らくがきの鈴と食傷
初めて見たのは眠い顔。
バランスのいびつな両の目で、閉じそうなその目と繋がった。
初めて嗅いだのは教室の匂い。
木目と表紙と下敷きと、さらに右手とペンと鼻息と、
その間に挟まれ僕は、その存在を幽かに感じ始めた。
初めて触れたのは呆けた空気。
いつの間にか聞こえる耳をもって、入ってくる声はピリピリ。
それにそぐわずだらだらの、空気を動かす手は温かい。
触れる毛先はくすぐったい。
初めて食べたのは苦い味。
何度もしつこくなぞるもんで、黒鉛の味が染み付いて。
もっと甘いのがいいのになあ。
わざとらしく叫ぼうと、飛び出した声の加速は弱い。
またそうこうして、ひげが生えた。
予定調和の順番で、歌うように描かれた僕。
消える。
消える。
唐突に迫りくる消しゴムに、僕の半分しかない全身がすっと青褪めた。
*****
初めて見たのは眠い顔。
バランスのいびつな両の目で、閉じそうなその目と繋がった。
消える。
唐突に迫りくる消しゴムに、視線すら追いつかないで。
黒と白のままで。
*****
初めて見たのは眠い顔。
バランスのいびつな両の目で、閉じそうなその目と繋がった。
それはもう嬉しくて。
名前を呼ぶ口もないままに、それでもありったけの視線を送った。
でも応えてくれやしない。
数秒の後、僕の方に白い壁が押し寄せてきて。
まっくらになっちゃった。
待っても、待っても、ついぞあの目は見れなかった。
*****
初めて見たのは眠い顔。
妙に整った両の目で、閉じそうなその目と繋がった。
初めて嗅いだのは教室の匂い。
木目と表紙と下敷きと、さらに右手とペンと鼻息と、
その間に挟まれ僕は、その存在を幽かに感じ始めた。
初めて触れたのは呆けた空気。
いつの間にか聞こえる耳をもって、入ってくる声はピリピリ。
それにそぐわずだらだらの、空気を動かす手は温かい。
触れる毛先はくすぐったい。
初めて食べたのは苦い味。
何度もしつこくなぞるもんで、黒鉛の味が染み付いて。
もっと甘いのがいいのになあ。
わざとらしく叫ぼうと、飛び出した声の加速は弱い。
またそうこうして、ひげが生えた。
狭い。
暗い。
僕の生きる紙ごとくしゃくしゃになって。
どうやらおんなじ境遇の溜まりに放り込まれたよう。
ひみつの不思議に頼ろうとも、僕の全身は半分しかない。
*****
初めて見たのは眠い顔。
バランスのいびつな両の目で、閉じそうなその目と繋がった。
どうも、瑪瑙です。
満足していただけたら嬉しいです。