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三条寧夢の観る創作  作者: 徳島静
一章「創作出会い編」
8/29

嫌われたくないのです

「でも努力の仕方……わかりません」


 努力したくないわけではないのです。

 面白いものを創る努力をすれば良いというのはわかります。


 ただ、そのための方法がわからないのです。


 学校の勉強には明確な正解と努力の方向性がありますが、創作はまったく違います。


 確かな正解も結果のための方法も、すべてがすべてあいまいなのです。


 なぜでしょうか?


 わたしはこう思います。

 面白いという言葉の持つ意味が宇宙より広いからです。


 例えばひとつの作品があるとします。

 三人の人がその作品に熱中しています。


 ハマっているのは同じ作品。けれども面白さの意味は三人とも違うと思われます。


 Aさんの好きなものは登場人物の掛け合いです。

 Bさんは熱いストーリーにわくわくする人でしょうか?

 CさんはBさんと同じ展開重視の人ですが、それよりも綿密な世界観や設定が好きだったりするかもしれません。


 同じようで違います。

 ささいな違いかもしれませんが、全然違います。


 だから面白さって難しくて、そしてそんな多様性が面白さの「面白さ」そのものであると言えるのです。


 複雑であいまいでまるで人の顔みたいです。


 瞳、輪郭、口角などなどひとつひとつの違いは小さくてもそれが重なることでひとりひとり全然違う顔が出来上がるのです。


 面白さも同じで向いている方向が同じでも見ている箇所が違ければ、それはもうまったく別のものになり得ると言えます。


「楽しく、面白いものを創る。それが正解だと思うんです。でも……努力の仕方がわからない。どうしたらいいの? どこをどう変えればいいの? どうやって、どんな風に……」


 考えるのです。

 わたしの中で、ちっぽけなわたしの心の中で。


 たくさんたくさんたくさんたくさん。


 考えたのです。


「たくさん考えました。どうやったら面白くなるんだろう。楽しくなれるんだろう。そんなことを考えていると頭がいっぱいになって……いつの間にか振り出しに戻ってしまうんです」

「でもうっすらとダメな部分はわかるだろ? 一番いいのは誰かに指摘してもらうことなんだろうけど……」



「友達はいませんっ!! 馬鹿にしているのですか!!」



「急に大声を出さないで欲しいでござるよニンニン!」

「あっごめんなさい」


 思わずかっとなってしまいました。

 いけませんね。ですがコミュ障に友達とか家族とか愛みたいなラッパー言葉を投げかけるのもいけないと思います。


 気を取り直してわたしは話します。


「それにその方法は気が進みません。わたしの面白いを嫌いって言われるのが……怖いですから」

 

 面白さは人によって変わると言いました。

 

 それは裏を返せば誰かの面白いは、誰かのつまらないになるかもしれないのです。


 スポーツが好きな人がいればわたしみたいに大嫌いな人もいます。

 わたしはライトノベルが好きです。けれど残念なことにあんなものは読む価値がないみたいに言う人も世の中にはいます。


 悪いことではないと思います。

 興味の向いている先が違うだけなので仕方の無いことです。


 人の容姿にそれぞれ好みがあることと同じです。同じ人でも見る人が変われば好き嫌いもきっと変わります。


 面白さの数だけ好きがあって。

 同時に嫌いもそこにある。


 好きには嫌いがつきまとうのです。


 主人公とヒロインみたいに、好きと嫌いは距離を取ることはあっても決して離れることはありません。


 誰かの好きは誰かの嫌いなのです。


「読者のことを考えると、不安になるんです。楽しくなくなるんです。こうした方が面白いのかな? こうした方が受けがいいのかな? 自分の楽しいから一歩離れて、修正しようとするときに、わたしの中でわたしが問いかけてくるんです」

「お前はなんて言ってくるんだ?」

「本当に楽しい? 本当に嫌われない? 自分を変えて嫌われるくらいなら、変わらなくていいのではないですか? そう、言ってきます」


 そこまできて、いつもめちゃくちゃになってしまうんです。


 嫌いだよっていう、どこにもいない誰のものでも無い――ただただ自分の声に惑わされてわからなくなるんです。


「そうして想像してしまうんです。つまらない、嫌い、楽しくない、間違っている。誰もそんなこと言っていないのに……そんな風にわたしの面白いが嫌われていくような景色が浮かんでしまうんです」


 そして何も変わらない。

 嫌です。


 夢をもらったはずなのに。

 大好きで始めたことのはずなのに。


 いつの間にか現実と同じで人の顔色ばかりうかがうようになっています。


 誰のためでもない。自分のために始めたことなのに。


 わたしはちょっとうつむきます。

 きっと悔しいとか悲しいとかそんな顔をしているから見られたくないのです。


 下を向いたまま、低くて嫌いな自分の声で話します。


「嫌われたくないです。だから考えないで思ったことを書いてしまいます。嫌いって言われたくなくて、いつも変われません」


 みんな、黙ってしまいました。

 遠くから聞こえる幼女さんの慟哭(どうこく)以外に音はありません。


 泣きそうでした。

 不甲斐ない自分のせいで、すごい話が創れない。


 とてもとても悔しいです。


「嫌いじゃないさ」

「えっ?」


 耳を疑いました。

 わたしは顔を上げます。


 そこには優しい顔をしたわたしの勇者さんがいます。

 僧侶さんも、サプライズニンジャさんたちも。


「細かいことは不明だが俺たちはお前の創ったキャラでここはそういう世界らしい。なら俺たちはお前の、三条寧夢の別人格みたいなものだろう?」

「ええ、まあ」


 似ても似つかない感じがしますが……

 特に勇者さんのこのグイグイくる感じはわたしにはないものです。


「自分のことを本当に嫌いなやつなんていないと思う。だから俺たちはこのめちゃくちゃな世界も嫌いじゃない。自分の世界だからな。だからさ」


 勇者さんは指を刺すと、高らかに宣言します。

 

「俺たちがお前の創作の手伝いをするよ。もっともっと面白い話が創れるように! もっともっとこの世界が良くなるように」


 予想外の提案にちょっと嬉しい気持ちが湧き出たのも束の間、わたしはぐっと言葉を呑みます。


 自分のことが嫌いな人も世の中にはいます。

 それはあなたの目の前にいるわたしなのですよ。


「ありがとう……ございます」


 けれどわたしはどうしても言えませんでした。

 

 感謝の言葉で誤魔化しました。

 わたしはわたしにすら嘘をつくのです。


 悲しい気持ちは自分にすら隠して、にやっと不器用に笑えたと思います。


「んんん゛ごががぎごああああぁ!!」


 その時幼女さんが絶叫して逃走したようです。

 ですがすぐに吐血して草原に倒れ込み、ぴくぴくとしか動かなくなります。


 若干引いている勇者さんがわたしに尋ねます。


「なんだあれ? 伝染病か何かにかかっている設定でも付加されてるのか?」

「定期的に心臓にカビが生えて苦しむ設定が活きているのですね……ふふっ」

「何でいま笑った!?」

「創作の前にカウンセリングが必要じゃない!?」


 うるさいですね。

 自分の創ったキャラクターが生き生きと動いているのです。微笑ましく思わない作者はいませんよ。


「我が子のようにすら思っていますよ。苦しむ幼女さんも……可愛いですね」

「よし、まずはアレだ。キャラ設定から考えていこうぜ」

「道徳の授業からやり直しでごさるなニンニン!」


 ぷちっと、そのデリカシーのない言葉でわたしの心に火がつきました。


 たかが創作のキャラクター風情が。

 作者のわたしが考えた最高のキャラクターに意見するつもりですか!!


 受けて立ちますよ! その挑戦!!


 もっといいキャラ立ちがあったら教えてください!

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