進むべき道1
料理が出来上がったようです
いい香りが鼻を突いてきて、数億年ぶりの食事にお腹がクゥとなってしまい恥ずかしかったのですが、それはエミリアも同じのようで、料理を机に置いた瞬間お腹が鳴っていました
私達は顔を見合わせ笑い合い、席についた
「椅子が足りないな。エミリア、隣の部屋から持ってきてくれないか?」
「えっと人数は、いちにいさん…、二脚持ってくれば良さそうね」
エミリアは隣の部屋から椅子を二脚持ってきて並べました
これで全員が有に座れそうです
「それでは頂こう。食材に感謝を込めて…」
これは、昔と同じように手を合わせて食べるのですね
食材への感謝は今も昔も同じとは興味深いです
「これは野菜とソーセージのポトフ、それからこっちはハンバーグ、で、こっちはフライドポテト、あ、お好みでパンとライスどっちも用意してるわ」
聞きなれない料理名ですがどれもこれも美味しそうです
皆さんがどのように食べるのかを見て私も真似して食べます
パンとライスは昔と同じですね
でも昔よりも香り高くて美味しい気がします
ポトフと言うものは体が温まり、野菜にまで味が染みていて噛むと口の中に広がります
それからハンバーグ
私はこれが一番好きかもしれません
ステーキとは違ってお肉をひき肉にしているのですね
ひき肉料理はあの頃もありましたが、このようにこねて形にして焼いたものは初めて食べます
あの頃は様々な国の料理を食べるということもなかったので、私が知らないだけかもしれませんが、恐らく昔はなかったはずです
どの料理もなんて美味しいのでしょう
聞くところによると種族が一つになり、国が一つに統一されたことで国々の食文化も入り乱れ、美味しい料理はよりおいしくなっていったそうなのです
「このポトフはね、ママに教えてもらったのよ。ママは野菜しか食べれないから野菜料理をたくさんおそわったわ」
「ふむふむ、何億年と経ったとはいえエルフは菜食の食文化が息づいているのですね。興味深いです。人間族はどのような食文化になっているのでしょう?」
「私達は特に、そうだな、色々だ。雑食もいるし菜食主義もいる。かな」
「そこも変わらないのですね。どうやら進化は停滞しているようですね」
「進化? そう言えば進化の研究をしている人がパパに友達にいたよね?」
「ん? ああ、レスティアさんのことか。あの人はちょっと癖があるからなあ」
「ほほぉ、進化の研究とは興味深いね。僕にその人を紹介してくれないかな?」
「イット、あなたは自分の立場と言うものを理解してください。そう簡単にホイホイと他の人間に姿を見せれるわけないでしょう」
「そっかぁ、残念だよ」
「いや、彼女なら大丈夫だと思うよ。変わってる人だが秘密は守る人だから」
「本当かい!? ならすぐにでも!」
「今はお食事の最中ですよイット、少し落ち着きなさい」
「ご、ごめんよゼア」
怒らせると怖いというゼアさんにイットさんもたじたじです
しかしこの騒ぎの最中もエニーさんはマイペースにゆっくりと、そして美味しそうに料理を食べています
大物感があります
楽しく料理を平らげ、私は満腹になりました
お嬢様と共に封印され、未来の世界へと来てしまった私達、この方たちにとっては数億年も前の出来事であっても私とお嬢様にとっては今日起こったことです
とても、疲れました
私はこの美味しかった料理を習ってお嬢様が目覚めたときに食べていただきたい、そう思いながらゆっくりと瞼が重たくなっていくのを感じました
「ハクちゃんは眠たくなったみたいだね。無理もない、まだ子供なんだからね。エミリア、ハクちゃんと一緒にお風呂に入って来なさい。それから、布団は…」
「私と一緒でいいでしょ? 魔王ちゃんはもうママのベッドに寝かしてるし。問題は三つ子ちゃんよね」
「私達に睡眠は必要ありません。永久機関が体内に埋め込まれているので疲れることがないのです」
「それって、眠れないってことなの?」
「いえ、必要ないだけであって眠ることはできますね」
「それじゃあこっちに来て。三人の布団も用意するから」
「ですから私達は」
「駄目だよ。眠れるなら寝なくちゃ。睡眠は心を休めるためにも取らなくちゃね」
「心を…。分かりました。私達は心を休めるために眠ります」
私はエミリアと共にお風呂に入ってリフレッシュし、それから彼女と同じ布団にもぐりました
「フフ、同じくらいの背丈だけど二人だとベッドが小さく感じちゃうね」
「ご、ご迷惑なら私は床でも」
「んーん、一緒に寝ると暖かいし、それに私、姉妹っていないからなんだか幸せ」
「そう、なのですか?」
二人で少し話し、私はとろりととろけるような眠りにつきました
姉妹、ですか…。私にもそのような存在がいたのでしょうか?
今はもう確認する術はありません
それは、とても、寂しい
でもエミリアが姉妹のようと言ってくれるのならば、私はそうありたいです