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三条寧夢の観る創作  作者: 徳島静
一章「創作出会い編」
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自分の物語です

(しかしこれは面白いかもしれません)


 道行く人たちの物語を眺めながら、帰路につきます。


 老若男女、行き交う人すべてにそれぞれの物語があります。


 さながら四方八方にスクリーンのある映画館です。


 そこら中で何かが常に上映されている。そんな場所にいたらきっと誰でもワクワクします。


 けれど見かける物語のほとんどは夢とか妄想で、創作のような感じのものはひとつも見かけることができませんでした。


 どうしてそう言い切れるのか、と言いますと答えは簡単です。


 主人公が『当人』か否か。

 ただそれだけのことです。


 漫画や小説などのエンタメにおいて主人公が作者本人というものはきっと存在しないのではないでしょうか。


 もちろん自伝とかエッセイとか例外はありますが、作者が主役の創作物なんて楽しめるのは本当に当人だけになってしまうと思われます。


 だから作者はキャラクターを生み出し、多少の投影はあれど作者本人とは全く別の人間として描くのだと思います。


 そのままではきっと面白くないから。

 自分に出来ないことをやってもらいたいから。


 そんな土台があるから主人公はとびきり作者の思い入れが強くなるのでしょう。とびきり魅力的な人間が選ばれるのですから、創る本人では荷が重くなるのも当然です。


 もちろんそれすらも人によると思うのですが。


 とにかく人の物語を眺めていてぼんやり思ったのは、そんな主人公の違いです。主人公が自分の物語は創作ではなくて、妄想や夢なのだなとしみじみ思います。

 

 あっという間に一人暮しのアパートにたどり着きました。


 靴を脱いでリュックサックと上着をハンガーラックにひっかけ洗面所で手を洗うとアパートの中央に位置する机に向かいます。


「さて」


 わたしは机に置いてあるノートパソコンに向き合います。


 大学の課題のために買ってもらったものですが、大学の課題にはまだ使っていません。だって授業の選択もまだなのですから。

 

 これはわたしの個人的な趣味に使っています。


「書きますか」


 立ち上げて保存してあるワードファイルを開きます。

 そこには書きかけの文章が連なったまだまだ未完成の物語があります。


 わたしの書いているライトノベルです。


 ジャンルは転生ものの王道ファンタジーです。


 異世界転生した元サラリーマンが主人公で、勇者として囚われの姫を倒しに魔法城に向かうみたいな、よくあるやつです。


 可愛い女の子がたくさん出てくる話も好きなので主人公パーティはほとんど女の子にしてあります。


 黒髪の子、お姉さん系、普通の話も好きですがエグイのも大好きなのでひどい目にあってもらうキャラも用意しました。


 若干世界観とブレブレな感じのキャラクターですが、まだまだ書き始めです――ここからどうにかするのが作者の腕の見せ所ではないのでしょうか?

 

 といってもわたしはプロでも何でもなくただのアマチュア、書き始めたのもつい最近なので小説のルールや作法なんて右も左もわかっていません。


 それでも創作は楽しいです。


 だってここに書いてあるものはすべてわたしがつくったものですから。


 わたしの大好きなものがたくさん詰まったおもちゃ箱みたいなものですから、楽しいに決まっています。


 ああしよう、こうしよう、こんな展開が好きだから入れたい、こんなキャラクターが好きだから書きたい。始まりも終わりもすべて作者の思う通りです。


 要は世界中で一番わたしに向けられた創作物なのです。

 つまらないわけがないです。


「そういえばこの間SNSでサプライズニンジャ理論というものを見かけました。う~ん……冒頭がうまく書けているかわかりませんので、いっそその理論に従ってみましょうか!」


 物語冒頭はスピード感が大事といいます。

 主人子とその仲間たちの紹介はわかりやすく、最小限に、さあ旅が始まるぞというところでわたしはニンジャの大軍を魔王の部下として立ちはだかるという展開にしました。


 ですが――


「これは本当に面白いのでしょうか?」


 客観的に見るというのが大の苦手なわたしです。

 この小説はネットにあげたわけでもなく、ましてやまだ完成すらしていません。


 だから読者は作者のわたしだけです。

 わたしは面白そうだから、こうやったらいいんじゃないか、そう考えてライトノベルを書き始め、疑うこともなく面白いものが出来上がると考えていました。


 けれどそんな単純なものでもないのだと、薄々感づき始めています。


 ところで作家には執筆スタイルというものがあるといいます。

 執筆スタイルとはたくさん意味がありますが、ここでは小説を書く上でのお話の組み立て方のことで、モンハンで言う武器の選択を想像するのがわかりやすいです。


 自分にあった武器を選択することが、狩猟にも執筆にも必要だということです。


 そしてわたしの執筆スタイルは好きな場面をいくつか好きなように書いて、後からつなげていくパターンみたいです。


 モンハンでいうところの双剣でしょうか?

 手数だけは多い感じです。


 書きたい場面はするする書けます。

 でも始まりとか終わりとか場面を繋ぐ鎖みたいな場面のお話とかがすごくすごーく苦手なのです。


 ここ数日何度も何度も悩むのは冒頭です。

 

 どうやったらわかりやすくてインパクトがあってキャラの魅力を引き出せるんだろう?

 いろんなことを詰め込みすぎて何が何やらわからなくなってきます。


「そもそもニンジャの大群なんて出てきたら面白いに決まってます……直前の展開をそれよりも面白くするって……無理じゃないですか?」


 ああ、考えれば考えるほどわからなくなります。

 絶対に面白い話なんです! それは確信してます!

 だってわたしの面白いが全部ここにはあるんですから!

 

 でもでも書けないんです。

 こういうととりあえず書けばいいじゃん、という人がいるかもしれませんがそれでも書けないのです。


 何か参考にならないかと部屋にあるライトノベルや漫画を引っ張り出してきますが、どうにもしっくりときません。


「何か参考になるもの! 何か参考になるもの!」

 

 手あたり次第に探します。

 アニメや家具の説明書や、大学の買ったばかりの教科書やガイダンスの資料。


 そしてふとスマホで開いた動画サイトの『あなたへのおすすめ欄』を見てひらめきました。


「そうだ! わたしには世界中の物語を観る力があります!」


 おすすめで出てきた動画は人気女性声優の動画でした。


 どうやらわたしの力は映像を通しても有効になるらしく、女性声優の映像からは華やかな一面とは裏腹に何だか闇を感じさせる物語がかいまみえてきて……


「やっぱり現実はクソです!!」


 動画サイトを閉じました。

 うう……好きな声優さんだったのに。今度から変な目でしか見れなさそうです。

 

 他人の物語もダメ。

 自分の物語の参考になりそうにない。

 

 となるとあと考えられるのは。


「創作者の……物語?」


 そういえばおじさんにも頼まれていましたね。

 創作に関わる人の物語を観てほしいって。


 けれどそんな人どこにいるのでしょう?

 先ほどのように動画サイトを見てみたらよいのでしょうか?

 

 そもそも動画サイトに映るような有名な創作者の考えていることが果たしてわたしのようなコミュ障に理解できるのか? 理解できたとして自分の作品に生かせるのか?


「ん? 自分の作品?」


 そこでわたしは考えました。


 この力で自分を観たらどうなるのだろう、と。


「善は急げといいます」


 コミュ障は普段は行動力がありませんが、自分の欲望に対しては別です。軽自動車から錯乱してる時のぷいぷいなカーみたいになります。

 

 わたしはこの力で自分を観れば考えているお話の全体像が映像で見れるのではないかと考えます。

 あわよくばその映像を文字に起こすだけで物語が完成します!


 わたしはさっそく洗面所に向かい、鏡をじっと見つめてみます。


「何も見えません!」


 そして……何も変わらなかった。そんなナレーションが入ってしまいそうなくらい何も起きません。

 無駄にデカくて目つきの悪い女がにらんでいるだけです。


「ええい! 見せなさい! 力よ目覚めなさい! もっと! もっと力を!!」

「ドン!」

「ひゃあっ! すみませんすみません!」


 どうやら隣の部屋にまでわたしの奇声が届いていたようで嬉しくないほうの壁ドンをいただいてしまいました。

 恥ずかしくなったわたしは一瞬うつむいてもう一度鏡を見ると。


「俺は勇者! 魔王討伐に向けて旅をしている。 イカレタ仲間を紹介するぜ!」

「えっ?」


 どこかの草原です。晴れ渡る青い空の下、いかにも勇者といった感じの青年が叫んでいます。


「これって……もしかしてもしかすると」


 わたしはこの光景を世界中の誰よりもよく知っています。

 だってこれはわたしが自分で考えて、書いたものそのものなのですから。


 いつの間にか目の前でわたしのライトノベルが始まっていました。

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