お嬢様は救世します7
ふむぅ、魔王ちゃんが帰ってこない
あちきを置いて最近は新人のハクばかりと出かけている
そりゃまぁあの子は誰にでも優しいし、可愛いし、あちきも好きなんだけどさ
はぁ、仕方ない、あちきも行くかね
あちきはクルエルド・ヴェーン
誇り高きドラゴニュートの第三王女だ
今から百年ほど前のこと、あちきは国をクーデターによって失った
企てたのは宰相のガストーという男
姉二人は兵に掴まり凌辱の末殺され、唯一の男であった兄は父と共に勇敢に戦って亡くなった
母はあちきが幼いころに病で死んでいたためあちきは天涯孤独となった
皆があちきを逃がしてくれたからあちきは今生きていられる
そのドラゴニュートの国エルサルはその宰相を国王として民を虐げるような独裁的な国になっているようだ
あちきはいずれあの国を取り戻さなければならないが、エルサルは人間族と手を組んでうかつに攻め込めない
魔王ちゃんに協力してもらっているものの、孤軍奮闘のあちきたちじゃ戦力に大きな差がある
しかし少し前のことだ
あちきの元に朗報が届いた
魔王ちゃんがまだ出かける前、あちきに持ってきたのは一枚の紙だった
その直後に魔王ちゃんは出かけていったため魔王ちゃんはまだな神は確認していないけど、そこに書かれていたのはエルサルの現状と内部の協力者からの手紙
協力者は元々エルサルの大臣で、父の右腕だった男だ
彼は宰相に取り入る振りをしてずっと危険を冒してあちきたちに情報を送り続けてくれている
もしこのエルサルを取り戻せたならばあちきたちドラゴニュートは魔王ちゃんの元につく
そうなれば戦力も大幅に増強されるだろう
なにせドラゴニュートは竜の遺伝子を持った人族
力を極めた者はその姿を竜種へと変化させることもできる
あちきはまだできないけど、神竜様の特訓でだいぶつかめて来た
もう少しで竜化できそうだ
さても手紙を読んで見ると、そこには嬉しい報告が書いてあった
いよいよ内部での工作が完了してまもなく反撃ののろしが上がるらしい
これ幸いとあちきは魔王ちゃんに連絡を取った
連絡用の魔道具を耳につけて声をかけて見ると、大好きな魔王ちゃんの声がした
「魔王ちゃん! あの手紙はエルサルの解放軍からだったよ! もう間もなく決行するらしい」
「む、そうか、我も今帰路についている故すぐに戻る」
「うん、待ってるね」
魔王ちゃんは特別な転移を使えるからすぐと言ったらすぐ帰ってくる
あちしは転移で戻ってくるであろう部屋に向かった
部屋に入ったとたんに魔王ちゃんが転移で戻って来た
「クルエ、して計画はどのように進むのだ?」
戻って開口一番そう聞いてきた
「えっと、三日後の早朝、にっくきガストーが人間国に出向く手はずになっていて、その折に警備が手薄になる。そこを狙って一気に王城を制圧し、軍の協力者と共にガストーを討つ、とのこと」
「ふむ、我らはどうすればいい?」
「魔王ちゃんは外で逃げ出してくる奴らを討ってほしい。後の処理はあちきたちで出来るから」
「分かった。だが気を付けろ。人間と組んでいるということはとんでもない策略を企てているかもしれんからな」
「うん、そこは大丈夫、しっかり裏取りもしてあるみたいだから」
「よし、では三日後、我もエルサルへと向かおう。もし危うくなったときはすぐに連絡しろ。絶対に助け出すからな」
「あ、ありがとう魔王ちゃん」
決戦は三日後
あちきももっと力を高めておく必要がある
そのためにも神竜様に更なる稽古をつけてもらわないと
あちきの敬愛する神竜様、かのお方は魔王ちゃんの弟子なのだという
魔王ちゃんはそれほどに強いけど、誰にでも分け隔てなく接してくれる
そんな魔王ちゃんを神竜様も尊敬しているらしい
神竜様はあちきからすれば雲の上ほどの強さを持っている
その神竜様をもってしても魔王ちゃんには勝てないと
魔王ちゃんおそるべし
「む、そうか、吾輩と修行を。良いぞ良いぞ、師匠からもお前のことをまかされておるからな。強くしてやるぞ。今までの修行では基礎を培ってきたが、もうお主の中でそれは形になって来ておる。あとはお主がその力を引き出せるようになれば竜化もできようて」
「はい! 神竜様よろしくお願いします!」
神竜様との修行はいつも辛かったけど、あちきは確かな手ごたえを感じていた
だから今回の修行で絶対に竜化してみせる
それがひいてはドラゴニュートの民たちを助ける力になるはず
民は宝、父と兄はいつもそう言っていた
二人の姉は貧しい民のために仕事を与えたり、身寄りのない子供のために施設を建てたりと、とにかくあちきの家族は民に慕われていた
それは幼かったあちきの目から見ても明らかで、そんな家族をあちきはいつも尊敬していた
しかし、あの悲劇
今でもあちきを逃がして戦地に赴く父と兄、民の面前で凌辱され首を撥ねられた姉たちの姿がフラッシュバックする
ガストーが憎い
謀反を起こした者たちが憎い
でもあちきは知っている
憎しみを持って力を振るえば邪竜に堕ちてしまうことを
だからあちきは憎しみを捨てた
捨てきれてはいないかもしれないけれど、今は虐げられている民のために戦うと決めた
だからあちきはもっともっと強くなれる