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第一章 捻られたとしか思えない想い

            1


「ーーぐっ」


薄暗く、狭い空間の端で、吊り上げられた男の胸を浅く刃が突き刺さった。


男の下に溜まっている血の池に、新たな鮮血が混じる。


男に傷をつけたのは胸に突き刺さったナイフだけでない、ハンマー、電線、槍、それらがすべて床に転がり、血に染まっている。


そして、度々起こる看守の怒鳴りが、独房に響いていた。


「いい加減認めたらどうや!人に世話かけさせやがって!!」


バキッ 男の頬が看守の拳にヒビ入り、看守の拳も僅かに赤く腫れる。


それだけの拷問を受けながらも、男は余裕そうにーー否、看守の事を嘲るように笑った。


「だから、俺はやってねぇって言ってんだろうが。‥‥いい加減、そっちの方こそ話したらどうだ?ーー何か、隠すために俺を犯罪者扱いするってな」


「ーーッ!」


再び看守が、拳を振るった。



鎧ーーもとい【神話ノ鎧】によって破壊された国都、それも他の街の支援や活動によって復古し、先日、完全な復興を遂げたのだ。


‥‥その国都の端に潜むように存在している刑務所、そこに五人の少女が足を運んでいた。


『‥‥‥‥』


ここに何度、足を運んだであろうか。


うつむかせた頭の中で少女ーー朔刃はそう思い返した。


チラッと自分と共にここにやってきた仲間たちを見てみると、悲しげに顔をうつむかせたり、歯を食いしばっているものが殆どで、悲痛の表情を浮かべない人物はいなかった。


そんな彼女らの元に、一人の女刑事がやってくる。


ーーあのとき、を捕縛したあの。


「神華鏡朔刃さんですね?」


「‥‥はい」 


「現時刻をもって、彼は釈放となります。どうぞ彼の独房へ」


「ーーーッ!」


何が釈放だ。何が独房だ。何が懲役だ。


そんなもの、彼には必要なかった。


それをあの人が受けることはなかった、お前らの勝手であの人をこのブタ箱に打ち込んだだけなんだろ。


もし、裁判で勝っていなかったら、あの人をどうするつもりだった。


これから、あの人に対してどう謝罪するつもりだ。


降り積もる憤激をこらえ、朔刃は白蓮たちを置いて、怒りに燃えるその体で彼がいる独房に向かった。



床に埃が目立つ待ち合い室で、朔刃は彼の到着を待っていた。


彼女の中では、彼に会える喜びより、悲しみのほうが強かった。


先月の裁判が行われるまで何もできなかった自分と合って、あの人はどう思うだろうか。


嫌うかもしれない、いや、それどころか自分の存在すら無視してくるかもしれない。


怒り、不安、僅かに喜びの渦の中に、怯えが入り込んだ。


その時。


「おまたせしました、連れてきました」


「ーー!」


立ち上がり、朔刃は看守の後ろにいる人影に声を掛けた。


「春野さーー」


声が、止まった。


看守が横にズレ、後ろの人影ーー川尻春野が見せたその姿はなんと悲惨なことか。


愛用のロングコートが覗かせる手指は、打撲による腫れが隙間なくあり、愛しいあの顔は、所々腫れ上がり、あの視線は酷く弱々しく感じた。


「春野、さん‥‥‥‥春、野‥‥さん」


「‥‥‥」


「ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥」


僅かに歩み寄った春野の胸に顔を埋め、朔刃は思うがままに泣き散らかし、謝罪を続ける。


「ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥どうか、私を‥‥許して‥‥‥」


謝罪はただひたすらに、続けられた。



ーー春野が捕まってから、一年という年月が流れていたのだ。



梅雨が始まる一ヶ月前、朔刃が起こした裁判にて春野の無実を証明し、春野の釈放が決定した。


そして、今その春野がその刑務所唯一の出入り口へ向かっていた。


「‥‥‥‥」


その出入り口を管理する一人の男が春野の視線を受けて気圧されて、銀製のハンドルを回し始めた。


すると、正門が重い音を響かせて、ゆっくりと外への空間を開けた。


その外では、彼の部下ーー組員が十五名ほどが黒塗りのベンツの前で整列を取っていた。


「ーーチッ」


男は身近にいた警官に鋭い目で一瞥くれて、舌打つ。


『ーーーっ』


彼の近くにいた警官たちは首から背中にかけて鳥肌が立ち、役目も放棄してその場から逃げ出した。


前で待つ組員たちに背を向け、春野は刑務所の中に姿を消した警官たちの姿を見届け、口を閉じたまま、その中で歯を軋らせる。



ーー川尻春野は、この一年間で国の関係者に根強い復讐心を抱いていた。



            2


彼が元いた街、スタンダードは、この一年間でさらなる賑やかさを上げていた。


『英雄を生み出した街』として有名になり、彼が建てた店舗や事務所にはよく観光客が訪れた。


同時に、この街スタンダードは、夜になるとヤクザが活発化する時間帯でもある。 


彼らの活動場所は、大通りから店の中ーー特に、路地裏がよく集まる。


だが、その街に彼らが言う英雄が帰ったあと、拳怒組を除くヤクザの殆どか沈静化した。


その、人気がなくなった路地裏に。


「ぅ‥‥‥ぅう‥‥‥」


潰れた店が周りを囲むような狭い空き地で、一人の警官が暴行を受けていた。


力のままにろくに太陽の日も浴びない湿った地面に叩きつけられた警官は、ここに連れてこられる前から男に付けられた傷から血を流した。


「頼む‥‥‥やめてくれ‥‥‥やめて‥‥」


泥まみれになりながら、警官は蹲り、迫りくる男から視線をそらす。


男にとって、この警官は認識があるーーそれどころか、顔馴染みがあると言えるほどまでにあった。


最も、互いに親しみがあるかと言われたら話は別だが。


「‥‥‥お前‥‥警官にこんなことして‥‥‥どうなるのかわかってるのか‥‥?」


直後、薄汚い路地裏で派手に血が吹き上がった。


『関係者以外、入るべからず』と書かれた看板に体を叩きつけられた警官は、自身が折った看板の下で背骨を押さえる。


折れたか、もしくはヒビが入ったかとその様子を見下す男は考える。


「お前‥‥‥俺にしたことを反省してねぇんだろ?」


眉間に深いシワを寄せた男は、崩れる警官のもとに歩み寄る。


「ぁ‥‥‥ぅあ」


「ぁらァあああああ!!」


弱々しく、それでも持ち上げたその顔に、男は蹴りを叩きつけた。


その口から血に混じって、砕けた歯が辺りに飛び散る。


「‥‥‥‥‥」


あの一年間で男に暴行を行っていた警官は、白目を剥いて、動くことを許されなかった。


「‥‥せめて、あの一年間であんなことをしてなかったら、こうもいかなかっただろうな」


革靴についた血糊を泥でかき消し、春野はそのコートから取り出した小刀ドスを取り出し、警官の指にその刃を当てた。



春野が街に帰ってから本格的に敵に回し始めたのは警官だけでない。


「オラァアッ!!」


「ぶぁあぁ!?」


春野が振るい放った拳は、流血していた男の血を舞いらせ、その顔の内側の骨を砕いていた。


砕け、ゆるくなった鼻の奥から鮮血が蛇口のように流れ出てくる。


ーー二人の周りには、その男のように顔や腹部から血を流し続け、ついに気を失った奴らが地面に転がっていた。


「ま‥‥‥待って、くれ‥‥‥‥」


自身の元に歩み寄ろうとした春野を、力なく、弱々しい上げた手で制止した。


「け、懸賞金を‥‥狙おうとしたのは、謝る‥‥

‥‥だから‥‥見逃してくれ‥‥‥っ!」


「‥‥‥‥」


「昔‥‥俺らのように、お前の懸賞金を狙おうとして、失敗したやつが‥‥言ってた‥‥っ!『川尻春野は、人の命は取らない‥‥‥情のある、奴だった』ってーー」


「それを貫いていたのは、刑務所(ムショ)に入る前だ」


必死に、生きる道を言葉で探し出そうとする男に告げられたのは、無情ーー彼が心を失くした証だ。


痛みに、起き上がることすら許されない男ーーー絶望を目の当たりにしたその頭に向けて右足を上げーーー勢いのままに下ろした



この街に帰ってみたら、俺の懸賞金ねうちは爆上がりしていた。


おそらく、国都での戦いが新聞なり何なりで大きく載せられたことで、俺の価値が跳ね上げられたのだろう。


今までは自分の周りや敵の組の上部でしか俺の実力は広がっていなかったが、今では街の住民は勿論、裏社会の組員や、他の街にも波紋的に広がることになった。


ーーー実の話、俺のしてきていることが悪く広げられるだけだから、やめてほしい所だ。


しかも、この街のヤクザだけじゃなくて、あの『商賊』のまとめ役のような奴から他の街のヤクザまで様々な方法、時間で襲ってくるようにもなった。


ーー最も、そいつらは返り討ちに合ってまた俺が風評被害を食らうだけで終わることになるが。



‥‥‥いつの日か周りにいた仲間たちも、俺の側から離れるようになった。



元々下の階級にいた覇武や賦巳などの組員は、俺の事を完全に敬遠‥‥いや、距離を取るようになり、希石たちも以前と比べると、優しくで接している気がする。


きっと、精神が安定しない俺の気持ちを察してくれたのだと思う。


ーーその中でも、特にと言える奴が俺の側にいるやつもいる。


「明日は焼肉屋に肉を卸しに行く日か‥‥‥」


グラスに注いだハイボールをちびちびと飲みながら、俺はあの一年間で経営が悪化した店舗の現在の状況をまとめた資料を見ていた。


前のように、暇が生まれていた時間は復讐に潰し、早朝まで組の店舗と他のグループが抱える問題を解決させるための案づくりに勤しんでいる。


無論、その点に関しては希石たちは俺に休むように促すが、それを受け入れる気はない。


たとえ世間からみては悪そのもののように見えれようが、少なくとも、『仲間』に尽くすことは変わらない。


‥‥‥すると、キッチンの方から小さな足音が聞こえてきた。


一度、走らせていたペンを机に置き、俺は迫る足音の方向に目を向けた。


「‥‥お疲れ、さまです」


そう、どこか怯えを感じる労いの声を掛けたのは、軽食を持ってきた朔刃であった。


「ご飯、置いときますね‥‥‥」


「ありがとよ」


「‥‥‥‥‥」


何故か、朔刃はそのままリビングを出ずに、俺の顔と指先をずっと見続ける。


俯く顔は当然のこと、その内心と表情は分かりしれない。


「春野さん‥‥‥もう、やめてください‥‥」


「‥‥‥何がだ?」


「ッ本当はわかっているんでしょう!?」


時は既に深夜、ろくにランプもつけずにリビングでハイボールを嗜んでいた俺に、側に付いていた朔刃が胸に掴みかかった。


「どうしてそんな人になったんですか!? 春野さんは仲間の事を第一に考えて、誰でも優しくて‥‥‥なのにどうしてそんな後先見ずに自分を捨てるような人になったんですか!!」


「うるせぇ!!」


「ーーーッ」


俺が上げた怒号に朔刃は身を引き、小さく悲鳴のような声を漏らした。


「‥‥お前がこのまま俺の気持ちをわからずにいんならーーもう話しかけないでくれ」


「‥‥‥‥‥明日のご飯のための食材、買ってきますね‥‥‥‥」


こちらを睨みつけるその目に涙を溢れさせ、朔刃は早足にその場を去った。



「久しぶりっすね。春野ハンが酒場に誘うだなんて」


「少し、気晴らしにな」


玄関で厚めの革靴を履き、春野は扉のすぐ側に付けられたスイッチで事務所内のランプを消した。


前はよく春野が深夜に誰かを誘って酒場で呑んでいたのだが、こうして再び誘うのは実に一年半ぶりであった。


きっと、何かがあったのだろうと賦巳は思った。


「ーーー?」


ふと、明後日の方向に顔と視線を向けた春野の顔を見てみれば、賦巳はその鋭い目に宿っていた力が、どこか消え去っているように感じた。


「‥‥春野ハン。こういうことを聞くのもなんですけど‥‥何か、嫌な事が?」


瞬後、明後日の方向に向けられていた春野の視線がギロリと賦巳に向けられた。


それを受けて、賦巳はビクッと怖気づくが。


「‥‥ま、弟子名乗ってんだけあるなら、気づくよな」


苦笑を浮かべた春野の顔を見て、賦巳は金縛りに似たものから開放された。


それから春野はコートの中からタバコを取り出しながら。


「少し精神が安定してないからな、それで朔刃と短い口喧嘩になったんだ」


「あ‥‥姐さんと‥‥‥」


春野自身も、彼女が怒る所をまともに見たことがないというのに、賦巳たちのような位にいるものからすれば、あり得ないどころの話ではないだろう。


「どうも、あいつに俺のあの想いは考えられなかったようだ」


「‥‥春野ハン。前々から気にはなっていたんですけど、その想いってーー」


「そいつは店に入ってからだ」


会話を伸ばしている内に、馴染みのある移動式のおでん屋についた春野と賦巳は、年取った店長から言葉を掛けられることもなく、そのまま席についた。


「大将、適当に作って出してくれ」


「‥‥へい」


春野の言葉に店長は、だしが溢れんばかりに入れられた鍋の中に入れられた具材を、所々ヒビの入った皿の上に盛り付け始めた。


「‥‥‥春野ハン。」 


「ーー何だ」


問いを受けた春野が何気ないように返した中で、賦巳は隠していたことを告げるようにモゾモゾと小さく口を動かした。


「サツを真正面から敵に回すようなことして‥‥春野ハン大丈夫なのかと思いまして‥‥」


「‥‥‥‥お前は、俺の指示通りに動けば決して悪いようにはしねぇ」


俯く賦巳の前に、春野は懐のポケットに詰め込んであった財布からそれなりの厚さの札束を置いた。


ーーあの日、あの警官が派遣でこの街に来るというのは街のホームレスから聞いていた。


それで、賦巳にうまいことあの警官を路地裏に誘導させて、痛めつけた。


少し後先の事を考えていなかったかもしれないが、今はアイツに、アイツらに思い知らせればばよかった。


「もっともな話、これが初めてじゃないからな。」


ヤクザ同士で殺り合うことはあるも、警官とは戦う気はなかったこのスタンダードは、『英雄』が自ら先頭に立って警官を絞め上げる街に変貌していたのだ。


一度、事務所の方に複数人の警官が春野の事を拘束しに来たが春野はそれ真正面からを拒否し、その警官を殴り倒したことは、街中に広がっていた。


以降、街の警官は春野が関わる場所には彷徨なくなり、国都の方では一題問題として取り上げられている。


「‥‥‥いいか賦巳。俺がいた街でもそうだったが、世の中国の存続のために抹殺される奴がいくらでもいる。‥‥お前だってふとしたことがキッカケで抹殺されるかもしれねぇ」


「ちょ‥‥怖い冗談はやめてくださいよぉ‥‥」


「冗談なんかじゃねぇよ」


白髪が目立つ八十頃の店長が渡してきた味の染みた大根を箸で真っ二つに裂きながら、春野は続ける。


「お前たちは、俺に関わっているがせいで抹殺される可能性が十分にあるーーーだから俺は自ら先頭に立って国の関係者あいつらが送る警官どもに恐怖を植え付けてやってるんだ。」


「春野ハン‥‥‥」


春野が考え、隠していた想いを知り、賦巳は複雑そうにーーーでもその裏では小さく嬉しそうに呟いた。


「‥‥‥俺の弟子名乗んなら、師匠の気持ちぐらい知っとけ」


「‥‥‥‥‥」


これ以上何も言えず、賦巳はただ、皿に置かれたおでんの具材の数々を口に運んでいく春野の姿を

見続けることしかできなかった。


ーーその時。


「春野さん!!」


「あ?」


背の向こう側から飛び込んできた自分を呼ぶ声。


何だと春野は台の上に箸を置き、後ろに体を向けた。


ーー視線の先、汗を散らしながらこちらに駆ける覇武の姿があった。


「どうしたんや?お前も酒の飲みたくなったんか?しょーがあらへんなぁ、今回は俺が奢ってーーーーぶぇ?!」


勝手に話を始まる賦巳の頭を台の上に叩きつけ、軽口を叩き潰した所で春野は再び顔を覇武に向けた。


そこで気づいた。


「お前‥‥‥その傷はどうした!?」


肩で息をし、膝に手を置く覇武の姿は、痛々しいものだった。


いつも着るのを欠かせない黒いスーツは所々裂かれていて、そこから鮮血を流し続けている。


露出している手や顔は切り傷だけでなく、紫に染められた打撲が派手に大きく、そして目立っていた。


まさしく瀕死の状態、それでも覇武は息を整え、告げた。



「姐さんが、龍剛組の組員とその令嬢に襲われています‥‥‥!」



            3 


パァアンと、頬打つ音が人気のない大通りで響き渡り、朔刃はその打たれた頬を押さえながら、自分を囲む黒スーツの巨躯たちと、その後ろでやり取りを見物する金髪の少女を睨んだ。


「‥‥改めて聞きます、あなた方は何者ですか?」


「あんたには興味はないの。アタシが興味を出しているのはあの男ーーーこれ以上痛い目見たくなかったら、川尻春野の居場所を教えなさい」


「‥‥‥知らないですね。悲しいですけど、先程口喧嘩をしてしまったばっかりなので」


「‥‥そう、分かったわ」


金髪の少女は、その告げられた答えに何気ないように肩をすくめ、敵意をむき出し続ける朔刃の耳元で告げた。


「ーーーなら、あんたを更に痛めつければ、自ずと出てくるわよね」


「ーー!」


そして、少女に軽く肩を撫でられた黒服の巨躯は、懐からハンマーを取り出し、振り上げる。


その鎚の狙いは、朔刃の左肩。


命ではなく苦痛の延長を狙った一撃に目を瞑り、朔刃は瞬時に迫りくる痛みに歯を食いしばった。


ーーそして、黒服の巨躯は手の内で力を込めた鎚を振り下ろした。


 

ガギャアアアアァ!! 朔刃がその体を押し付けられていた店舗の屋根に突如飛び込んできた橙色の光線が突き刺さり、朔刃と彼女を囲む巨躯たちを狙うように、その瓦礫が降り注いだ。


巨躯たちは即座に後ろに下がれたが、壁に押し付けられていた朔刃にはそれができない。


迫る瓦礫を上に朔刃はしゃがみ込み、頭を抱えた。


その朔刃の元に白い影が飛び込み、朔刃を片手で抱きしめた影は上に向けて『ウォール』を展開、降り注いだ瓦礫をばじき飛ばした。


「‥‥‥‥?」


訪れない重量と痛み、そして飛び込んできた人影に朔刃は口を半開き、顔をふるふるとその人影に向けた。


「‥‥覇武に感謝しろ。あいつボロボロになりながらも俺のところまで駆けてきたんだからな」


「ーーー春野さん!!」


思わずその名を叫び、それを浴びた春野は朔刃を片手で抱いたまま、その状態で嘲るような顔をーーーだが、その向けられた顔の奥は、安心が込められている事を朔刃は感じ取った。


春野は笑みを浮かべていた表情を無にして。


「‥‥‥さて、と」


黒服たちを睨みつけ、一歩前に足を出した。


「龍剛組の奴らとは俺の部下から聞いているーー目的を聞こうか」


その春野の掛けた問いを無視し、黒服たちはそれぞれ武器、もしくは魔法を纏わせた両手をこちらに突き出した。


「‥‥‥会話する気は、ねぇか」


一発即発。


武器を構える黒服たちと拳を握る春野の間におどろおどろしい空気が生まれる。


ーーーその空気を破ったのは、他でもない黒服たちを連れた少女であった。


「待ちなさい、アタシの獲物はその男よ。本格的に抵抗でもしない限り、無駄な傷をつけるのはやめなさい」


『‥‥‥‥』


指示を受け、黒服たちはその手の内にあったものをしまい、横に並んだ。


それを満足げに見届け、少女は春野の前に歩み寄り。


「はじめましてね、川尻春野。アタシは龍剛組の組長を務めながら、《国の懐刀》でもある、ラベスタント=スペルチールスよ」


そう前に名乗り出た少女ーーラベスタントは、不敵な笑みを浮かべたのだった。



国の懐刀ーーーつまりは国の関係者。


それを理解した途端、春野は隠す気さらさらなく、不愉快そうに顔をしかめた。


「あら、そんな顔をされると少し心が傷つくわね」


「うるせぇやつだ、国のヤロー共は誰でも受け付けねぇよ。‥‥‥俺が狙いだとか何だとか言ってたな、目的は俺のたまか?それとも懸賞金か?」


「早く話を進めようとしてくれるなんて、ちょっと嬉しいわね。‥‥‥アタシの目的、それはーーー」


長く伸ばされたその金髪をさらりと撫で、少女は答えを告げた。



「アンタをアタシの物にするためよ」



「‥‥‥なんだと?」


春野はその眉間にさらに深めたシワを寄せ、歯を鳴らした。


ラベスタントはそれを受けても何事もなかったかのような表情で続ける。


「新聞で見たわよ、アンタが【神話ノ鎧】を倒したことは。」


「‥‥‥それがなんだってんだ」


「今、国は絶望的に軍勢を失っているわ。連続的に行われる魔王軍との戦いで、戦力を失っているの。‥‥‥それで、あなたを新たな戦力として王国軍に入隊させ、魔王軍の主戦力である幹部たちを倒してもらおうって話よ」


「‥‥‥‥」


「ま、アタシが単純にアンタ自身に興味を持ったっていうのも、理由の一つ何だけどね」


ウィンクを飛ばし、ラベスタントは一歩後ろに下がり、黒服たちに呼びかけた。


それを受け黒服たちは再び武器、もしくは魔法を持ち、ラベスタントは春野に問いかけた。


「さぁ、どうするのかしら?大人しくアタシの命令を聞くか、もしくは逆らうかーー」


「うるせぇ!!」


『ーーーーっ?!』


春野が上げた怒号に黒服たちだけでなく、その後ろにいた朔刃、そして余裕そうな態度を見せていたラベスタントですらビクつかせた。


「別にアンタの命令に乗ってやってもよかったーーーだが、仲間をに傷をつけたのだけは許さねぇぞ」


直後、地面に衝撃と亀裂を残し、朔刃を抱きかかえたま宙に舞った春野は、突き出した左拳から放った緑色の閃光を放ち、ラベスタントと黒服たちが立つ地面の中心に叩き込んだ。


黒服たちの反応遅く、地面を爆散させた緑の輝きが彼女らを包み込んだ。






川尻春野 破壊力「A」・スピード「A」・スタミナ「A」・攻撃距離「B」・知力「B」・魔力「A」・精神力「A」・防御力「A」・耐久力「A」・体力「A」

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