ちぐはぐです
というわけで、わたしは自分の書いたライトノベルの世界に迷い込み、冒頭の展開をひとしきりながめた後、こうして主人公の勇者さんに怒られています。
ちょっと受け入れがたい状況ですし、これどうやったら元の世界に帰れるのでしょうなどなど考えてみますが、
「そもそもお前は最低限の小説におけるノウハウを学んで書き始めたのか?」
「地の分の最初は空白をあける。その程度はわたしも理解しています」
「作者殿はその程度の知識でラノベを書こうと思ったのでござるなニンニン」
変な語尾の忍者に煽られるのはあまり良い気分ではありません。
誰ですかこんなキャラ考えたのは……わたしでした。
ですが創作に大切なのはルールだけではないと思います。
「ルールに縛られすぎるのはよくないと思います。わたしは書くのが楽しくて、楽しいものが書きたくてこのお話を書いています。それは登場人物のあなたたちもわかっていますよね?」
「じゃあ一個聞きたいんだけどさ。あいつの設定おかしくね? 明らかに楽しい作品じゃないよな?」
勇者さんは遠くを指差します。
その先には魔法使いさんになだめられ、押さえつけられながらも地獄の苦痛を味わう幼女さん(本作のロリ枠)がいらっしゃいます。獣のように泣き叫んでいます。
「それはあたしも聞きたかったわ。どうしてひとりだけ明らかに世界観が浮いているのかしら。あの子だけゴア描写満載のダークファンタジーから来たみたいになっているけれど」
はあ……僧侶さんは大人の女性なのにそんなことも分からないのですか?
わたしは至極当然といった表情で答えます。
「まあ、好きですし。欝展開」
「それだけの理由であんな仕打ちを幼子に科したのでござるかニンニン!?」
忍者さんの長が口元を抑えて震えます。
どうしたというのでしょうか? まわりの忍者さんたちも一様に引いていますが……
「えっ……現実ではないのですから、創作の登場人物はいくら苦しめても殺しても構いませんよね? 何か不都合でもありますか?」
「この子怖いわっ!」
「拙者たちもゆくゆくはエグイ殺され方をされてしまうのでござるかニンニン!?」
別にそんな予定はないのですが。
「まあ五億歩譲ってそこのサプライズニンジャたちが内臓をブチまけて死ぬのが当然としよう……でこの話ってそういう話だっけ?」
「いいえ、王道の剣と魔法の異世界転生ものですね。ラブコメの要素も加わるのでむしろ明るい話です」
「そこまで自分の作品を客観視できていてなぜあんな設定をブチ込んだ!?」
「えっ……好きですし。欝展開」
「振り出しに戻っちまったぞ」
あきれたといった感じの表情を浮かべられても困ります。
「楽しんで書いているのですからいいじゃないですか。わたしの小説にわたしの好きなものを盛り込むのはいけませんか?」
「いや、別に悪くはないんだけどさ……」
「ならいいじゃないですか! 欝要素があっても! 世界が核の炎に包まれても!」
「でもライトノベル作家になりたいんだろお前? だったらこんな駄作は駄目だよな。本屋に並んでたら焚書モノ案件だぜ。この話」
だ、ださ……く?
ふ、ふんしょ!!