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異世界で子育て始めました  作者: あるみす
17/19

一時の帰還

17話です

 窓から差し込む暖かい光に当てられ、俺はいつもより少し遅く目を覚ました。


「…ん?なんか温いな」


 寝ていたベッドが人肌並に温かくなっていたので不審に思い、布団をめくると子猫の様に丸くなっている夜見がすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。


 夜いつもより寝つきが良かったのはこいつが居たからかもな、イリアと寝てる時も寝つきが良いからな俺は。


「くぅ……ふぁ、おぉ…おはようなのじゃ」


「おう、おはよう。よく眠れたか?」


 夜見は目を覚ますと起き上がって服の袖でゴシゴシと目を擦る。

 昨夜夜見に俺の予備のシャツを貸してやったのだが、こいつが着るとブカブカで色んな危ない所が見えそうだ。


「何じゃお主。妾の艶姿に見とれて居るのかの?」


「あほか。俺は普段から保護者やってんだよ。お前は可愛いがそんな対象に見てないんだよ」


 夜見は俺の返答にむぅと軽く頬を膨らませる。

 そして、ベッドに座りなおしぐぐっと顔を近づけてきた。

 寝起きでまだ目がトロンとしているこの幼女の顔がいきなり目の前に迫り、不覚にもドキッとさせられる。


「お、おう。どうした?」


「いや、何でもない」


 そう言って顔を逸らした。

 何だよ、気になるだろうがその反応は。


 俺は夜見の頭をポンと叩くとベッドから立ち上がり、寝間着を脱ぎ夜のうちに洗濯しておいたいつもの服に着替える。


 そして夜見に彼女が着ていたワンピースを手渡す。


「お?綺麗になっておるの。お主がやってくれたのかの?」


「あぁ、ついでに洗濯しておいたよ」


「おぉー感謝するのじゃ」


 自分の服に顔を埋め、嬉しそうな声で言ってくる。

 そんなに自分の服を洗ってくれたことが嬉しいのか?

 よく分からん奴だな…


 俺は机の上に作った毛布のベッドの上で寝ているルウを起こし、朝食の準備の為に食堂へと向かった。


「ふあぁ…白はもう眠く無いのですか?昨日消費した魔力は尋常じゃ無かったはずですよ?」


「うん、大丈夫。魔力はこの通り完全に回復してるよ」


 まだ眠そうに目を擦りながら俺の肩に腰掛けているルウにそう返事を送る。


 実際の所、俺自身魔力の回復速度には驚かされていた。文字通り空になるまで魔力を使い果たしたのだから、いくら夜見やアイシャさんに魔力を供給してもらったからって全てを満たせていた訳じゃない。


 なら、この魔力の回復量は……

 と思って横を歩く夜見を目だけで見ると彼女も目だけでこちらを見上げ、ニヤリと口を曲げている。


 この反応から推測するに魂で結びつけられた関係である夜見と一緒に寝ると魔力の回復量が増加するのか、こいつは正真正銘の女神だからそれ位の恩恵を俺が貰っててもおかしく無いか。


 そんな事を考えながら廊下を歩いていると目的地の食堂へと到着した。

 俺達は中に入り取り敢えず一呼吸つく。


「軽く全員分の朝飯作っちまうからそこで座ってな」


 そう言って俺は普段使っているエプロンを身につけ厨房へと入った。


 ◆


「のうのう妖精よ。我が半身は料理も出来るのか?」


 夜見は昨日から見せられている白の家事スキルのスペックの高さに少し驚かされていた。


「はい?あ、はい。白は料理に限らず家事全般が完璧に出来ますよ。伊達に保護者やってませんからね」


 ルウはまるで自分の事の様に胸を張って自慢する。そしてその顔は笑顔で溢れている。

 自分の大好きな家族のことを褒められて嬉しいんだろう。


「うぅ、お腹空いたのー」


 夜見はサラサラの金髪をふわりと靡かせながら机に突っ伏した。


 するとガチャリと食堂の扉が開かれ、ノアやメルヴィ、ジーニャ達の女性陣が入ってきた。


「おはよ、ルウちゃん。落ち着いた?ってかその金髪の女の子は誰?」


 ノアが机に突っ伏している夜見に気づいてルウに問いただす。


「あ、この人は…」


 ルウが話そうとした瞬間。

 厨房から白が顔を出した。


 ◆


「おはよ、皆。後ただいま」


 俺はあの大穴で見た以来のノア達の姿を見て自然と表情が柔らかくなる。


「えっ、白なの?ほんとに白なの?」


 ノアは突然の事に目を丸くしている。


「昨日の夜に帰ってこれたんだよ。何とかこの幼女に助けられてな」


 俺は夜見の頭にぽんと手を乗せた。


「むっ、妾を幼女と…」


 夜見が反論しようと俺を見上げ口を開いたら、それを遮る様にノアが俺に思いっきり抱きついてきた。


「うっうぅ、うぁぁぁぁぁぁん!白、白!いきででよがっだよぉぉ」


 ノアは俺の存在を確かめる様に頭をグリグリと俺の胸に擦り付ける。

 抱きついてきたノアは年頃の女の子だと言うこともあり、相変わらずとても柔らかくて凄く甘い匂いが鼻をくすぐる。

 そんな姿が愛らしくも有り、とても嬉しかった。


「心配かけて悪かったな。本当、ごめんな」


「白が悪い事なんて無いもん!白は私達を命懸けで守ってくれたんだから悪くないもん」


 俺はノアを軽く抱きしめ、頭を優しく撫でる。

 ノアは意外と泣き虫なのかもしれないな。でもそこがこいつの良い所かもしれない。

 人一倍家族想いの優しい女の子なんだ、俺はこの家族達を絶対に守らないといけないんだ。


「本当によかったな白」


「白さんが生きてて安心しました!」


 メルヴィもジーニャもそれぞれ近づいてきて俺の帰還を喜んでくれてる。


「ほらほら、朝食出来てるからな。早く食べようぜ」


 俺はノアの背中をポンポンと軽く叩き、ノアの目から溢れ出る涙を軽く手で拭ってやる。


「ジーニャ手伝ってくれる?」


「はい!」


 ジーニャに頼むと笑顔で了承してくれる。

 ジーニャの手も借りて全員に食事を配り、それぞれ席に着いて食べ始める。


「そういやゼルはどうしたんだ?」


 俺がジーニャに尋ねると


「お兄ちゃんはなんか調べ物があるって言ってましたよ」


 ゼルにも全員を連れて帰ってくれたことに感謝してるんだけどな…ま、会った時で良いか。


「白は何で髪の色変わったの?」


 ノアが俺の髪の色について聞いてきた。

 俺は全てを話せないながらもあやふやに説明しておいた。

 流石に茨姫本人に助けられたなんて言ったらヤバイだろ。


「あ、白とノアとーそれからジーニャ。剣の整備してやるから朝飯終わったら着いてきな?」


 メルヴィがそう提案してくれたので有難く了承させて貰う。

 最近荒い使い方ばっかりだったから正直不安ではあったからな。


 朝食が終わり俺達はそれぞれ武器を部屋から持ち出し、メルヴィの後に着いて屋敷に備え付けられた小さな工房に入った。


 メルヴィはいつかの工房で見たような薄い作業姿になり道具を用意した。


「さてと、誰のからやるかな。…おっノアの刀はかなりの業物じゃないか」


 メルヴィはノアの刀を触って少なからず驚いている。

 ノアの刀はノアのスキルの驚異的なスピードに耐えつつあの切断力だからな、かなりの業物である事は素人の俺にも納得が出来る。


「うん、お父さんの形見何だけどね。なんか故郷の武器らしくて『村雨』って言うらしいよ」


「村雨ねぇ、この刀にはね?ノア。妖刀としての役割も備わってる」


「よう、とう?」


 メルヴィは真剣な顔でノアを見つめコクリと頷く。


「この刀に込められた思いは『成熟』って言って持ち主の力を最大限に引き出す事が出来るのさ。妖刀としてはかなりの善刀だから安心しときな」


「だから、村雨以外でスキルを発動すると掛かりが悪かったんだね」


 メルヴィの説明にノアも頷いている。


 と言うか村雨って言ったら日本で村正と並ぶレベルの妖刀だぞ。やっぱノアのお父さんって日本人なんじゃないか?


 するとメルヴィが俺の剣に触れる。


「白もかなり使い込んでくれてる様だね。魔力伝導もスムーズになってる」


「少し荒い使い方しちゃってるけどな」


「あたしがそんなヤワな剣を打ってるのとでも?」


「いえ、めっちゃ信用してますよメルヴィさん」


「くくっ、それとついでだけど銘はちゃんと決めたか?」


 メルヴィは軽く笑うと俺に剣の銘を聞いてきた。

 やばい、色々ありすぎて忘れてた…

 何か良いの無いか?最近あった事…茨姫…夜見…月?英語で…ムーン。いや違うか中国語のユエ…イタリア語のルーナ?

 いや、これだと人の名前だな。月だから夜!夜といえば黒か、おっ剣の色も黒だしいいんじゃないか?黒って確かドイツ語でシュヴァルツだっけか?

 もうこれでいいや!


「え、えっと、シュヴァルツにしようかな」


「シュヴァルツ?どんな意味があるんだ?」


 メルヴィは分からないと言った顔で聞き返す。


「シュヴァルツってのは俺の住んでた国で黒って意味があるんだよ。ほ、ほらこの剣も黒いからさ」


「ふーん、安直だけど白がそれで良いんだったらシュヴァルツでいいか」


 フゥ何とか乗り切ったな。

 メルヴィはシュヴァルツを置くとジーニャのナイフを手に取った。

 鋭いメルヴィは少し難しい顔をして


「ジーニャ、これいつから使ってるんだい?もう武器としての限界を超えてるんだ、このナイフは。いつ壊れてもおかしくない」


「もうずっと前からですね。だけど買い直すお金も無くて…」


 メルヴィはハァと一息付くと優しく微笑みジーニャの頭をポンポンと叩く。


「しょうがないからあたしが新しいの作ってやるよ」


「いいんですか!!??」


「あぁ、だけど手伝いはしてもらうからね?」


「はい!喜んで!」


 ジーニャはとっても嬉しそうに頷くと意気揚々と袖をまくっている。

 そんなジーニャを見つめるメルヴィは本当にお姉さんの様な感じだ。

 俺やノアに対してだけどいつも見ててくれるし世話もやいてくれる、有難い事だよな。



 それからその日は各々ゆっくり身体を休め、やがて夕食の時間になり今度はゼルも含め全員が食堂に集まった。


 調理しているジーニャの手伝いも済ませ、みんなが席に着いた時に俺は話を切り出した。


「みんな聞いてくれ。今後の方針について何だが…しばらく俺はダンジョン攻略には参加出来ない」


 それぞれ多種多様な反応を取る家の面々達だが俺が参加出来ないのにはれっきとした理由があった。

 時間は昨日のアイシャさんと夜見に出会った所に遡る。


 ◆


「お主にはこれから一ヶ月勉学を積んでもらう」


「一ヶ月もか?」


 夜見は今後の予定について真顔で伝えてくる。


「貴方はまだ根本的にグリモアとして未熟なの。だからそこから鍛えないと白銀を次ぐ前に身を滅ぼしてしまうから…」


 今度はアイシャさんだ。この人が話すと何故か俺は全く逆らえない、と言うか納得してしまう。何だろうな…脳で考えるというより本能に近いぞこれは。


「分かった…じゃあこれからよろしく頼む。だけどそれなら俺の仲間は何をしていたら良いんだ?」


「それはの?……」



 ◆


 ここで時間が戻る。

 俺は夜見やアイシャさんに言われた通りの提案をする。


「みんなには俺抜きでダンジョン攻略に向かって欲しい」


「だが、それは安全なのか?茨姫でさえ勝てなかった僕達が更に深層の敵に勝てるとは思えんが」


 ゼルはごく普通の疑問を俺にぶつけてくる。

 俺もそれは心配してたんだけどな……横に座る夜見をチラリと見ると、くふふとお馴染みの含み笑いをしていてこちらを見上げてくる。


 これは安心して妾の言う通りにしておけって言ってんな……

 何故か分からないが夜見の考えてる事は他の人よりわかりやすい。


「第三層以降の敵は強いが全員で挑めば対処出来るレベルの敵らしい、少なくとも茨姫よりは弱いって事だ。それに理由はそれだけじゃない」


「その他の理由とは宝具に関係してるんですか?」


 流石ルウと言った所か、俺が考えてる事を的確に当ててくる。


「このダンジョンはそれぞれの階層主を倒すことでそれに見合った宝具が手に入るらしくてさ、その宝具は飛躍的に戦闘力を高めてくれるんだ」


 神が作り出したと言われる宝具をアステカがどうやって集めたのか知らないが、昨日チンピラ冒険者が使っていた斧の宝具から分かるようにその性能は計り知れない。

 夜見が守ってくれなかったら恐らく形も残って無かっただろうな、あの宝具からはそれ位の魔力を感じたから。


「ダンジョンを攻略する理由はわかったがその間お前は何処に行くつもりだ?」


「それは……言えない。悪いけど皆を危険に晒す訳にはいかないんだ」


 俺は俯いて言葉に詰まってしまう。

 白銀魔法の存在は安易に知られたらいけない物だと言われたし、何よりあの空間で何が行われるかわかったもんじゃない。


 俺がチラリと夜見を見ると「しょうがないのう」と言いたげな顔をしてから口を開いた。


「悪いがの、こやつの言う通りにしてはくれんかの?言ってる事に嘘偽りは有りはせんよ」


「その間の白の身に何か有ったらどうするんですか!またいつ茨姫が襲ってくるか分からないのに!」


 ルウが夜見に悲壮な顔をして抗議する。

 ごめんな、ルウ…そんな表情をさせてしまって。

 俺は途端に胸が苦しくなりルウの顔を直視出来なかった。


「安心せい。妾が責任を持って守ってやろう」


「安心出来ませんよ!まだ貴方と出会って間もないんですよ?それなのにまた白を危険に晒すなんて…」


「ルウ…俺は、大丈夫だ。昨日だってしっかり帰ってきただろ?それにルウまでこっちに来ちゃったらノア達が危ないだろ。ルウはこの中でも屈指の魔術師なんだからさ」


 俺は興奮気味のルウを両手で優しく掬い、なるべく優しい顔でルウに頼み込む。

 ルウが攻略について行ってくれるだけで不測の事態にはある程度対処出来るはずだから…


 やっと大人しくなったルウを机の上に降ろしてやり、俺達は食事に手を付けた。

 出来立てとは言い難いがジーニャが一生懸命作ってくれた料理は心に染みる美味しさだった。


 食事が終わり夜見と風呂にも入った俺は色々残りの家事を済ませ、部屋で就寝の準備をし始める。


「のう、お主よ。みなお主想いの良い輩ばかりじゃの」


 夜見はジーニャから借りたパジャマに身を包み、ベッドに腰掛けながら俺に話しかけてくる。


「そうだろ?皆仲間想いのいい奴らだよ。ルウもな…最初会った時とか喧嘩ばっかりでさ」


 俺は一足先に毛布の上で丸くなってるルウにハンカチを掛けてやり、半年前の事を思い出す。


「今からは考えられない話じゃな。物凄く仲がいいではないか」


 夜見も興味有り気な顔で俺の話を聞いてる。


「何が起こっても言い合ってばっかりで、でも俺達はこの世界で身寄りが無いからな、俺はルウを頼ったしルウも俺を頼るようになったんだ。だからかな、俺はルウの事が大事で心配で…ルウも俺の事を心配してくれる……結局の所似た者同士なんだよ」


「妾は結構驚いたんじゃぞ?お主が妖精と一緒にいる事な」


「え?何でだよ」


「大半の冒険者は妖精の事を下に見てるのでな、妖精も人間には心を開きにくいのじゃ。所謂犬猿の仲って奴じゃ、じゃからのお主らは常識を覆す存在になり得るかもしれんの」


「ふっ、買いかぶり過ぎだ」


 俺はつい笑いが漏れてしまう。

 俺もルウも入あとの平和な日常を望んでるだけだよ。


「くふふ、そうかもしれんの」


 夜見も顔を笑顔で染めてニコニコしている。

 そんな夜見の頭を軽く撫でて俺はベッドに潜り込む。


「そろそろ寝るぞ。明日から本格的に始まるんだろ?」


「そうじゃ、そうじゃ。覚悟しとくのじゃぞ?」


 夜見は笑顔で俺の横に潜り込んできて俺の腕を枕にして目を閉じる。夜見の温かい体温を肌で感じながら俺は深い眠りに落ちた。


自分で読み返しててちょっと面白いのが腹が立ちます

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