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第五章 皆が幸せを迎えられるよう

          1



「春野さん!」「春野!!」


「静かにしたまえ。病室では静かにするのだ」


この国の国都にある病院の中の一室、その中に飛び込んできた朔刃とラベスタントを白髪の侍ーー白蓮が注意した。


中には彼女以外にも戦塚姉妹や婢女華、柚果霊、そしてそんな彼女らに囲まれる形でベッドにいる。


「‥‥‥うるせぇ、寝させろ」


「「そうはさせ(ないわ)ません!わたし(アタシ)がどれだけ心配したか‥‥‥」」


こういう所は息ピッタリの二人は、互いに睨み合い、その中心で火花を散らす。


それを見て、寝巻きの上にいつものロングコートを着た春野は顔を背けた。


戦いから二日が経とうとしている今、彼の仲間が全員何かしらのお見舞いに来ていた。


傷は《死刑執行》の効力がなくなったことで塞がり、今日中には退院できるとのことだ。


そうして場が沸く中で、柚果霊はその口を春野の耳元に寄せ。


「よく頑張ったわね、春野ちゃん。今、世間は貴方によって第一幹部が撃破されたことで騒ぎ上がっているわ。特に、スタンダードは色んな意味で大騒ぎよ」


「‥‥‥」


「春野ちゃん?」


目を閉じ、鼻から吐いた春野はどういう訳か話そうとはしなかった。


そのことに気づいて、場の騒ぎも自然と静まった。


「春野さん、どうされましたか?」


「ーーー」


そう心配を含めた声を掛けた朔刃の顔を一瞥しーーー春野は窓から外に飛び出した。


「春野さん!?」「「「春野!?」」」「春野ちゃん!?」


仲間のことも置き去りに、宙に浮いた春野は白色の魔力マナを纏うことで高度を無理に保ち、一気に加速した。


輝きの目的は、スタンダードにあった。



           2



事務所から取ってきた別のシルクハットを被り、春野は歩いてそこに向かっていた。


通行人から幾度となく呼び止められるが、それを拒否しただ一直線にーーー。


「‥‥‥よぉ」


「‥‥‥きっとここにいれば、君に会えるとは思っていたよ」


そう苦笑を返した人物ーーーゼットは、傷をなくした体をスーツで包み、市役所前のベンチで腰掛けていた。


腰掛けたままでいるゼットと体を向け合う形で春野は口を開いた。


「無事に、バレずに済んだようだな」


「‥‥‥あぁ、君のお陰でね」


そう言って笑みを浮かべる顔を小さく反らしたゼットは過去ーーー二日前の激戦を思い出した。



光線は、意志が続く限り止まることは知らない。


上空では作り上げられる熱球の輝きが戦場を照らす中、春野とゼットは必殺技、その激突を止めない。


勢いはどちらも譲らない。これ以上の火力はない。ーーーなら。


「ァ、あああーーーーッッ!!」


「なっ!?」


光線の束として放たれていた輝きの全てを《大剣》に宿し、直後、春野は目前となった衝撃波を一閃、掻き消した。


そして、ー斬。


「ーー‥‥‥私の、負けか」


そう呟いたゼットは、その口端と削られた胸板に刻まれた深傷から血をこぼし、膝をついた。


「‥‥‥」


「‥‥‥‥川尻春野、私を殺すといい」


背中合わせに存在する二人、その一人であるゼットはそう勧誘を、否、願った。


どうか、その虹色に輝く《大剣》でどうか、自分の首をーーー。


そう願うゼットが背後から浴びたのは斬撃でも光線でもない。ーーー治療術だ。


「な」


声を漏らし、ゼットは自身に治療術を掛けてくる春野に俯けていた顔を向けた。そこで、気付いた。


ーーー体が、最低限動くようになっている。


「‥‥‥春野」


「‥‥‥今は、逃げろ。後で、色々話をしてもらう」


そう言い残し、春野は輝きとなって膨れる熱量に向けて飛び込んだ。



ーーーその姿を最後に思い出し、時は元に戻る。



「あれから、必死に逃げたよ。幸い、人の姿に戻れた私は『負傷者』として治療を受けることができた。これも、君のおかげだ」


そう言って、ゼットは春野に頭を下げた。そこには、魔王軍第一幹部としての面影はなかった。


「ありがとう、春野。君に、感謝を」


そして、ゆっくりと頭を上げたゼットと向き合い、しばらく互いに黙り込んでいたが。


「春野、約束は果たそう。私が持つ魔王軍の情報を」


「あれ、テキトウに言っただけだぞ」


そうついた告げられた言葉にゼットは目を見開いた。ゼットは立ち上がり、春野の両肩を掴んだ。


「春野‥‥」


「あのときは時間がなかったからな‥‥お前を納得させるための言葉だ、アレは。だから、別に無理して言わなくいいぜ」


答えて、春野は口端を上げて笑いかけた。


それにしばらくゼットは言葉もなかったようであったが、すぐにゼットは苦笑を浮かべて『真実』を告げた。


「君こそ、私のことを心配してくれなくても大丈夫だよ。ーーー何しろ、今の私は幹部でも側近でもないからね」


「‥‥‥は?」


今度は春野が瞠目し、口を半開けたままでゼットの顔を見据えた。


それに答えるようにゼットはスーツのボタンを外し、己の胸板を見せつけた。そこには鱗の跡のようなものは残っていたが、あの怪しく輝いていた魔法陣はその身から消え去っていた。


「私のが魔王軍の上層部である証、それが消えた。それはつまり私が魔王軍から解雇されたということだ」


「‥‥‥それがなくなったら死ぬとかじゃなくてよかったな」


「そうだな。少々魔素の取り込みが厳しくなるだろうがな」


そう言って、ゼットはあの微笑を春野に向けた。


「いずれにせよ、私は『約束』を果たさなければならない。故に、全てを語ろう。‥‥とは言っても、君たち人類側が欲しがるような情報はほとんどないがね」



「ーーーと言ったものだ。先も行ったとおり私はもう魔王軍ではない上に『約束』を果たすために、全てをさらけけ出したつもりだ。ただ、魔王様は情報管理に厳しいお方だったのだ。ーーー私のような不要者を、防ぐために」


失望したかのように息を吐き、ゼットは両手を小さく上げた。


「済まないね、春野‥‥‥君のために、有力な情報を伝えたかったのだが‥‥」


「‥‥そもそも、これ以上魔王軍(あいつら)と関わりを持とうとは思わねぇよ。気にすんな」


「‥‥‥フッ」


「何だ、悪いか?」


「いや?ただ、そんな君を見て安心しただけだ」


ペッ、とそれを聞いた春野はゼットから顔を背けてつばを吐き捨てた。


ふっ、とそんな春野の悪態を見て、ゼットは息を抜くような笑みを浮かべた。


ずいぶんと、元の胡散臭さを付け直し始めたゼットに、鋭い視線とシワを刻み込んだ厳顔を向けたが、彼の事を案ずるように片目だけを向けて。


「‥‥で?これからどうするんだ」


「‥‥そうだね。しばらくは山の奥底にでも住むことにするが、時々この街にーーいや、君に合うために来ることとしよう」


ベンチに腰掛けていたその体を上げ、ゼットはその体で大通りを歩き始めた。その背を、春野はあえて追うことはしなかった。


歩く途中で、ゼットは体は先に向けたままで顔だけを見守る春野ーーー否、春野という名の友に向けて。


「また会おう、友よ」


「あぁ、あばよ」


満足げに笑みを浮かべ、ゼットは今度こそ街を去った。その背には、名残りの一つも感じさせなかった。



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