買わしてくれってことになってぎりぎりまで値張ったらこんな大金になったって訳だ。」


『‥‥‥‥』


職人的な状況判断と駆け引きの結果を目の当たりにして他の幹部や側近は言葉もでない。


そして、春野は空けられた若頭だけの席に腰を下ろし、上座に座る組長を見据えた。


「‥‥組長。これだけの結果を残せる人物があんたの目の前にいる、ここで見逃すのか?」


「‥‥‥」


「‥‥‥ふざけんなやぁ!!あんたみたいな若造で何処の輩かも知らねえ新米野郎に」


「あと、入りたてが若頭になれるというのはあんたが証明してくれたんだからな」


「ーーーッ!!」


憤怒と驚きで顔を真っ赤にした島打の表情を見て、春野はその顔に向けて鼻で笑った。


「‥‥‥やっぱりすごい‥‥!春野、島打のやつにも余裕で‥‥」


「‥‥これは、大変なことになるかもしれないな。」


大金運びに付き合わされた組員たちと共に、リヤカーで大金を運んでいた戦塚姉妹たちは、思わず嘆息混じりの言葉を漏らした。


‥‥そして、春野が稼ぎ上げた金の額を確認し終えた青年が幹部、側近に体と、声を向けた。



「‥‥決定したしました。次期拳怒組若頭は、川尻グループの春野さん、貴方となります。以後、我ら拳怒組に尽くすように」







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