プロローグ1
今までの主人公は苦戦をしているので圧倒的に強い子にしたいです
私は生まれてから、いえ。物心がついてからずっと奴隷でした
奴隷以外の生き方を知らず、常に主が変わる生活を十二年続けてきました
そして十五歳の誕生日、生まれた日が分からないため自分で定めていた誕生日の日
新しい主であった盗賊たちに襲ってきた竜の餌として、逃げれないよう手足の健をを斬られた上で転がされました
もうお前はいらないからと、もう用済みだからと、私の路傍の石よりも軽い命はここでついえるはずでした
死を覚悟して目をギュッとつむり、巨大な竜の大きな咢が私を一飲みにするはずでした
しかしいくら待てども竜の牙が私の腹を突き破ることはありません
恐る恐る目を開けてみると、そこには…
「天使様?」
美しい天使のような少女が立っていました
「この子の命、お前のようなトカゲにくれてやるにはおしいのう!」
天使様は竜の強靭な顎を右手と右足だけで抑え込み、そのまま左足の蹴りで竜を蹴り上げます
「ふん、トカゲならトカゲらしく地面にはいつくばって生きよ!」
そういうと天使様は竜の翼をもぎり取りました
竜は痛さで悲鳴を上げています
あまりの出来事に私は驚き、何もしゃべることができないでいました
「ふん、逃げるか。竜にしては情けない奴じゃな。ほれそこの狐耳、立てるか? ん? 健が斬られておるのか、どれ見せてみよ」
「は、はい」
天使様は私の手足を見ると、そこに回復魔法をかけてくださいました
とても暖かくて、今まで感じたことの無いような優しさに涙があふれ出します
「名前はあるのか?」
「いえ、無い、です」
私は今までおいとかこれなどといった言葉でしか呼ばれたことがありません
「そうか、それは不便じゃて、我がつけてやる。ふむ、白狐の獣人、いや、妖怪族か。ならばお主はこれからハクと名乗れ。そして我のものとなるのだ!」
「ハク…、私の名前…、ハク?」
「うむ!」
「天使様、ありがとうございます」
「我は天使などという高尚な存在ではない。ただのしがない魔族じゃて」
「では、ではお嬢様と、呼ばせてください」
「好きにせい、我は素材に使えそうな竜の翼を持って帰るでな。手伝ってくれ」
「あの、この人たちは」
逃げ遅れて竜に潰された元ご主人様の盗賊たちが転がっています
「悪人なぞ魔物の餌が精々じゃわい。その辺に捨て置け」
お嬢様はこの盗賊たちのアジトから少し離れた場所にある花畑に私と同じく奴隷としてここで働かされていた、竜の餌として殺されてしまった子供達を丁寧に弔ってくださいました
「ふぅ、こんなもんでいいじゃろ。すまぬ、助けられなくて」
私はいつの間にかまた泣いていました
この子たちは、私の良き友人達でした
苦楽を共にした、家族、とでも呼べる存在
そんな彼らが、ただ逃げる時間を稼ぐために殺されたのです
命は、私達奴隷の命は、とても軽いのです
しかしお嬢様は私に名前を下さり、奴隷の子供達を人として扱ってくださいました
十五歳の誕生日、私は最高の主を天から遣わしていただいたのです
そして私は決めました
この方に生涯を賭して尽くそうと
数日が経ちました
ここは魔族領であり、お嬢様の家です
いまだにこのような幸せな生活が続けられているのが不思議で、まるで夢見心地です
お嬢様は優しく、困っている方を放っておけないたちでした
そのためお嬢様の家、というより城、その城にはたくさんの、お嬢様に助けられた方たちが働いていました
ほとんどが元奴隷や、悪人に不正に捕らえられた方、魔物に襲われて死にかけていた方たちで、種族も多種多様でした
しかし私のような妖怪族はいないようです
妖怪族は本来妖怪族達のみが住む国から出てきません
私の場合なぜその国から遠く離れた人間の住まう領域にいたのかが分からないのです
両親も知らず、赤子だった私は奴隷商人に拾われたのだと、その奴隷商人に教えられました
お嬢様はそのうち私の両親を探して下さるとおっしゃっていますが、私はお嬢様から離れる気はないのです
しばらくお嬢様の観察をしていてわかったことがございました
お嬢様は人族に魔王と呼ばれているのです
そうです、世界の敵と言われる魔王こそ、お嬢様だったのです
しかし私はお嬢様が何者だろうと気にしません
お嬢様はお嬢様ですから
それをお嬢様に告げると、少し顔を赤らめて恥ずかしがっているようでした
そしてもう一つ気づいたことがございます
お嬢様はあまりにも強いお方でした
先代魔王は勇者に撃ち滅ぼされたのですが、その時の魔王でも竜種と呼ばれる世界最強たる存在を倒すことはできませんでした
しかしお嬢様は、そんな竜種を私を救ってくださった時のように倒したり、さらには神竜と呼ばれる竜種で最も強い者を自らの配下に加えておいでです
話しを聞くに、一対一の勝負で圧勝したためその神竜は弟子になったそうなのです
私はその話でさらにお嬢様を尊敬いたしました
お嬢様は私に何かをしてほしいとおっしゃったことはございません
私はただ何もせずお嬢様を見ているだけではどうしても忍びないのです
ですから自ら仕事を探してお嬢様のお役に立とうと考えました
しかしながら私の要領は悪く、何をしても失敗してしまうのです
きっとお嬢様はあきれていることでしょう
そう思ってお嬢様に謝ると
「よいよい、得手不得手は誰にでもある。ハクは自分の長所を伸ばすことに専念せい」
また涙が出ました
お嬢様は私達配下を非常によく見て下さっています
適材適所の役割を与えてくださるのです
そして私は、自分のできることを必死で考えました
私は盗賊などと言った闇の組織に長く飼われていましたので、戦闘や隠密行動はお手の物と言えます
これならお役に立てると、私はそれからお嬢様と常に行動を共にするようにしました
お嬢様は常に誰かのために動いています
どこからか情報を仕入れては悪人を倒し、人々を救うのです
私はそんなお嬢様の傍らで仕えたいと考えます
救われた方たちからすればお嬢様はヒーローです
しかし世間ではお嬢様こそが最大の悪と捉えられています
それが、私には許せないのです
何故お嬢様は、魔王としてこの世界中に知れ渡ることになったのでしょうか?
そしてあの強さ
お嬢様は何者なのでしょう?