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第二章 それぞれの動き

            1


「‥‥‥ァ」


かすれ消えたため息をつき、いつも外出時に被る帽子を被り、右手には銀製のバックを持って、春野はいつものロングコートを纏った背にどこか気だるさを宿して玄関に向かう。


「ーー春野さん」


その背に声を掛け、見送る人物が一人いた。


一瞬、背後からの声を受けて春野は振り返らずにそのまま出ようか悩んだが、口の中にある奥歯を一度鳴らしてから振り返った。


「‥‥‥‥‥本当に、行かれるのですか?」


「‥‥朔刃。お前がどう言おうがどう説得しようが、俺は行かねぇといけねぇ」


きっと、そう言われるのだろう。そう前々から思っていた朔刃は顎を引き、悲しげに目を細める。


きっと、言わねばならないのだろう。そう前々から思っていた春野は肩を落とし、長々とため息をついた。


そして春野は、わずかに身を縮めた朔刃の前で膝をつき、両手同士で揉み合っている彼女の両手を両手で握った。


それを受けて、朔刃は一瞬小さく驚きを隠せずにいたが、すぐに悲しげなものへと戻る。


その彼女の手を握り続け、無の言葉で説得する春野。


ーー朔刃は、上目遣いで想い人の顔を見上げて。


「私のこと、好きですか?」



ーーーそれが、彼が出ていく前の最後の言葉だった。



口約束通り、ゼットは市役所前に設置されたベンチに腰掛けていた。


平均的な大きさとは少し違く、大きい影ーーーつまり俺が自身に近づいていることに気づいたゼットは、両手に広げて読んでいた新聞を手慣れた手つき折りたたみ、それを膝元に置いてからどこか誇らしげに笑みを浮かべた。


「やはり、来てくれたか」


「‥‥‥うるせぇ」


ため息と共に嫌々とした表情を浮かべて、俺はあえてゼットの横に腰を下ろした。それにゼットはその笑みを絶やさずに、むしろ深めて。


「‥‥‥少しは信じてやる、という意味として捉えてもいいのかね?」


「ーーー話を始めろ」


ゼットから顔を背け、口に咥えたタバコに春野は火をつけた。そこで視線だけをゼットに向けてみれば、どこかで買ったのだろうその手にある缶コーヒー、そのプルタブを指先で弾き、ゼットは物静かにその中身を飲んでいた。


俺の口元からタバコの煙がたなびき、その隣では幽かに啜る音が長く響き渡る。


今、俺とゼットがいる市役所周りには、人気が少なかった。


日頃はこの市役所にはクエストを受けに来たり、そのクエストにを出しに来る人間が、ベルに誘われた羊のように来るのだが、何故か今日は全くそれらの人が来ない。


「‥‥‥お前、なんか結界でも張ってんのか?」


「む。流石は《根絶者イレイスジャー》、どうやら勘も鋭いようだな」


「《根絶者》、だと?」


返答の前に新たに生まれた謎に俺は思わず眉間にシワを寄せ、目を細めた。


「君が魔王軍われわれの中で呼ばれている異名だ。スタンダード内での抗争、国の上層部との激突、そして魔王軍の兵士の虐殺、更には『神話の鎧』と第二幹部インフィンテを倒したことで、戦いの相手となったものを何であろうと根絶するその凶悪さからつけられている」


「‥‥《根絶者》」


いい面の皮のように感じるこの異名だが、実際はただの悪名以外の何者でもない。


「‥‥‥気に障ったかね?」


「思い出のねぇ奴らなんかにどうのこうの言われようが、俺の知ったことじゃない」


「なるほど、立派な考えだ」


満足げにうなずき、ゼットは空となった缶コーヒーの底を下から見上げる。


「私も第一幹部、側近の他にも自ら《死行人しこうにん》などと名乗っているが、どうしたものかなかなか広まらんのだ」


「おい幹部、俺はそんな話をしに来たんじゃねぇ」


「‥‥‥‥」


ゼットは不満げにため息をつき、春野を真横から見据えた。


ーーー話す気になったということだ。


「‥‥‥魔王軍は、元々は《破壊神》の力を得るために結成された集団であった。


「‥‥《破壊神》だと?」


            2


ーーー時は遥か昔、数千年前へと遡る。


「ギガ・ブレイズ!」「フル・フリーザー!」「アル・ライトボルトーーー!!」


炎の渦の中心に建設されていた石城の上から、ローブを纏った魔道士たちは立て続けに迫りくる『破壊』の穴に向けて最上位魔法、もしくは鎧を纏った兵士たちが砲台から岩弾を投擲していた。


だが、迫る『破壊』の穴は『無』ーーー『無』に還す『無』。引かれる全ての『有』は穴の中で削ぎ落とされ、砕かれた。


「まずいぞ、城に激突する!!」


「総員退避!退避ーーー!!」


「だ、だがーー」


「うるせぇ!早く逃げねぇと死ぬぞ!」


絶叫と悲鳴がれんさてきに上がり、それぞれが駆け足で、もしくは窓か屋上から飛び降りて、『無』の激突を逃れた。


激突を受けた石城は、瓦礫のひとつも飛び散らかせることはなく、ただ『無』が通過したのだという跡だけを残した。


「城が‥‥‥」


支えの大部分を失った石城は、数瞬耐え凌いだだけで直後、大規模な轟音を立てて崩壊した。


ーーーそして、瓦礫の山と化した石城の奥から、橙色の破壊術が連鎖的に彼らの元へ飛び込んできた。


「ぎゃあああああああああ!!!」


それらの直撃を受けて、外に避難していた魔道士や兵士の体が爆裂四散、瞬時に消滅する。


魔道士らが即席で張った結界をものとせずに打ち破り、地に突き刺さるそれは辺りを丸ごと膨れる爆炎で呑み込み、吹き飛ばした。


仲間の体を崩し、溶かす炎の中で所々では呻きを上げながらもその流血する顔を持ち上げるものがいた。


その目前に、通常の人体を大いに超える三つの人型兵器ーーーそして、それらをまとめる、赤黒いマントを纏う八つの剛腕を持つ人、否、人型の《破壊神》が降り立った。


その肉体は、たしかに白髪の伸びた老爺の体だ。ーーただ、その顔に赤黒い目と瞳が四つなければの話ではあるが。


その八つある腕を組み、《破壊神》はその荒れ果てた大地に伏す者たちを見下ろし。


「‥‥‥もう少し本気で戦うべきであったわ。おかげでこの『世界』に存在する国家を滅ぼすのに

一年がかかったではないか」


「ーーーっ」


その言葉は決して軽いものではない。


今、この『世界』には二十という国家が存在する。《破壊神》が攻めてくるまでは、その大国同士で戦争を幾度となく繰り返し、何年何十年と戦争を続けても勝敗が決まらないほどであった。ーーーそれを。


《破壊神》は自身の背後にいた三体の人型兵器に声掛け、それぞれ散ることを命令する。三体の兵器がのそのそと重い鉄鋼の体、そこにつく足を動かし、その場を後にする。


それを確認したところで《破壊神》は燃え盛る荒れ地の上で呻き血を流す者たちの顔を覗き込む。


「終わりにするか?人間。お前たちの抵抗は粗末なものではあったが見事であった。ーーー一刻にしてこの世を塵に返そう」


「ーーォオ!!」


宣告の元から右腹、そこから横薙ぎの斬撃が飛び込んだ。


銀と炎に輝く剣身を握りしめたその青年の斬撃を拳で弾き、《破壊神》はのっそりと体を青年に向けた。


「‥‥ほう、やるというのか?人間」


「‥‥‥‥」


体をを血に染め、焦がした白一色であったマントを纏い、先刻の打撃で半ばへし折れた剣を握る青年の騎士の姿が、そこにあった。


覚悟を決めた、その志と視線を受けて《破壊神》は組んでいた八つの剛腕の内二つの腕を解き、握りしめた拳を青年に向けた。


「ーーこい」


そう挑発したのは《破壊神》ではない、青年かれだ。瀕死の騎士だった。


それを受けて《破壊神》の表情は怪訝そうなものとなり、僅かに目が見開かれーーー高ぶりに凶笑を浮かべた。


猛咆哮を思うがままに轟かせ、前に踏み込んだ《破壊神》はその固めた剛拳を振るうた。その初撃に続くようにして放たれ続ける拳の連打ラッシュを青年はその手に握りしめる剣の鋼身に合わせることで受け流し、《破壊神》が生み出す隙を狙う。


「ーーーふむ。ただの拳では流されるか」


力もなく首を僅かに振り、《破壊神》は瞬間その拳を止めた。


ーーー代わりに、拳を解いて作り出し突き出した掌から放ったのは至高の光線だ。


輝きと爆炎を打ち込まれ、青年は無様に後方に吹き飛ばされ、荒れ地を転がった。


青年は打たれた腹部を押さえ、剣に荒れ地に突き立てて、支えとしながら。


「む。すまないな、少々感情に走ってしまったようだ」


「ぅぶ‥‥‥大人しく‥‥斬られ、やがれ‥‥」


「そんなあからさまに手を抜く戦いなど、興味はない」


血に溺れる青年に僅か申し訳無さそうに声を掛け、代わりに返された言葉に《破壊神》は目にはつまらな気を、口端には凶笑を浮かべた。


「終わりか?いや、終わりであろう?貴様ら人間は敗北したのだ。‥‥‥安心しろ、我に歯向かったといえど《最後の審判》にて地獄に落つるとは限らぬ」


「そんなことはいい‥‥‥だが、どうして神は‥‥‥『世界』を壊そうとするんだ!?なんで人間に懸けねぇんだよ!?」


「浅いな、人間。お前たちは知らなさすぎる。今やこの世は悪に侵食され汚れ切った、苦痛だけの『世界』。その世に再興をもたらすためだというのに‥‥‥貴様らのような言葉にを吐いたものは、他の世でも溢れていたわ」


「ーーーっ」


抗議を飛ばすよりも前に《破壊神》は風を纏って空に舞い、両手を大きく横に広げた。


ーーーそこ剛腕、体に巻き付くように十を超える至高の魔法陣が展開された。


橙色の輝きが魔法陣に宿り、《破壊神》の心臓部に輝きと熱、術式が人の領域ではたどり着けぬほどの全てが球となり、膨れ上がる。


「せめてもの慈悲とし、一瞬で終わらせてやろう!!ーーーー《最後の審判ファイナル・ジャッチメンツ》ッッ!!!」


体に纏わりついていた魔法陣は火球の奥底に移り宿り、《破壊神》は両手の内で凝縮した火球を握りしめーーー。


ピキッ。


「ーーー」


まるで、陶器を地に落としたかのように、《破壊神》の肉体に亀裂が走った。


突如のことに兵士や魔道士ら、そして青年が見開く中で、当の《破壊神》は之といった様子も見せず、ただ己に刻まれゆく亀裂を見つめていた。


自身のーーー否、宿った肉体に亀裂が刻まれたというのに。


「ぬぅ‥‥‥肉体ほんたいの寿命が果てたか

‥‥‥‥。人間共よ、お前たちからすると幸福なことであるかもしれぬが、これだけは言っておいてやろう。ーーー未来、後悔は無駄となり、再びやってくる」


次の瞬間、新たに刻まれた亀裂は決定的なものとなり、橙とは違う輝きに《破壊神》は包まれ、散った。



「《破壊神》は散り、兵器らは封印され夜は平和に‥‥‥それは本当だろうか」


そう思いにふけながら青年は、今は焼け野原となったーー《破壊神》の墓所として名を残すこととなったこの野原の中心で、夜空を見上げながら座り込んでいた。


《破壊神》が散ってから一ヶ月という日数が流れたその間、青年が入隊していた戦隊を褒め称える式典が王城で執り行われたり、各地方へ散っていた兵器の封印を行ったりと、戦いの後始末が急速に行われていた。ーーーその中で、この青年だけはそれを拭いきれていなかった。


確かに《破壊神》は散り、その姿は一ヶ月過ぎた今の間ではどこでも確認されていない。


ただ、あの時確かに青年は見た。《破壊神》が宿っていた体の内に溜め込まれていたかがやきが散り消えたのが。


もし、あの力が世界の何処かに残っていて、それが人の手に渡りでもしたらーーー。


「‥‥‥‥」


青年が戦隊の友人、その幾人を引き連れて王国から消え去ったのは、それからは間もないことだった。



「これが‥‥‥《破壊神》の力か!!」


ーーー出発から、一年の年月が流れた。


髪と髭をロクに手入れする暇も自身に与えずに捜索に費やした一団は、アンジギリスから遥か遠くに離れたところに聳え立って存在する岩山の奥底に、紫青の結晶ーーー《破壊神》の輝きがそこにあった。


青年はしゃがみ込み、それを手に取ってみる。


大きさ自体は卵一つほどのものだ。だが、その輝きの内から溢れる魔力と威圧のそれは軍の十どころではない。それを手に持つ青年だけでなく、引き連れてられた団員の全員がひるみ、悲鳴のような声を漏らした。


だが、我に返った青年はその結晶を持ってきた麻袋の中にしまう。


これを、王国の上層部にでも差し出せば、《破壊神》の力を隅々まで解読できるだろうーーー。



「‥‥‥聞けばただのいい集団じゃねぇかよ。ただの嘘っぱちにしか聞こえねぇぞ」


そして、時は現代に戻る。歯を剥き出して眉間にシワを寄せた顔で春野は向き合うゼットの顔を睨みつけた。


とても信じられないと言いたげな春野の表情にゼットは弱々しく首を横に振り、ゼットは遠い目をしながら話を再開した。


「‥‥確かに彼らはそれを手に入れ、王国に持ち帰った。ーーーだが、その後だ」


「‥‥‥」


「彼らは、それを横取りにしようとした大臣の一人を刺殺してしまったのだよ」


ーーーそれからの話は悲惨のものであった。


大臣を刺殺したことで一団は王国から追放を受け、その中の幾人かは処刑に科せられることとなった。追放された者たちは泥水を啜る生活を強いられた。始まったと言っても山中生活が始まってから二日せずに一団は瀕死の瀬戸際にまで追い込まれていた。団員のもだえ苦しむ姿に青年は覚悟を決めーーー《破壊神けっしょう》を己の内に取り込んだという。


その望まぬ力を得た青年はまずあちらこちらの街から強盗を始め、団員にもその溢れる力を与えた青年は、処刑されるはずであった仲間も連れて、共に逃避行を繰り返しながら王国軍と幾度も抗争を繰り広げた。


ーーーそして、その一団が魔王軍と呼ばれることとなりその青年が魔王と呼ばれることとなった。


「現二十三代目魔王様に至るまで、初代魔王様が持っていらしゃった《破壊神》の力は受け継がれていき、その力は絶えることを知らない」


「‥‥‥まさか、俺に宿る《破壊神》を狙ってスカウトしやがったのか?」


「それも現代様はお考えであるだろうが、本当の理由はそればかりではない。むしろ別だ」


「‥‥それじゃねぇってんなら余計分かんねぇ」


「ふむ。では、次はその理由を話そう」


空となった缶を横に置き、ゼットは新たな缶コーヒーを懐から取り出して一口のみ、一息ついてから。


「昨日行った通りだが、現代様は君のことを親愛から君が我軍に入ることを臨んでいられるのだが、それとさらにもう一つの理由がある」


「理由多いな、なんだってーー」


「ーーーー『初代』魔王様が、君と話をしたいという」


           3


ーーー。


ーーーー。


「‥‥‥‥あ?」


思わず、春野は表情を唖然としたものとし、思わず立ち上がってからゼットの肩を摑んだ。


「なんだってんだよ‥‥‥?魔王ってのは一番から全部生きていやがんのか!?」


「お、落ち着いてくれ‥‥!確かに私の言い方が悪かったが、万一といえど他社に聞かれる可能性がある」


「っ‥‥‥‥話せ」


「まず、歴代の魔王様についてだが、今この世に生きていられるのは初代様と現代様だけだ」


「‥‥‥んならなんで初代だけ」


両肩を春野に掴まれたままの状態で、ゼットは疲れを流すようにため息をつき、そむけた顔の中で、視線と言葉だけを春野に向けた。


「‥‥‥初代様は、特殊な方法で自ら結晶の中に閉じ込められた。その中で初代様は現代様にテレパシーのようなもので数少ないものではあるが命を下されている」


「‥‥その一つが、俺を呼べって事か」


「元々、君が我々の元へ来るのを拒絶するのと同じように、軍の内部でも君が入隊するのを拒む者は確かに幾分か存在していた。だが、魔王軍の代々からの掟として、"初代の命令は絶対"というものがある」


「‥‥‥よくそんな事を軍は受け入れてんな」


「先程も行ったとおりだが、初代様は命をくだされることが滅多にない。故に兵はそれらを受け入れている」


背けていた顔を再び春野に向け、ゼットは微笑をたたえた。


「質問は以上かね?」


「‥‥‥‥強いて言うならあと二つだ」


その質問を問う前に、春野は背を曲げて軽く前に突き出した両手の指先を絡ませてから、問うた。


「今のアンタの力があれば、《国の関係者あいつら》とも対面なりなんなりできるだろ」


「‥‥‥つまり、戦いを講和にて終わらせることはできないのか、と?ーーーそれは、現代様が許可されていない」


「今度は現代かよ‥‥‥初代はもう疲れてんじゃねぇのか?」


「ーーー掟の話をしよう。先程、"初代の命令は絶対"という事を話したと思うが、それには続きがある」


「‥‥‥なんだよ」


「"その命を通すには、現代の許可が必要となる"」


それに春野は怪訝を浮かべた顔つきとその口で問う。


「話が食い違うじゃねえかよ。なんだってわざわざーー」


言葉を春野が紡ぐより先に、ゼットが弱々しく答えた。


「初代様は軍の中では『尊重』となっている。魔王軍の中には私含めた初代時代からの人員や魔王軍に入隊したことで生活を続けられる者も存在する。『尊重』だけの存在であられる初代様には本来権力的力はないのだが、そのことを考えてその掟が作られた、という訳だ」


「‥‥‥今回のことは、"初代"と"現代"の意見が噛み合いやがったからこんなぶっ飛んだことができたって訳か」


「初代様も現代様も、君を迎えようとすることは本気だ。侮辱するのはやめた方がいい」


目前、向き合うゼットの顔と口から剣気が、それでいて諭し、心配を掛けるそれに春野も一度、押し黙る。


それにゼットはうなずき、またコーヒーを口に含んだ。


「あと一つは、何だね?」


「‥‥‥‥仮に、俺がお前らの所に入隊すればーーー戦いは終わる。その可能性はあるか?」


「ーーー」


その微笑を崩れさせ、ゼットは絶句した。


「‥‥‥君の仲間に対する想いは、伊達ではなかったのだな」


「あ?」


突然の言葉に春野は顔を顰めるように眉間と鼻周りにシワを寄せてゼットを見据えるが、当の本人はまた別の微笑を浮かべて。


「可能性は微弱なものではあるが、ある。現代様は初代様とは違い、君を親愛で迎えようとしている。故に、君が頼み込めば講和をお考えなさる可能性はある」


「‥‥‥」


「もしくは、君の仲間だけは見逃してほしい。それぐらいなら現代様も、快く受け入れてくれるとは私は思うがね」


まぁ、君の仲間も我々の所に入ってくれることのほうが有り難く一番なのだがね、とゼットは飲み終えた缶コーヒーを膝元に置き、山岳の方向に目を向けた。


「‥‥‥あっちに城があんのか?」


「察しがいいな。どことは言えないが、あの方角に存在する。ーーー私は魔王軍の幹部の中で唯一《側近》の銘をもらっているが、幹部の殆どは外で活動している。私ももう二年ほどは帰っていないから、どことなく恋しいのだ」


ーーーと、切ない音がゼットの腹部から短く響き渡った。


ふっと春野とゼットは互いの顔を見合わせ。


「鳴ったなぁ」


「鳴らしやがったな?」


瞬間、ゼットは苦笑を春野から背けて、春野はゼットから顰めた顔を背けた。



「大将さん、焼き鳥セット二つと焼酎二つお願いします」


「‥‥‥串かつセット」


店舗式の酒場で、ゼットと春野は厳つい顔の店主にそれぞれ異なる注文をする。


注文の品が届くまで、春野は受け皿を並べ、ゼットは二人が並ぶカウンターの所々においていた紅生姜を小皿の上に盛った。


店主から前菜として受け取った油揚げのひたしを、ゼットは紅生姜も合わせて食す。


「ーー今、君と私の周りには市役所のと同じ結界を張った。ここでも魔王軍われわれについての話はできる」


「‥‥いつの間にそんなことしやがったのかよ」


油断ならない男だ、と春野は眉間にシワを寄せた顔を小さく横に振った。


「‥‥‥裏社会を生きる君に、さらにその奥の世界で何が起きているのかを話そう」


「なんだよ、急にんな話をしやがって」


「ーーー今の魔王軍と王国軍の間の戦争は、ただの滅ぼし合いだ」


春野の言葉を後にし、ゼットはその悲痛に歪むその顔と視線を下に向け、その口から冷めついた声と言葉を吐いた。


二人だけの会話は店主や店員、他の客には聞こえていないはずだが、場の空気がゼットを源として肌のざわつくものとなった。


「我々も、王国も、ほとんど自ら交渉だのという考えは持っていない。いや、考えられない。互いに、決定打を見つけるしか考えはない」


「‥‥‥何が言いてぇ」


「ーーー近いうちに、国都は消滅する」


「な」


弾くように顔をゼットに向け、春野は歯を剥く。


その視界に映っていたのは、その瞳に悲しみと絶望を宿したゼットがあった。


魔王軍の中でも実質的トップ二の実力と位を持つゼットが、戦争を拒んでいるのだ。


「ーー君は、《神話の鎧》を倒しただろう」


「っ‥‥あ、あぁ」


「先の昔話にも行ったとおり、この世には《古代兵器》がわかってるだけでも三つ、そのうちの一つを君が破壊し、もう一つは不明、そして最後の一つは我々が回収した」


「‥‥は?」


「言っただろう?歴代の魔王様は《破壊神》の力を持つーーー《破壊神》を親とした《古代兵器》を配下に敷くことぐらい、簡単なことだ」


と、ゼットは懐から小さく丁寧に折られた一枚の紙を取り出し、それをカウンターに広げた。


その紙に載っていたのは、三つの姿だ。


一つ目は、春野が倒した《神話の鎧》。


二つ目は、頭部はなにか禍々しい液が内に詰め込まれたガラス製のカバー、足は針状の義足のような物、胴は鉄鋼で構成された兵器。


そして三つ目は、先の二つの倍の体格を持つゴーレムであった。鉄、氷、岩等の物質で形作られたそれは、鍛えられたのように作られた胴に対しては少々心細い太さの四肢が付けられており、その両肩にはひし形の結晶クリスタルが付けられ、そして、その兵器には頭がない。代わりに岩で作られた巨大な口のようなものがある。


「我々が回収したのは三つ目ーー《神話戦争》にて、《破壊神》に次ぐ被害を叩き出した《古代兵器》ーードレインゴーレムと、そう名付けられたものだ」



「ふむ‥‥‥うまいうまい。焼き鳥を食べるのも外食も久しぶりだからか、より味がうまいな」


「‥‥‥」 


雰囲気と時は変わり、差し出された焼き鳥を口に含んでゼットは舌鼓と言葉を叩く。


その横で、春野はただ黙々と串かつにソースを掛けては口に含んではを繰り返している。


紳士的な態度であったため食事もそれなりの品があるのだろうと思ったが、予想に反してもりもり食べている。


「大将さん、お代わり」


「ヘイ」


しかも、お代わりもしていた。


数本まとめてのセットの串かつを全て食べ終え、背もたれに掛けてからは春野は残っていたの前菜には手を付けず、そのままにしていたのでゼットが「いらないならもらうよ」とそれを手にとって口の中に搔き込んだ。


それを横目に春野は懐から財布を取り出し、金が足りるかを確認していると。


「‥‥‥春野、話の続きをしよう」


空となった前菜の受け皿を一瞬見下ろし、ゼットはその視界を横に座る春野に向け、声を掛けた。


「‥‥‥続き、ってのは《古代兵器》のことか?」


「それもあるが、別の話もある」


ゼットはまた取り出した解説図を広げはしたが、それをカウンターには置かず、春野と自分にだけ見せるように持ち上げた。


「我々が回収した《古代兵器ドレインゴーレム》、それが最も危険であり注意すべきであることは先刻話したとおりだが、今、魔王軍は《古代兵器》を主軸とした国都破壊計画を進めている」


馬鹿げたものの中の馬鹿げたものを見たかのように春野は面食らった表情を浮かべた。それを見つめたゼットは苦笑を浮かべた。


「いくら君といえど、魔王様は勿論さらなる《古代兵器》を倒そうだとかは考えたほうがいいだろう。ーーーだからこそ、国都が炎に包まれる前に、君は魔王軍に入った方がいい。世界は一つとなり、人類側が理の不利となる前に、君と君の仲間はね」


「‥‥‥」


「‥‥ふむ、まだ後押しが必要かね?なら、国都の消滅について」


「いや‥‥‥もういい」


顔を背け、春野は残りの焼酎を注ぎきり、一気にそれを口の中に流し込んだ。そんな春野を見てゼットは微笑を苦笑に変え、自身も残った焼酎を口に注いだ。


そのまま、無言の食事が続き、そしてーーー


「これだけは言っておこう。《古代兵器》で国都を吹き飛ばし、続けて影響力のある君たちが我々の軍に入ることは、講和へいわへと繋がる」



           4



「食べ終えたかね?」


「‥‥あぁ」


ゼットの呼び掛けに春野は空となった大皿を見下ろし、カウンター席を蹴って立ち上がった。


そのまま二人並ぶようにようにして春野とゼットは受付に向かった。


それぞれ美人受付人スタッフに言われた額を二人は同時に揃って財布を弾きーー。


「今回は奢ってやる」


「ーーー」


春野の口からこぼれるように飛んできた言葉に、ゼットは財布の中に突っ込んできた指先の動きを止め、それを見ていた目を隣でカウンターに札を並べる春野に向けた。そして、思わずゼットは微笑を浮かべた。


「多少は信用してくれたのかな?」


「‥‥無償の情報の、見返りだ」


それにゼットは眉を下げ、口をすぼめた顔で。


「‥‥‥王国のものにでも、情報あれを伝えるつもりなのかね?」


「勘違いするな。俺は《国の関係者》と組むつもりも伝えるつもりもねぇ」


顰めた顔を背け、舌打つ春野にゼットは首を振り、それから共に酒場の外に出た。


そのまま宛もなく行く先もない状態で二人がたどり着いたのは公園であった。


元々、ここはよく大人たちが世間話で花を咲かせている場所なのだが、今日は平日ということもあって誰もいない。


「よっせい」っと早足にゼットは遊具から離れた位置に置かれたベンチに腰を下ろし、その隣に春野も腰おろした。


その春野を見て、ゼットは頷くように首を振り。


「春野、今度は闘い話をしよう」


「‥‥‥まだ話があんのか?」


「君が、正しい判断をしてくれるようにね」


その時,春野とゼットの二人しかいなかった静寂な公園に、六人の子供が入ってきた。


全員、にこやかな笑顔でキャッキャと騒ぎ、男女関係なく楽しそうにしている。


その六人の内の一人がサッカーボールを持っているのを見るに、それをするつもりもなのだろう。


「微笑ましいね。この世にも、あのようにはしゃぐ子供がいるのだから」


「‥‥‥ガキはいいもんじゃねえ」


嫌なものを見た。とでもいいだけな顔を子供達から反らし、春野は長々とため息をついた。


それを見て、ゼットは怪訝そうな顔と口で。


「‥‥何か、理由があるのかね?」


「思い出したくもねぇ」


ーーーそんな二人の元に、六人の内の二人の子供が駆け寄ってきた。


「オジサンたちー、一緒にサッカーしようよー」


「‥‥‥。やりたく、ねぇんだよ」


冷たく、そして悲しげな春野の言葉と声にその二人の子供はしゅん、と身を縮ませるが。


「春野、この子たちと遊べば、もしかするとそれが治るかもしれないぞ」


「‥‥‥‥それを知らねぇ奴らはいいよな」


肩に手をのせてきたゼットの手を払い除け、春野は目を瞑って長々とため息をついた。



「っと、そら春野パスだ」


「‥‥‥」


ゼットがその長い足で蹴り渡してきたサッカーボールを胸元で受け止め、それを同じチームの子供の一人に同じように蹴り渡す。


この試合は、四人の子供対残りの子供と春野、ゼットの闘いとなっており、現在は春野たちの方が二点多く取っている。


今も、春野がうまいこと蹴り渡したボールがいい具合に子供の蹴りに当たって、また一点が加算された。


一点取られた方の子どもたちがネットからボールを回収する中、ゼットは春野の元へ歩み寄り。


「ーーー今、こうして子どもたちが楽しく遊んでいられるのも、王国のせいだ」


「あ?」


春野にしか聞こえない音量で、そうゼットは忌々しげに話した。


今までに見せなかった変化、様子、表情でゼットは春野に不理解の目を向けられる中、話を続けた。


「君は、新聞に載せられてある全ての事に目を通しているかね?」


「‥‥‥さらっとってぐらいにだがな」


「なら、【戦況報告】の事を思い出してほしい」


ーーー戦況報告。


確か、第一面の隅に載せられている欄の一つであり、最速で王国軍と魔王軍の戦略を伝えるものだ。


「あれに載せられていた『結果』の大半は、どう書かれている?」


「‥‥?書かれているも何も、王国の奴らが書かれているが」


「ーーーアレは、全てまやかしだ」


ゼットに向けて子供の一人が蹴り渡したボール、ゼットはその足に風を纏い、勢いに乗せて、振るうた。


音そのものが砕かれたかのような響音、それにコンマ遅れて弾き飛ばされたボールが一直線に、地を削ってゴールに突き刺さった。


まるで、否、本当に堪えられぬ怒りを込めたゼットの蹴撃キックに一瞬、子どもたちは呆然となるが、すぐに同チームの子供たちは大はしゃぎ、他の子供たちは悔しがっている様子を見せた。


ただ一人ーーー春野はゼットとその彼から出た蹴撃に目を見張っていた。


気を戦闘時より抜いていたとはいえ、今の春野にはその蹴撃は白光にしか見えなかった。


そして、おぼつかとなっていた意識は固まり、春野は冷静さを取り戻すかのようにゼットに質問を投げ掛ける。


「‥‥‥んでお前がそんなことを知っていやがる」


「‥‥勿論、私自ら戦っているということもあるのだが、それ以前に私はこの国の上層部の臣下を仮の姿としている」


ーーーまやかしは、3年生という年月より前から始まったという。


国都の東の方向にある地帯、アレキス攻防戦が事の始まりであった。


ゼットを頭とした魔王軍の精鋭部隊を相手に二十万という兵を率いた王国軍は大敗、地帯を魔王軍に占拠されたという。


その地帯が国都抹消計画の重要地となるのは、また別の話となる。


話は戻り、これまでの戦争の中でも歴史的な大敗を刻むこととなった王国側。王国軍の兵力、勢いは著しく現象し、その数は三割以上が葬られたとのことだ。


その歴史的な大敗は、国の上層部と国王の黙認によって消え去られ、代わりに誇張的な大勝報告が載せられることになった。


「これが、本当の真実だ」


「ーーー」


休憩を子供たちと共に取る春野は、隣に座るゼット型持ち上げた掌、そこから映し出された『映像』に、ただ押し黙った。


腹部を突き刺され、血と内臓を垂れ流す屍。顔の半分を斧で削り取られ、それにあった目と歯を飛び散られる半死の兵士。誰も、生きるものはいなくなった焼けつきた野原で転がる屍が蛆に侵食される図。ーーそれらは全て悲劇としか言いようがないが、それより問題なのが、それらの犠牲者、屍の中に、魔王軍の者が見当たらないのだ。


「見たとおり、今や王国軍はアレキス攻防戦の失態を引きずって敗戦を続けている。それでも、この国の上層部は失態を受け入れずにこの国の民を騙し続けている」


そのシワが深く刻まれる顔の内に隠された憤激に力がこもった掌で、浮かび上がらせた『映像』を握りつぶすかのように閉じ、ゼットはその鋭くなる視線を青空に向けた。


「国民は、何も知らぬままに滅びの道を歩まされる他の道に、平和の道があることを知らされずに」


その憤激が漏れる言葉とは逆に、ゼットはふっと微笑を浮かべ、春野の右肩に左手を置いた。


「決して魔王軍われわれの作り話とは思わないでほしい。これはただ、君にーーー正しい選択をされるためなのだから」



あれから小一時間の間子供たちとサッカーを続けていたが、六人の内の一人が転んで怪我を負ったことで終わりが告げられ、再び春野とゼットの周りに誰もいなくなった。


このまま公園にいるのもどうか、というゼットの提案により今二人は事務所近くにて立ち並ぶ露店の一路を歩いていた。


どこか呆れと疲れを宿した春野の視線を気にすることもなく、ゼットは目に止まった手当たりしだいの物を買っては口に詰め込んでいる。


それを食べているゼットの幸せそうな顔を見ると、どう考えてもあの憤激の顔があったとは思えないの。


「‥‥‥チッ」


そのゼットの姿を視認する視線の端で所々映り込む者ーーー薄汚い子供の姿を見て、春野は思わずその目を細め、舌打ちを鳴らした。


ここ数年の間でよく姿を見にするようになった、路地に済まざるを得ない子供たちだ。


いわゆるホームレスというやっだが、さらっと見たところ親らしき人物はいなさそうだった。


「ーーーあれも、犠牲者の一人だよ」


上目遣いでこちらを見てくる子供を鋭い目で見ていた春野は、そう横から声を掛けられた。


振り返れば、その手に持ち紙を掴んで小型のたい焼きを口に運んでいたゼットの姿があった。


「戦争が長引くということは、それだけ金が流されるということ」


「‥‥‥その分を国民の金で賄っているからな。当然の事だ」


そう考えた春野の言葉に、ゼットは無言で頷いた。


「数年前までは貧民街と称される街以外では無宿者は珍しかった。だが、今では都市、その繁栄街ですらその姿を見るようになった。ーー戦争の犠牲者は、いつでもその国民だ」


その子供に何かしてやることもなく、ゼットはその子に背を向けて歩き始めた。それに続くように春野もそこから立ち去る。


どことなく、脳裏の奥底にあの子供の顔が映り込むが、それを無視して歩き続けた。


「無宿者といえばそう、この街スタンダードは他の街では例を見ぬほどに老人の無宿者の自立率が高いのだそうだ。ーーーそれに、君が関わっていると聞いたのだがね?」


「ーーー」


ニコッとどこか卑しい笑みを浮かべたゼットから視線をそらし、春野は顰めた顔を下に向ける。


実際、そのことは間違っていない。ただ、ゼットの言い方にどこかカンに障るものがあった。


そして、背けたにも関わらずその春野の顔を覗き込み、ゼットは続けた。


「君と私は、似た者とは思わないかい?」


「‥‥‥んだと?」


「争いを常とする日々の中でも平和を望む。ーーそれだけだ」


自分で取り上げた話題、それを深掘りすることはせず、ただそう一言ゼットは残した。



「あんた、アタシの春野に変な事を訓えないで頂戴」



「あ?」


「ーーー‥‥‥」


そう背後から声を掛けられ、春野はその嫌に聞き慣れた声に眉間のシワを深め、ゼットは一瞬、憤激をその表情に横切らせたが、すぐに作り物の微笑みを後ろにその顔を向けた。


「いつの間に、我々の後を追っていたのですか?ラベスタント嬢」


「そんな薄っ面を作っても無駄よ。あんたみたいな異物、その人からさっさと離れなさい」


そう突き放すかのようなラベスタントの言葉、視線にゼットはその微笑を固め、そしてーーー憤怒隠し切れぬ厳しい表情で言った。


「正義ヅラを叩くのはやめてくれないか?盗み聞いたのだろうが、私は無下な戦いを続けさせる君ら上層部のことが嫌いだ。君こそ、純な春野かれを汚すのをやめてくれないだろうか?」


「お生憎ね。私は戦争のことには一切関与してないわよ。あんたなんかに憎まれ口を叩かれる理由も意味もないわ」


「‥‥‥」


押し黙られる春野を差し置いて、二人の間で怒りの険しさ、鋭さは増していく。


その怒りは激しく積み重なり、変質ーーー殺意となる。そして、それを不敵な笑みへと変換したゼットはラベスタントに。


「君の《吸血鬼ノ恩恵》は、体内に宿るマナを魔素としそれを爆発的に使用、更にはその魔素で吸血鬼が体内に持つ術式と同じものを貼ることであのデータを発揮できる。常に魔王様から魔素を吸収する私とではその差はしれているだろう。そんな君が私を倒そうというのかラベスタント嬢?」


「知ったかのような口を‥‥」


幸いというべきか、二人の間でほとばしる殺意の波動はゼットが作り上げた結界によって回りにいる人には届いていない。ただ、二人が何かしらで睨み合っているとしか思えないだろう。


二人の間に割り込み、無理矢理にでも止めさせるべきかーーーそう春野が動くよりも先に、事態は動いた。


「ッ!」


ラベスタントが右手を横に振るう。ーーラベスタント自身とゼットの周りに、移転術テレポートが展開されたのだ。


歯噛み、春野は一気に駆け出す。だが、どちらにもその手は届かない。


「ラベスタントッ、ゼットーー」


「心配しなくてもいい。君は、市役所前のベンチで待っていてくれ。ーーー少なくとも、彼女の命は保証する」


瞬間、二人の姿は天に向かって突き上がった青白い光に包まれ、存在を掻き消される。


ーーー春野かれの仲間が今の状況で戦い、傷つけられることは決して、あってはならないことであった。









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