プロローグ
少女は公園のベンチに座っている。
雨や雪の日でなければ毎日同じ赤いベンチに座っていた。
一冊の本を開き、毎日朝から晩までそこにいる。
その公園にはあまり人はこなかった。
時々来るのは犬の散歩をする人か、通りすがりの人程度だった。
広さも走り回ったり出来るほど広くは無く、遊具も三つしかなかった。
――そんな初夏のある日。
いつもと同じように、少女は公園の赤いベンチに座っていた。
いつもと同じ本を開き、誰もいない公園のベンチに一人きり。
聞こえてくるのは、遠くを車が走る音がかすかに。
聞こえてくるのは、木々が風に揺れる音がかすかに。
白いワンピースに、白い大きな帽子に、白いサンダルに、長い黒髪に、小さな体。
肌もとても白く綺麗なその少女は、腕を上に上げ体をほぐす様にしながら口を開いた。
「んー、今日もいい天気。 青い空に白い雲、お日様が眩しい」
とても笑顔でその少女は言った。
もちろん誰かに言ったのではない、誰もいない公園だからこそ言ったのだ。
そんなどこにでもいるような少女のお話。
ただ一つ言い忘れた事がある。一番重要か? と言われれば、些細な事に過ぎないが。
彼女が毎日持っている本を読み終わる事は無い。
何年も同じ本を毎日開いているのだ。
――なぜなら少女は、目が見えない。