表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

お題シリーズ

ずっと一緒にいよう 喪失

作者: リィズ・ブランディシュカ
掲載日:2020/03/16



 私の運命を変えたその日の事を、決して忘れる事は出来ないだろう。

 どれだけの時間が経ったとしても。


「有給? ああ、例の場所に行くのね。もうそんな時期になったんだ」

「前向きになったんだな。良い事だ」

「頑張ってね、応援してるよ」


 私は勤めていた会社に有給の申請をして、ある場所を訪れた。






 海が見える場所。

 私は久々に訪れたその高台で、過去の出来事に思いをはせていた。


 三年前、ここで事故があった。

 観光バスがここから落ちたのだ。


 幸いな事に、他の車に乗っていた人達が事故に気がついていたので、救助はすみやかに行われた。

 けれど、高所から落下した衝撃は大きく、多くの人の元に死神を呼んでしまった。


 結果、数十人の死者が出てしまい、生存者はたった一人だけになってしまった。


 その一人とは、私の事だ。


 ここに来るのは人生で二度目。

 来るまでに数年かかってしまったのは、恐ろしい出来事を思い出したくないから。


 しかし、いつまでも過去の悲劇に膝を屈しているわけにはいかない。


 勇気を出した私は、再びここを訪れる事になった。


 私は持ってきた花を供えて、手をあわせた。


 あれから三年もの時間が過ぎた。


 多くの人は事故の事を忘れ去ってしまっただろうが、反対にどうやっても忘れられない人がいる。


 犠牲者の家族、友人、恋人がそうだ。


 かれらは、大切な人を失くしてしまったこの場所に来て、何度も何度も花を添え、祈りをささげるのだ。


 きっと、来年も再来年も来るのだろう。


 私は目の前に一歩、踏み出した。


 あと数歩先、そこに地面はない。


 この先に踏み出せばきっと、私の大切な人達と一緒にいられる。


 かけがえのない人だった。

 私は、ずっと忘れられない。

 忘れられるはずがない。


 これからどれだけの時が経とうとも、私は今日と変わらないでいるだろう。

 失った何かを思い出しながら、欠けた何かを思い知りながら生きていくのだろう。


 傍にいるはずだったあの人は戻らない。

 一緒に過ごすはずだったあの人との時間も。


 あの人が戻ってこないというのなら、私がそっちに行ってしまえばいい。

 そうすれば、ずっと一緒にいられる。


『ズット、一緒に、イタイな」


 私も。


『これからは、一緒に』


 もうすぐだよ。


 私はさらに一歩踏み出した。


 けれど、誰かが私の腕を掴んだ。


「死んだらあかん」


 邪魔をされた。

 その人も、ここにきているのだ。

 同類なのに。事件の被害者なのに。おいて行かれた側なのに。


 なら、私の気持ちも分からなくはないでしょ?

 放っておいてよ。


「放してっ!」


 必死に腕を振りほどこうとするけど、相手の力の方が強かった。


「死んだって一緒になんてなれんよ。胸張って生きんと、一緒になんてなれんよ。だから生き! 精一杯生きてから会いに生き!」


 その言葉を聞いた私は膝をついた。


 私は、私を止めてくれたその人に、今までずっとため込んでいた心の内を吐き出した。

 

 ずっと一緒にいたかった。


「うん」


 きっと同じ境遇。

 だから、その人になら遠慮なくぶちまけられる。


 ずっと一緒だと思ってた。


「うん」


 でも、いなくなってしまったから、どうしたらいいのか分かんなくなっちゃった。


「辛かったな」


 生きてても楽しくないんだよ。


「悲しかったな」


 悲しかったよ。

 泣きたかったよ。


 でも、前向いて頑張っていかなきゃいけなかったんだよ。


 いつまでもウジウジしてたら、居場所がなくなっちゃう。

 社会のお荷物になっちゃう。


「大変だったな」


 大変な事はあったけど、色々あって遺族の方たちは前を向きました。

 不幸な事件を無駄にすることなく、精一杯人生を送ってます。


 そんな報道で、皆の心をひとくくりにされちゃったから。


 私にもそんなイメージを押し付けて来て、もう大丈夫だよねって、みんな笑顔で接してくる。


 嘘だよ。

 ありえないよ。


 簡単に前なんて向けないよ。


 限られた枚数分だけ文章が綴られた本みたいに、人生は起承転結がはっきりしてるわけじゃないんだから。


「前向いていかんでも良い、たくさん悲しみな。そんで、生きる事だけをまず頑張りな」


 私はその後もずっと泣き続けた。

 これまでにためこんでいた、たくさんの感情を洗い流すように。


 一緒にいたかった。

 けど、あの人の眠る場所に背を向ける。


 私はまだ、そっちにはいかない。



読んでくださってありがとうございます。

執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ