この極みで世界を救うⅡ プロローグ
1
荒々しい崖が並び立つ、谷の中。
誰の目にもつかず、あまりの不気味さに間違って入った人も思わず逃げ出すような谷の奥には、巨大な宮殿があり、その宮殿の一つの塔には一人の少女がいた。
膝まで届くほどの伸ばされたクリーム色に輝く長髪、人の心を見通すような赤い瞳、女優顔負けの長い美脚、細長い腕、そして美貌。
そんな彼女を一言で言い表すならーーー吸血鬼。
誰しもがそう思うであろう雰囲気と美貌を持ち合わせた少女は、髪を一人のメイドに梳かしてもらいながら新聞を読んでいた。
いつもどおり変わりのない日常を載せる新聞を読んでいて、長く縦に伸びるテーブルの上に投げ捨てようかと思いーーその時、一つのニュースに目が止まり、息が止まった。
「ーーココロ、こっちに来なさい」
止まっていたと知らないまま、再び呼吸を始め、少女は一人の側近の名を上げる。
瞬後。どこからかその姿を少女後ろから現した、顔貌が整った執事が少女に問う。
「お嬢様、どのようなご要件で?」
「ココロ、今すぐに国都に行ってきて、この男を連れてきなさい」
そう言い放った少女が指す写真には、一人の男が写っていた。
ガラが悪そうな顔つきに銀の髪、特徴的なロングコート。
「この男を、ですか」
少女は「そうよ」と答え、少しの間、目を閉じたあと。
「運命がアタシにつけた力が、この男を求めているわ」
「ーーー《融合》、ですか?」
「そういうことよ」
ウィンクを返した彼女へ深々と頭を下げ、空気に溶け込むように姿を消した執事を見届け、彼女は
今いる室内にいるメイド、執事に命令する。
「全戦闘員に呼びかけなさい、一ヶ月後ーー拳怒組の若頭を、アタシの物にするわよ」
そして、混じり合う《能力》ーー選ばれし者同士が、ぶつかり合う。