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第四章 共闘、そして再開

          1



「ゼット‥‥‥」


揺らぐ体をなんとか保ち、春野は友ーーかつての姿を露わにしたゼットの姿と存在に、目をこれ以上はと言える程に見開いた。


それは、感情という物を持たないIRハルノを除けば、全員が同じことであった。


「‥‥‥‥なんで、第一幹部が‥‥こいつが‥‥‥?」


「ーーーゼット様、生きていらしたのですね?」


だが、この場でただ一人、リージュはこれまでの春野たちに向けていた態度を忘れたかのように改め、恭しく頭を下げてみせた。そんなかつての部下を、ゼットは冷ややかなーー否、冷え切った視線で見据えた。


「私はもう魔王軍でもその幹部でもないーー見え透いた嘘甚だしい敬意はやめてくれるだろうか」


「‥‥‥‥‥残念です。ぜひとも、貴方にはこちらに引き入れようと思ったのですが」


「私はもう違うつもりはない。ーー私は、友につく」


リージュと対面し、警戒を緩めないままゼットは背後で肩を垂れる春野に手を伸ばした。


「私にらしくない姿を見せないでくれ、春野。ーーー君には、やるべき事があるのだろう?」


「ッーー」


ゼットは、こちらを一瞥も掛けない。ただ、次の言葉には満足げなーーー街で再開の誓いをした時と同じ口調があった。


「私を、救ってくれたあの時のーーーあの姿と意思を見せてくれ」


その言葉に、嘘偽りはない。本当に、ゼットは春野に心も体も救われた。ーーそれを、『仲間』たちのように返したいだけ、その意志が春野を突いた。



「彼女も、君の奮い立つ姿が見たいそうだ」



その言葉が力強く春野の四肢を動かし、ゼットの差し出された手を強く握り返したことを引き金に、春野は奮い立った。


IRハルノを自身の前に立たせるリージュに研ぎ澄ました視線を向け、誓う。


「俺の前じゃ‥‥‥‥『仲間』は死なさせねぇぞ!!」


『ーーーッ!?』「ーー」


直後、瞬時に形成された術式を両手の内に埋め込ませた春野は、橙色の輝きを誰も反応し切れる前に撃ち放ち、直撃を受けたIRハルノは火花を散らしながらその軌道を伸ばされていく。


激突の衝撃がそのまま輝きが通過した跡を派手に崩れさせ、吹き飛ばしていく。


「ーー」


その渾身が込められた光線をIRハルノは両腕を上から叩きつけることで砕き、霧散させた。


歪に歪んだ鋼鉄の体に熱気を纏っていたIRハルノだが、降り立った先でその先で崩れた胴を整え、更にその両腕から一本は炎刃を、もう一本はフルーレを生やす。


それに向き合う形で春野は地に突き刺さった《大剣》を、ゼットは鱗が敷き詰められた豪腕を構えた。ーーー残された時間、三分。



ーー激突、《死行人》を加えて再開。



「しぃいいいーーー!!」


「おぉおお!!」


「ーー」


春野が腕を振るうごとに発生される刃状の輝きが全て外れることなくこちらに駆け迫るIRハルノと激突した。その内のいくつかは振るわれる刃に切り捨てられるが、その他全てが体の部位の所々で爆発を上げ、傷を刻み込む。


その光刃は、至近距離でIRハルノと激闘を繰り広げるゼットを避けるようにして作られ、放たれていた。


ゼットに迫る刃を光刃が軌道をそらし、その一瞬もない停止にゼットが次々と衝撃を打ち込んでいく。


「デストラクション!デストラクション!!」


「ーー」


自動再生を持つ者のにとって、ゼットの《能力》は最悪と言っても過言ではないだろう。


事実、ゼットが攻撃を撃ち込んだ部位は凹みと傷を残して変化がない。


持久戦に持ち込まれているーーそう判断したリージュはIRハルノに本気を出させる。


「IRハルノ!Iナックルを主軸にして奴らを殺せ!!」


「ーー」


それに応じることはせず、ただ命令のままにIRハルノは攻撃を仕掛ける。


ゼットの首を掴み上げ、上空に投げ飛ばしたIRハルノは両手に溜め込んだ熱を火球として瞬間もなく撃ち放つ。


熱を撒き散らす膨大な火球の炎身に、横から無数の弾丸が穿ち、身を崩れされた火球は宙に舞ったゼットに届く事なく爆発を轟かせた。


「ーー」


「だぁあああ!!」


即座にIRハルノは攻撃の邪魔をした春野に鋼拳を定め、一気に距離を詰めた。


目前、『紫』の輝きを刃に宿した《大剣》を握りしめて、春野はIRハルノと対面する。


飛び込んだ先、プログラミングされた視界にある春野の厳顔に適格な狙いをーー


「ーー」


春野の姿が消えた大地に叩き込み、土岩の噴火を上げた。視界から見失い、IRハルノはその事実に『使命』を混乱させ、プログラミングにないはずの『戦闘中に動きは止めない』を行ないーー。


「ーー」


背後から浴びせられた波状の光線によろめき、動作音を立てて首を背後に向けた。


そこには光線を撃ち終え、《大剣》を構えたまま様子を伺う春野の姿があった。


超高速で回避したのかーーそう考えるのも惜しいと今度は胸部に溜め込んでいた熱球を打ち込む。


山一つ、当たれば灰も残さない熱球は『そのまま』に軌道に乗り、はるか彼方の山奥で爆発を噴き上げる。


「ーー」


大地と大気が轟き揺れる中で、IRハルノは何が起こっているのかとプログラミングを行わざるを得ない。


ーーその無防備な背に再び波状の光線が撃ち込まれた。


「ーー」


唸りのような動作音を響き上げ、IRハルノは背後から幾度も光線を撃ち込んでくる春野が持つ《大剣》ーーその刃に宿る輝きが要因であると結論付けた。


同時に、春野も完全に理解する。


「ゼット!こいつに朔刃とお前の力はねぇ!ーー二人で一気に攻めればいけるぞ!」


「ッーー」


その断言に戦いを見届けていたリージュが歯噛み、その顔にシワを寄せた。


Iナックル。おそらくそれがIRハルノが自由自在に『仲間』たちの力を使える《能力》そのものであるのだと思う。


それを主軸として戦うよう命令されている中で、IRハルノの攻撃を今まで受けてきた春野のあらゆる傷は、治癒を掛ければ確かに縮まっている。そして、先程から撃ち込んでいる波状光線に対する対応。


IRハルノは、『鏡』さえ使えば済む話を、わざわざ腕で防いでいる。


これが、IRハルノが持つ弱点か。


「なら、行こう!」


「あぁ!」


空中からゼットがIRハルノ目掛けてその身を弾くように飛び進め、春野は手の内の《大剣》、『紫』に宿る『仲間』の力に心で呼び掛け、再びその身を掻き消して先刻までの場所を見据えていたIRハルノの背後に回り込んだ。



超絶魔術大剣アークマジックカリバー》。


『紫』に宿った柚果霊が千年という果てしないような年間で習得した魔術、魔法の一部が使えるようになるもの。


それらの内の一つーー僅時間停止がIRハルノを翻弄していたのだ。



「ーー」


ついにIRハルノはプログラミングの処理が遅れ、ただ辺り構わずひたすらに打撃と光線を無造作に無制限に撃ち放つ。


打撃が大地を噴火に包み込み、斬撃が大地と空気を粉々にえぐり取り、魔術と光線はあらゆるものから爆発を上げさせ、消滅させる。


「「ーーだぁああ!!」」「ーー」


瞬間、地面スレスレから飛び込む春野と上空から飛び込むゼットが、迫りきた暴力身を翻す事で同時に、二人はIRハルノへと距離をゼロとした。


「《最後乃死刑執行ゼットデストラクション》!!」


左腕に渦巻いていた濃密な紫と黒の衝撃波をゼットが撃ち込む直前、春野は《大剣》にて輝く九つの輝きーーー三つ目の、『黄』の輝きに手を当てた。


「《死刑執行乃大剣デストラクションカリバー》ァーーッ!!」


下から振り上げられた豪快な斬撃、真正面から打ち放たれた衝撃波は無防備をさらしたIRハルノの身を耳障りに削り取り、穿ち抜いた。


無様に荒れ果てた大地に転げ回り、やがて拳を突き立てる事で威力を殺したIRハルノは体の所々から火花を散らし、派手に開けられた傷口をさらした。


修復できぬその大穴は、この死闘を決着付ける確かな弱点となった。


「感謝するぜ、『仲間おまえら』」


血が流れる己の体も『黄』の輝きを纏っていた《大剣》を持ち直し、指先で《大剣》に宿る九つの輝き全てをなぞり縫う。


九つそれぞれ異なる輝きが剣身にまんべんなく纏わりつき、全てが刃の先に集中した。


断て。


「《根絶乃皇帝乃大剣カイザーイレイスカリバー》ァアーーー!!」


九つの輝きの衝撃波が真正面にあった全てを撫でーーー直後、振り放たれた『極』大の、円状の斬撃が一集めに撃ち放たれ、その先にあった大地、木々、山の数々、大気ーーーそして、造られた《根絶者》の姿を丸ごと包み飛ばし、激突した世界で辺りを歪曲わいきょくさせるほどの爆発を巻き起こし、九つの輝きが噴き上がった。



           2



九つの輝きの噴火が途絶えた後は、その輝きにはないドス黒い爆煙が山岳の中部でたなびいていた。


直前までの死闘を思わせない静けさだけが場を包み込み、その中で一人、ラベスタントは小さく息を呑んだ。そして、声を漏らす。


「終わった‥‥‥」


信じられないと言いたげにラベスタントは見開いた目で、この戦場に立った二人の戦友を見上げた。


即座に、春野に残された時間は一分も残されておらず、二人して特に火傷が酷い。だが、二人ーー春野とゼットには痛みを塗り潰すほどの達成感が感じ取られていた。


「ふぅ‥‥‥‥」


血香混じる吐息が小さく開かれた口からたなびき、肩から全ての力を抜いた春野はドッと膝を付いた。


「随分、待たせたな‥‥‥ラベスタント」


「い、いいえ‥‥‥別に気にしないで春野ーーアタシが、あの場にいても足手纏いになってただけだもの」


膝を付いた所の隣に転がるラベスタント、その彼女を縛っていた特殊な輝きを宿す縄を解き、やがて光をなくしたそれを春野は投げ捨てた。


愛人の肩に抱きつき、ラベスタントはすぐ隣で感じる春野の顔、その頬に頬ずりした。


「ありがと、春野」


ただ一言、そうまとめてラベスタントが笑みを含めた言葉を春野に掛けてーー


「ラベスタント嬢、私には労いのお言葉はないのですかな?」


それに苦笑を浮かべて、それまでの一方的なイチャつきを見守っていたゼットが呆れたように横槍を入れた。


それにラベスタントはムスッとした顔をゼットに向けて。


「‥‥‥‥‥えぇ、そうね。貴方もありがと」


「その言葉の前の微妙な間について、いてもいいですかね?」


そこでプイッと顔をゼットから背け、ラベスタントは頭を春野の身に押し付けたまま、甘えるように体を丸めた。



ーーそして、ここまでの三人のやり取りを静かに見届けていたリージュは。



「‥‥‥‥来たか」


顔を三人からそらし、大穴開けてえぐり取られた山岳に視線を向けたリージュは、満足げに笑みを浮かべた。


「ーー!春野、逃げろ!!」


「ァ!?」


何事かと考えるよりも先に、春野はラベスタントを抱きかかえて弾かれるように跳躍する。


直後、山岳に刻まれた惨傷から一瞬閃きが膨れ、一集となったそれは赤黒い閃光となって春野たちが即に飛び去った大地を切り捨てた。


爆発だの、噴火だのいう事は引き起こされない。ただ、風という障害を切り裂いたそれがその先にあった大地を、山を、国都を切り捨てただけの事。


今まで例に見たことのないほどの圧倒的貫通、切断力ーー。


ビィイイイッ!!布を引き裂くような響音を立てて赤閃は連鎖的に打ち放たれて、空に逃れ、舞う三人の命を無造作に切り捨てようとする。


「嘘だろ‥‥‥まだあれが生きてるってのかよ!?」


「そのように感じるが、あそこから噴き出る魔力があれとは性質が違うーーー『生命』を、感じる魔力マナだ」


「っんだ‥‥ぬぁっ!?」


回避しきれず、即座に《大剣》から展開した『鏡』が運良く赤閃を弾き、軌道を変えられたそれは発生源に突き進み、肉をえぐり取るような音を轟かせた。


ピィイイイイーーー


「ヤベッ‥‥‥!」


春野の頭上、そこから耳をつんざく高音が鳴り響き、それに続くように春野と抱えられるラベスタントは落下の中で浮遊感に溺れた。


「ッーー」「春野!」


無様に大地の上で身を弾かせ、背に自重と彼女の僅かな重みを『普通の体』で受けた春野は苦鳴と口内に残っていた血の塊を吐き出した。無理もない。今の春野の体は『普通の体』そのものなのだから。


「‥‥‥‥時間‥‥切れ、だ‥‥‥ッ!!」


忌々しく呟き、春野は頭上で『0:00』の表示を浮べるそれを睨みあげた。


赤閃を無制限に撃ち放つ『それ』がどれほどの力を持つのか分からないままに、この場に残る最高戦力は無力化したのだ。


その二つに絶望し、ただ赤閃の輝きを撃ち放つ『それ』に目を向けることしかできずにいた三人に、リージュが哄笑こうしょうを掛けた。


「お前たちに、あれの話をしてやろうか?」


「何を‥‥‥!?」


ラベスタントが上げた驚きに応じることはせず、リージュは続ける。


「あれば、既にお前たちが知る通り、いくつものの力によって構成されている‥‥‥『その全て』を覚えているか?」


「ーー朔刃とゼットを除いた俺の『仲間』、俺の力と経験、《神話乃鎧》、第二幹部インフィンテ‥‥‥だけだったな」


「そうだ。それが全てだーーーだが、お前たちはIRハルノが見せた力が全てだと思っただろ?」


感情が読み取りづらい口調と意図を含めたそれに三人は固めた表情除いた中で考え込みーーー春野が、声を上げた。


「‥‥‥マジかよ、『あれ』があんのかよ‥‥‥ッ!」


「そうだ。お前なら分かると思った」


底しれぬような狂笑を浮かべ、リージュは足元に描いた魔法陣で徐々に自らの姿を霧散させていく。


そして、ゼットとラベスタントがその意味に気付き、山岳の中部で膨れた赤閃を散々にした『それ』に目を向け、戦慄した。


「第二幹部に宿された無限界生命力ーー第二形態化リミッターかいじよだ」


『ーーーッッ!!』


肉の身を胴、四肢、首に纏い、鋼鉄の鎧と部品を手足、背、顔に取り付け残したIRハルノ。


その、肥大化した鋼鉄の獣の咆哮が不気味な機械質を感じさせていた。



           3



「洒落にならねぇぞ‥‥‥‥!」


四肢を拡げ、咆哮を轟かす鎧獣の姿に春野は呻きのような声を上げ、痛む胸部を押さえながら立ち上がった。


かつて戦ったインフィンテーーその第二形態はあまりにも言える強さだった。


魔王軍二番目の戦力と春野の力合わせでようやく勝てた。その、強さを上回る第二形態とは。


ーーー瞬間、真正面から飛び掛かった鋼獣の爪撃が、膝をつく春野を差し置いて、その凶刃がゼットとラベスタントの体を弾き飛ばした。


無力となった者に、その刃を向ける必要はない。そう言わんばかりに鋼獣は先の一撃に宙舞う二人に咆哮を浴びせ、横で見上げる春野に気配も一瞥もくれずに宙の先に飛び掛かった。


「ま、待て‥‥‥‥待ちやがれIRーーッ!!」


懸命に、だが空しく春野は暗雲の空にて『仲間』の命を刈り取ろうとする鋼獣に張り裂けるほどの叫びを掛ける。


だが、鋼獣は彼に意識も攻撃も向けることはない。春野は、身を削られていく防御一方の『仲間』たちを守ることも、鋼獣に攻撃を加えることもできない。今の彼は、無力なのだから。


それでも春野は死にものぐるいで足に力を込め、山岳の奥へまたその奥へ消えていく『仲間』たちと鋼獣の姿へ追い縋ろうとする。


「やめろ‥‥‥やめろ‥‥‥やめろ、やめろ!テメェにそれが許されるって思いやがるのか!?俺が、俺が相手がIRーーーッッ!!」


『ーーーッッ!!』


「ぐぁっ‥‥‥」「きゃあ!?」


光を纏い、否、光の如くの爪撃はそれを身に一杯に浴びせた二人に、真っ赤な血華を咲かせ、共に二人は土煙を噴き上げて荒れ返った地面に叩きつけられた。


地に転がった二人の体をズタズタに引き裂かんとばかりに鋼獣が己の爪で狙いを定め、空気を駆けた。


『ーーーッッ!!』


「ゼット、ラベスタントーーーッ!!」


大切な『仲間』を死なせて、自分だけが生き残れる訳がない。その時間が、たとえ一秒であったもしても。


『あの日』から、ずっと想い続けたこの誓いーー。


この体に、力がなくなってしまったというのなら、せめてこの身を盾として、彼らの逃げるための時間を、僅かでも稼ごう。


誓いから生まれた覚悟は春野にさらなる駆ける力を得て、せきを切られた激情が死への思いを受け入れさせる。


春野は血みどろの中で呻く二人に背を向け、目前となる爪撃を春野は四肢を広げて受け入れた。


背後から、ゼットの声とラベスタントの悲鳴が聞こえたような気がしたが、振り下ろされた爪撃が纏う豪風に掻き消されていた。


「「ーーーっ!」」


二人の目の前で、肉片をも共に散らす血の高潮が噴き上がった。


あまりの衝撃と威力にすぐ春野の体は砕け散る。



ーーーそして、悲痛に叫ぶ二人と新たな咆哮と爪撃を飛ばす鋼獣の間で、春野に刻まれた荒々しい傷は、自らを発生源としてーー封紙カードを、抱く。



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