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異世界で子育て始めました  作者: あるみす
19/19

福音の副作用

19話です

「宝具は物にして物にあらず。

 宝具は手にした者を破滅か栄光に導く。

 全ては持つ者の真理なり。」


 屋敷の書庫に溢れかえっている蔵書の中からゼルは二日かかって宝具についての記述を見つけ出した。


 世界中に100有るとされている宝具にはそれぞれ力が強すぎるが故にゼルはこのダンジョンを攻略するに当たって本当に宝具を手にしても良いのか不安だったのだ。


「お、これだ…僕が探していたのは」


 ページを進める手を止め、ゼルはあるページに注目する。

『全宝具の銘と能力』

 そこには計100の宝具の名前と能力が詳しく記載されていてその当時の持ち主も書かれていた。


「なるほど、だからアステカは世界最強と謳われたのか」


 ゼルは思わず感心の声を漏らしてしまう。

 世界最強の魔剣イシュヴァルの持ち主にアステカの長である光の王の名前があった。

 それに加え、先日戦った茨姫など他のアステカの一味の名前も記載されていたのだ。


「これは…本当に気をつけないといけないな」


 ゼルはこのダンジョンで手に入る宝具に一通り目を通し、その本を抱え自室に戻る。

 現時点で対策のしようがないがゼルは手に入れた時に備えてひたすら頭に宝具の情報を叩き込むのだった。




 ◆



 アイシャさんとの修行が始まってまる二週間経った頃、俺は鬼門だった同時詠唱の10の壁を越えて12個まで出来るようになっていた。


「凄いね!まさかこんなに早く覚えるなんて思ってなかった」


 アイシャさんも笑顔で喜んでくれて優しい手つきで俺の頭を撫でてくれる。


「早くマスターしてあいつらの手伝いをしてやらないといけないので」


「うふふっ」


 俺が少し照れ気味にそう言うとアイシャは片手で口元を抑えて笑う。

 スラッとした体型もあってこの人は本当に美人であり、性格も優しい。完璧な人ってのはアイシャさんみたいな人の事を言うんだろうな。


「さて、次は《福音》を覚えてみよっか」


 アイシャさんは俺の頭から手を離すと次の課題を提示してくる。


「《福音》ですか…?なんか優しそうな名前ですね」


「名前はね?でもこの技はグリモアの中でも一二を争うぐらい難しいから覚悟してね?」


「わ、分かりました」


「じゃあ《福音》について説明するね。《福音》って言うのは魔力を操って脳に使う魔力量を増やすの。そして魔力で脳の伝達物質の量を増やして脳の働きを通常の10倍に上げる技なの」


「要は脳にバフを掛けるってことですよね?」


「うん、合ってる」


 とうとう脳にまで手を出す時が来たのか、付加魔術師グリモア魔導師ウィザードと違って魔力操作に長けてるから不可能では無いんだろうけども正直に言って相当難しそうだぞ、この技は。


「白くんはこの間夜見ちゃんと戦った時に《超越》を使ったでしょ?《福音》は脳の働きを上げることによって、通常より早く動けたりするから《超越》に近い状況にまで持っていけるの。それに《超越》とは違って魔力も脳に集中するからこの間見たいに魔臓の位置を探られたりしないから安全だよ」


 あの圧倒的な強さを引き出せる《超越》と近いレベルの力を使えるなら使わない手はないな。

 しかし、俺は一つ頭に引っかかる物を感じたのでアイシャさんに質問する。


「《福音》は何か体に異常をきたしたりしないんですか?」


 俺が怯えた様に聞いたのでアイシャさんは小さく笑うととても優しい表情を俺に向けてくれる。


「心配しなくても大丈夫だよ。元々《超越》で起きるデメリットを解消する為に作った技だからね。それにわざわざ危険を伴う技を教えるわけ無いでしょ?」


「そうなんですね…安全なら…しっかり覚えたいです!」


「よし!その意気だ!じゃあ早速始めようか」


 そうして今日から俺は《福音》を覚えるのに没頭し始めた。

 やはりこの技はとても難しく、一日経っても全くコツさえ掴めなかった。


 まず、魔力を脳に集中させるのが難しいのだ。魔力の量が少なすぎても駄目、多すぎても駄目らしく、適量を探すだけで一苦労だった。


 こんな感じで何も得られないまま数日が過ぎていった。




 また、二週間が経った日俺は何とか軽く《福音》を発動できるようにはなっていた。


「う、うぅ…………くはっ」


 集中していた頭を魔力の渦から解放すると息が上がり、汗も溢れてくる。

 頭が異常に熱いのは恐らく知恵熱が出てるからだと思う。


 二週間経ってもこの程度の上達か…軽く発動出来たとは言え、こんなのを戦闘で使う余裕があるのかどうか……


「我が半身よお主はまだ己の魔力を信頼しきっておらんのじゃ」


 突然横でぐでーっと寝ていた夜見が体を起こし、くあっと欠伸をしながらそんな事を言ってくる。


「信頼ってどういう事だ?」


「言葉のまんまじゃ、魔力とは己の第二の生命と言っても過言でないくらい心理状態が関係する」


「具体的にはどうしたらいいんだ?イマイチ良く分からないんだけど」


「むぅ、仕方ないのぉ。ほれ屈め」


 俺は言われたとうりに夜見の側で屈み込み、夜見と目線を合わせる。

 すると、夜見は自分と俺の前髪をかきあげ、

 コツンとおでこをくっつける。


 うわっ、いっつも一緒に過ごしてるのにここまで接近されると驚くわ!

 それにおでこを合わせてるからお互いの吐息がかかるし…なんか妙に恥ずかしいぞ。


「変な事考えてないで集中せい」


「ごめん…」


 ある程度感情を読み取れる夜見は集中する様に促してくる。


 要らないこと考えない様に目をつぶって集中すると夜見が俺の体内の魔力を操っているのが感じられる。


 他人に自分の中を制御されるのは初めてで、とても奇妙な感覚だった。

 すると、同じく目を瞑っている夜見が静かに口を開く。


「今からお主の魔力で《福音》を強制的に発動させるからの。良く感覚を覚えておくのじゃぞ」


「おう」


 そう答えた直後、魔力が急激に体内を循環し始め、脳がものすごいスピードで回り始める。


 なんだ、これは。思考が急速にまとまっていく、それに普段より魔力を扱い安くなっている。


 これなら茨姫と戦っても一矢報いる事くらいは出来るかもしれない。


 やがて、夜見はおでこを離して自身の髪の毛を手櫛で軽く梳く。ふぅと息をつく夜見は女の子座りでペタンと地面に座ったまま俺の目を見てくる。


「どうじゃ?これが《福音》じゃ、感覚を覚えてる間にもう一度やってみれ」


 俺も地面に腰掛け、《福音》を発動しようと試みる。

 魔力を制御するのでは無くて、あくまでも自由に運動させる。


 その間に脳に魔力で刺激を与えていく。

 すると上手くいったのか少しずつ脳の回転数が増えていく。


「おお、そうじゃそれじゃ。やれば出来るものじゃの」


 夜見も笑顔で俺の膝に手を乗せて身を乗り出してくる。

 俺は心の隅で心配している自分の感情を落ち着かせる為に夜見の小さく華奢な手を上から握る。


「悪い、少しだけ握らせて」


 脳に多大な負荷を掛けているため汗がタラタラと流れる俺を見て、夜見も無言で俺の手を握り返してくれる。


「くぅ……うっ………」


 時々呻き声を上げながらも俺は脳の回転数を、伝達物質の量を2倍、3倍と上げていく。


 そして、数分後目標の10倍に達した。


「よっし……何とか上げれた…ぞ…」


「やるじゃない!そのまま、そのままキープよ!」


 アイシャさんが励ましてくれるので俺は脳の圧力のキープを続ける。

 諦めちゃ駄目だ…これを戦闘で使える位に慣れないと意味が無いから…


 脳の回転が早くなるに連れて色々な事が思い出される。特に転生する前、地球に居た時の事だ…

 この世界に来た時には思い出せなかった妹の事もうっすらと思い出さされられる。

 俺が3歳の時に死んだ母さん、……さん、父さん………何で皆死んじまったんだよ

 俺と……は何もして無いだろ…何で…なん……で。


 脳の負荷によって感情が荒ぶり、細かく震えている俺の手を夜見は1度離して心配してくれたのか、「自分はここに居るよ、だから心配しなくて良いんだよ」と知らせてくれる様に優しく抱きしめてくれる。

 夜見の澄んだ涼しい匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。

 アイシャさんも俺と夜見を包み込む様に抱きしめてくれる。



 あぁ…駄目だ。もう耐えられない……


 俺はそう思った直後《福音》を解いた。

 少しすると段々脳の回転も収まってきて、感情も落ち着いてくる。

 俺はいつの間にか流していたらしい涙を服の袖で拭うと夜見の背中をぽんぽんと軽く叩く。


「ありがとう、夜見とアイシャさん。ちょっと色んな事思い出しちゃってさ」


 夜見はまだ俺を抱きしめたまま、くぐもった声を上げる。


「《福音》は普段考えたくない様な事まで考えさせる副作用があるからの。ごく普通の反応じゃ、じゃから妾が傍に居てやるからの」


 そんな夜見に甘える様に俺はその小さく暖かい体を抱きしめる。

 すると抑えて居た涙が目から溢れ出てくる。


「クソ……思い出したくなかったな…本当に地球ではろくな事が無かったよ」


「それでも過去は乗り越える物じゃ、少しずつで良いから、克服していくのが大切じゃ。妾もその手伝い位はしてあげるからの」






 あの後アイシャさんはゆっくり休んだ方が良いと言ってくれたので修行を切り上げて何時もより足取りも重いながらも帰路に着いていた。


 俺にとって地球での人生は苦行そのものだったし、思い出したくもない記憶なのだ…

 だから他の人に話すつもりも全く無い。


「あまり思い詰めるでないぞ?」


 横を歩く夜見は心境を見透した様に話しかけてきた。


「うん、分かってはいるんだけどな…」


「お主が人が良い理由、考えた事あるかの?」


「俺が?いや無いけども」


 俺の胸の下ぐらいの身長の夜見は俺の前に出るとグッと背伸びして、ぺしっと俺のおでこを弾いた。


「薄々感じてはおったのじゃがのさっきのお主の様子を見て確信したぞ」


 俺は立ち止まって目の前でいつに無く真剣な顔持ちの夜見を見つめる。


「お主は自分の過去と言う枷に囚われておる、そしてそれを無意識の内に考えてしまっておるのも事実じゃろ?」


 意外と痛い所を突いてくるな…


「確かに考える事もあったが極力気にしない様にして来たぞ?それにそれが何の関係があるんだよ」


「人は嫌な事から避けるように別の事を一生懸命やるのは普通じゃろ?それに、お主は自分の事を大切にしない節がある。人が良いと言うのは元からの性格も関係しているじゃろうがお主のは度を越しておるのじゃよ。じゃから、この間だって破滅の禁呪である《超越》も使ってしまうのじゃ」


「……………」


 改めて言われると思い当たる節はいくつかある。

 しかしそれの何が悪いって言うんだ、別に正義の味方に成ろうって話じゃないんだ。

 俺は身内の危険しか守るつもりは無いからな。


「お主は身内の為なら死んでも良いとか思っておるんじゃろうが、それは大間違いじゃぞ?」


「何が違うって言うんだよ。それで守れたら本望だろうが」


「別に人助けが悪いとは言っとらんわ。妾が言いたいのは『死ぬな』と言う事だけじゃ」


「え?………」


 俺は言葉に詰まってしまう。

 夜見の言葉は何故か心の穴を埋める様に染み渡ってくる。


「お主が死んだら悲しむ者もまた身内じゃと言う事を忘れるので無いわ。むざむざ死ぬ為にラファエルの娘もお主を転生させた訳じゃなかろ?」


「だけど……」


 俺が口を開けかけるとそれを遮るかの様に夜見が言葉を続ける。


「妾もお主に死なれたら悲しいのじゃ、お主が死なん様に力は貸してやるからの……じゃから少しは自分の身体も大事にしてやってくれんかの」


 そう言って俯いてしまう夜見に俺は申し訳無さが溢れてくる。

 夜見は俺の事を考えて、俺の事を大事に思ってくれてるんだ…

 昔とは違う…俺は必要とされている。

 大丈夫、この世界の三奈坂白は生きてて良い人間なんだ!


「分かった。心配かけて悪かったな、大丈夫これからは自分の身体も大切にしていくから」


「分かれば良いのじゃ、分かれば」


 俺が納得すると夜見は安心した様に子供の様な笑みを向けてくる。

 夜見を見てると俺も自然と表情が崩れてきた。


 大丈夫だ。もう、心の辛さは感じない。

 次は《福音》も成功する筈だ。


「さ、帰ろうぜ夜見!夕飯何が食べたい?」


「そうじゃのー、魚が食べたいぞ!最近肉ばっかりじゃったからの」


「おしっ、任せとけ」


 俺は夜見とそんな日常の会話をしながら屋敷への道を急ぐ。


 その足取りは先ほどと違いとても軽い物だった。



そろそろ書きだめが尽きそうです。

続きを読みたい方がもしいらっしゃれば「書いて」と感想にお寄せください。


一人でもいらっしゃれば、本命の間に少しずつ更新して行こうと考えていますのでよろしくお願い致します。

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