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三条寧夢の観る創作  作者: 徳島静
一章「創作出会い編」
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コミュ障の大学入学です!

 事実は小説よりも奇なり。


 そんな言葉があるそうですが、わたしの場合は奇というよりもクレイジークレイジーと言いますか、クレイジストという感じです。


 クレイジーの最上級系。そんなものがあるかは知りませんがそんな感じでした。


「飲み会。新入生はただで〜す!」


 よくある大学の授業間における短い休み時間です。


 ほぼほぼ移動だけで終わるこの時間ですが、キャンパスは所狭しとサークルや体育会の方々でにぎわっています。


 色とりどりのユニフォームやら楽器やら、何に使うのか分からない器具を構えた方まで、多種多様な方々が道をふさぎます。


 必死な方々の熱意を横目に、愛想笑いを浮かべて通り過ぎることは、なんだか申し訳ない感じがして居心地が悪いです。


 ですが律儀に相手にするわけにもいきません。

 みなさん一様にギラギラした瞳で新入生を待ち構えているので、全員を相手にしていたら辟易としてしまいます。


 どこかで小耳に挟んだところ、春先のこの時期は毎年どこの大学もこんな感じなのだそうです。


 そうです。

 わたし――三条寧夢さんじょうねむは春から大学生になりました。


 大学生。

 子供の頃大学生というと、もうほぼ大人といった感じでキラキラしてみえたものです。


 ですがなってみたらなってみたで、今までの延長線上でしかないのかなとも思うのでした。


 人は簡単に変われませんし、何々デビューみたいなものとも無縁な人間です。


 だからそうなってしまうのも仕方のないことなのかもしれません。


「一緒に創作をしてみませんか?」


 声が聞こえます。

 ふと、勧誘ブースのひとつに目をひくものがありました。

 

 事務的な長机にいかにも文系といった方々が二人座られています。


 机には見本誌のような冊子がいくつかならべられており、それらは小説とか漫画とかでしたが、自作のものであるというのは一目でわかりました。

 

 いかにも文系な光景です。

 青々とした空の下、屋外で見る分には少し不思議な気がします。


 文芸サークルというものですね。


 きっとみんなで集まってお話ししたりしながら、楽しく創作をするサークルなのでしょう。


 いいなあ……と想うあこがれの気持ちが表情にもれてしまったでしょうか?


 女性のかたがわたしに向き直ります。


「そこのキレイ系なお姉さん。小説とか漫画とか創作に興味はありませんか?」

「あ……いえ」


 こういった声かけは苦手です。

 アドリブの効かない性格なので、どう対応したら良いのかわからないからです。


「じっと見てましたよね。うちのサークルは毎年新人賞に応募する人がいたり、同人イベントなんかにも参加します! すっごく有名な部員もいてですね。その方は商業でも活躍している方なんですよ」

「はあ……そうですか。確かに見てはいましたが」

「どうです? 興味ありませんか? 見学だけでも」


 女性の方がわたしの手を取ろうとしました。

 そこでもう、わたしは限界でした。

 コミュ障の脳はもはやオーバーヒートでした。


「……………………お断りします」

「あっ……すみません」


 小鹿こじかくらいなら殺せる。

 たぶん、そんな冷たい声を発していたと思います。


 何とも言えない気まずい空気が流れてしまいます。

 耐えきれず、わたしは逃げるようにその場から離れました。


 食堂とは別の場所にカフェテリアがあります。

 テラスの端の目立たない場所までくると頭を抱えて自己嫌悪に陥ります。


 ああ、またやってしまいました。


 どうしてなのでしょう。

 いつもこうなのです。


 わたしは人見知りです。

 ですので突然知らない人に声をかけられると困ってしまいます。

 ついついツンツンした態度をとってしまいます。


 ――ですが、それがイケません。


 ちっちゃくて可愛くて、ロリロリのロリボイスなら同じような対応をしても何か強がってる感が生まれて許されるのでしょう。


 抱きしめたくなる何かを持ったライトノベルのヒロインなら、そこから恋とか異能バトルが始まるかもしれません。


 ですがわたしの場合は違います。


 無駄に身長が高く、

 地声は冷酷で、

 そのくせ元来の人見知りが相まって目つきは鋭い。


 シリアルキラー@サイコパス卍ぴぇんといったマイルドな表現をありったけ用いないと死者が出るくらいの悪さです。


 外見に関しては、もうわるわるなのです。


 小学校の国語の授業、朗読の声が怖すぎてついたあだ名がマレフィセントでした。


 中学生の美術の時間、向き合っての自画像を描く際に緊張してにらむようになってしまった結果相手は泣き出し、わたしは若頭と呼ばれることに。


 高校の頃は帰り道に、コンビニで不良に絡まれたのですがちょっと見下ろしただけで次の日生徒指導室に呼び出され何事かと思うと「相手の不良が登校拒否になった」と……


 この時の呼び名はシンプルなものが多かったです。


 殺し屋とかアサシンとか、(キング)とか。


 まっっっっっったくこれっっっっぽっちも嬉しくありませんでした!


(どうしていつもこうなんだろう……)


 泣きそうになりますが、絶対表には出しません。

 だって恥ずかしいから。


 端から見たら、殺意の波動的なものに目覚めたデカイ女くらいにしか見えないのでしょう。


 短い悲鳴を上げて、わたしの側から離れていく人がその証拠です。悪いことに小声で「ごめんなさいごめんなさい……」と謝罪までくっついています。


 とても……疲れました。


 まだ授業は始まりません。


 この時期の大学生はガイダンスの後、受ける授業の選択を済ませつつ、教科書を買ったりしながら、無料で呑み歩ける各部の新入生歓迎会を渡り歩くのでしょう。

 

 コミュ障のわたしにはとうていたどり着けることのできない高みの領域です!

 

 そんなわけで一人暮らしのわたしは誰もいないアパートに帰り、死ぬほど虚無な時間を過ごすのです。

 

 とぼとぼと暗い気持ちでキャンパスを後にします。


 わたしの大学は坂のてっぺんに面していて、体力の無い半ひきこもりには行き来だけでつらいものがあります。


「ぷはあああああ! きたきたああああ! アルコールは最高ですね!!」


 だからそんなクレイジーな叫び声も疲れからか見逃してしまうところでした。


 いえ、見逃したほうが良かったのかもしれません。

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