プロローグ
人はなぜ生きるのか。
問いに対する答えは存在しえない。
この世界に生きる人の数だけ、生きる目的があるのだから。生きる目的が存在しない人などいない。死に恐怖する人ですら、死なない為に生きるのである。かくいう俺も死を避ける為だけに生きる一人に過ぎない。この世界を生き抜くのは余りにも厳しかった。生まれが上流階級であるか否かで人生が決定する。どのような一生を過ごすかを考えるのに社会階級は判断材料として申し分なかった。上流階級に生まれることが出来たならば、豪華絢爛な邸宅に住まい、食べきれぬほどの晩餐を毎晩口にし、誉れ高き職に就くことが出来たのだ。悲しくも上流階級に生まれることのできなかった臣民は、雨風を凌ぐ家も、飢えを和らげる食糧も、生活する為の仕事を手に入れるのに苦難を強いられる。強き者は笑い、弱き者が泣くのがこの王国の不文律なのである。しかしそれは、所詮は人社会でしか通用しない。世界には、人と比べるのが愚かしく思えるぐらいの絶対的な覇者が君臨する。名を魔獣と呼んだ。文明社会が誕生するより遥か昔、野獣が野を駆け、鳥が大空を支配した獣の時代より生物の王として頂に鎮座してきた。人類史最大の研究成果である魔法を駆使したとて、魔獣の一振りが野に生える草を刈り取るように幾多もの人を薙ぎ払い、亡者へと仕立てあげてくれる。自然界の頂点に立つことも出来ず、上流階級にすら生まれなかったオレができる唯一の抗いこそ、今日を生き延びること。それが俺の生きる目的だ。