プロローグ 灼熱の転生
1
ーー地獄絵図。
今、その言葉はこの場が最もふさわしいだろう。
まだ建設中の高層ビルの屋上で、彼を含む組員が敵の交戦員と激戦を繰り広げていた。
戦いは始まりからすでに数時間が経過している。
今は夜空に浮かび上がる月の光と、ビルの屋上の上からスナイパーライフルで敵を狙撃する彼の部下が乗っているヘリコプターの光だけが頼りだ。
丸刈りの若頭が生き残りに呼びかけると、傷む部位を押さえながらも、三十人程が彼の周囲を取り囲む。
その大半は拳銃やスタンガン、ハンマーなどの一発でも当たったら致命傷になりかねない武器を持っている。
「やれ野郎共、俺らのシマは俺らで守んぞごらぁあああ!!」
敵の若頭の指示を引き金に、敵の組員が一斉に彼に襲いかかる。
凄まじい雄叫びが夜空に響き渡り、数の暴力が迫る。
「ーー」
彼は即座に最も自分に接近していた敵の腕を掴み上げ、その敵の肩の骨を強制的に外す。
その敵が持っていた鉄パイプを取り上げ、鉄パイプを頭上で豪快に台風を思わせるスピードで、他の敵を弾き飛ばす。
その弾かれた衝撃で敵の胴体ががら空きとなり、次の瞬間にはさらなる彼の一撃を受け、敵が一掃に鉄骨だけのビルから落下する。
弾き飛ばされた敵は絶叫を絶え間なく上げ、その絶叫が聞こえなくなった頃に肉が砕け散る音がわずかに下から響いてきた。
「おぉおおおおお!!」
気合いの入った咆哮と共に、残った敵の若頭が突っ込んできた。
「チッ!」
バックステップでその斬撃ーーーチェーンソーを躱すと、振り下ろされたチェーンソーが先程まで彼がいた鉄骨の部位に叩き込まれた。
先程の攻撃を躱したスキを突き、すぐに二撃、三撃目が繰り出される。
だが、彼はそれらの斬撃を軽い動作でで躱し、チェーンソーのエンジンが切れたところで、がら空きとなった敵の若頭の足を払う。
その勢いのまま若頭は足元の鉄骨に顔面を叩きつけ、光なきビルの下へと落下していった。
2
「お疲れさまでした、春野さん。」
「カチコミ、成功しましたね」
「あぁ、そうだな。デコ助(警察)が来る前にこっから撤退するぞ」
カチコミを終えたところで、こっちサイドの生き残りを確認し、応急処置を終えてビルにつけられている作業用のエレベーターに乗り、一階へ向かう。
「春野さん、明後日は組長ヘ上納金を納める日です」
「あぁ?まじかよ‥‥しゃあねえ明日京橋地方のミカジメ(ヤクザが飲食店などから取り立てる用心棒代の事)に行くぞ」
春野ーーーその名を持つ俺は、体に付けられた傷を隠すようにお気に入りのコートをバサッと音を立てて着こなす。
キーンとベルの音が短く響いたとほぼ同時、エレベーターの扉が開いた。
ーーピッピッピピッ
「あ?」
何かの起動音が聞こえたかと思うと、俺の後ろにいた部下が何かを叫ぶ。
俺は一瞬、何が起こったかと瞠目し、
ーー直後、地面を吹き飛ばす爆炎に身を包まれ、俺の体は消滅した。